表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
新たな事件
55/149

気が付いて

最初に思ったのは埃臭いということだった。次に板の上に転がされているのだと気が付いた。

ぼんやりとした視界でははっきりとここがどこなのかわからなかったが、丁重な扱いをされていないこともわかった。

リリアの目が不自由だということを知っているのか、逃げることができないと判断してのことかわからないが、縄などで手足を縛られていることもない。ただ床の上に転がされている状態だ。

起き上がって辺りをぼんやり見渡すも、あまり広い空間ではない。

薄暗い空間のため、何か物が置かれているのかも定かではないが、耳を澄ませても近くに人がいる音も聞こえなかった。

「とりあえず状況を整理しないと」

何が起こったのかさっぱりわからない。

ウォルスター公爵家からの帰り道、馬車が速度を落とし始めたことからもうすぐフラクトル家に到着するのだと思ったリリアだったが、突然馬車が急停止して御者の言い争うような声を聞いた。

はっきり見ることができないリリアは、外に出るのは危険だと判断してじっとその場を動かないようにしていたのだが、突然扉が開かれると黒い影が2つ馬車の中に入ってきたのがわかった。

声を出すよりも先に口に布のような物を押し付けられて両手を掴まれた。咄嗟に抵抗しようとしたが、暴れるよりも先に体の力が抜けていくのを感じたのを覚えている。口に押し付けてきた布に何かの薬品をしみこませていたのだろう。急激な睡魔とともに意識を失ったリリアはその後のことを何も覚えていなかった。

気が付けば板の上に転がされていた。

「周りの確認をしておきましょう」

そう呟いて目を閉じると魔力を目に集中させた。

ゆっくりと開かれた瞼の先にはっきりと板の壁が視える。

自分の力だけで視るという行為は久しぶりだ。魔力が視えるリリアは、放たれている魔力を確認することができるが、自分の目に魔力を集中させることで周囲を視通すこともできるのだ。

はっきり視ることができるのだから普段からしていれば他の人たちと変わらない生活をすることができるのだが、この方法には限界があることもわかっていた。

魔力が尽きれば視えなくなるし、集中力も相当使う。気が逸れてしまうと途端にぼんやりとした視界に戻ってしまうのだ。そのため視ながら何かをするというのは大変なことになる。

特別に視なければいけないときだけ使うことに決めていた。

特に物が置かれているわけでもなく、大人が5人ほど横になれる程度の狭い部屋であることを確認するだけとなった。

扉は1か所。窓はあるが背丈よりも高い場所に1つあるだけ。薄暗いことから、もう夕暮れも過ぎてしまった時間だと思われた。魔力を解いて扉に近づくとドアノブに触れてみた。

どういうわけか鍵がかかっていない。

そっとドアを押してみると簡単に開いてしまう。魔力を再び集中させて恐る恐る顔を覗かせると、広い部屋につながっているのが確認できた。

テーブルに椅子が3つ。暖炉が備わっていて、隅に荷物らしき袋がいくつか置かれていた。

人の姿はなく、少し前まで人がいたのか暖炉の火が小さく燃えているのがわかった。

「どうしたらいいかしら」

状況が全くわからない。

誘拐されたことは理解しているが、なぜ攫われなければいけなかったのかわからない。それに今は完全に放置されている。

確実にリリアを狙っての犯行ならば、今日ウォルスター公爵邸に行くことを知っていた人間が犯人なのかもしれない。または、ウォルスター公爵の不手際として公爵を陥れたい誰かの犯行とも考えられる。公爵が襲われたことと関連しているのかもしれない。どちらにしても今のリリアでは判断できないことだ。

それにしても堂々と攫ったように思う。犯人は誘拐のリスクをわかったうえで行ったのか疑問だ。

「身代金目的?」

それにしては今の自分の状況がぞんざいに扱われすぎている。人質ならそれなりの扱いがあるのではないだろうか。

攫われたにもかかわらず放置されている。鍵もかけられていないことからどうぞ出て行ってくださいと言わんばかりだ。もしかすると知らない場所にリリアを捨てることが目的なのだろうか。

「とりあえずは、ここから逃げるのが先決よね」

ここで考えていても答えに辿り着くことはできない。

今は誰もいないが犯人が戻ってくる可能性もあるのだ。見つかる前に建物から離れたほうがいいだろう。

おそらくリリアの目は何も見えていないと思っているのだろう。だからこそ、縄で縛ることもせず鍵をかけずに見張り役さえいない状況になっている。

油断してくれている今のうちに姿を消すのが一番だ。

場所はわからなくても、犯人の手からは離れておきたい。

外に出るための扉を見つけて歩き出そうとした時、外から物音が聞こえてきた。

リリアを連れ去った犯人が戻ってきたようだ。あれこれ考えるよりも先に行動するべきだった。

今さら後悔しても遅い。とりあえずここにいるのが見つかるのはまずいだろう。いったん転がされていた部屋へと戻った。

どうするべきか考えていると、数人の足音が聞こえてくる。それと同時に男の声が聞こえた。

木の壁は薄いようで、声を簡単に拾うことができたのだ。

「このまま放置しても問題ないと思うがな」

「目が見えないお嬢様じゃ、何もできないだろう」

「ここに置いていくんじゃなくて、森の中に捨ててきた方が見つかる可能性は低いだろうな」

会話の内容から、リリアのこの後の処理について話しているようだった。どこかの森の中にいるようで、ここに小屋があるとはいえ、あまり人が来る場所ではないらしい。置き去りにされてしまえば見つかる可能性が低いと考えているようだ。

「しかし、美人だったな」

「どうせ見つからないで捨てるだけの女だ。捨てる前に楽しむのもいいかもしれないな」

「それはいい考えだぜ」

「あんな上玉抱けることなんてそうそうないだろうし」

背筋がぞくりとするのを感じた。自分の体を抱きしめるように腕を交差させる。男たちの声から3人であることはわかったが、彼らの話している内容が、リリアのこの後の状況を示唆していた。

ここにいればどんなことになるのか想像すると、寒いわけでもないのに体が震える。

「しっかりしなきゃ」

とにかく逃げなければ、男たちが戻ってきたことでドアから逃げることが出来なくなった。残されたのは窓だけ。だが、リリアの背丈よりも上にある窓は明り取り程度の小さな窓で、通り抜けられるかぎりぎりの大きさだった。

窓によじ登ってすり抜けるだけの技術をリリアは持っていない。

「魔法が使えたら・・・」

魔力はあるが、リリアは治療や浄化ができる浄化師だ。攻撃的な魔法が使える魔術師ではない。自分の無力さに落ち込みそうになる。

再びドアに視線を向けるが、部屋を出て男たちを倒して逃げるだけの武術も持ち合わせていない。逃げた途端につかまって、男たちに弄ばれる未来しか想像できなかった。

「絶対に嫌」

ぎゅっと手を握りしめる。

「アルベルト様」

婚約者の名前を呼んでも助けに来てくれるはずもない。彼はリリアが攫われたことさえ知らない可能性がある。フラクトル家の目の前で攫われたため、家族はきっとすぐに気が付いてくれただろう。だが、アルベルトまで情報がいっているとは限らない。

もう一度会いたい。婚約が継続になったことを心から安堵してくれた。自分を心から受け入れてくれている彼にまだ話していないこともある。それ以外にも一緒に出掛けたり、何気ない会話を楽しみたい。

もっと一緒にいたいのだ。ここで諦めてはいけない。

気を抜くと再び震えそうになる体を叱咤して、再び逃げる方法を考え始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ