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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
魔気の侵食
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浄化師ケイン

朝食を済ませたリリアは、仕事に出かける兄を見送ってから自分も出かける準備を始めた。

出かけるレイルは気まずそうな雰囲気が声に混ざっていたが、リリアは明るい様子で送り出しておいた。

「エル、今日は動きやすい服装と、髪も軽くまとめてほしいわ」

「承知しました」

すぐに用意されたのが緑色の服だった。今は夏なので全体的に明るめで新緑をイメージしたらしい。

「サイドの髪を後ろでまとめるようにしますね」

「髪留めは」

「わかっています。バラの髪留めを使いますね」

エルはお見通しだったようで、アルベルトからプレゼントしてもらった髪飾りを用意してくれた。

リリアのお気に入りだ。

「お嬢様、ずっと同じものを使っていますと、周りからこれしか持っていないと思われてしまいますよ。もうそろそろ、新しい物をウォルスター様に買っていただいた方が良いのでは?」

「そんな、我が儘」

「婚約者なのですから当然の権利ですよ」

異性との付き合い方などほとんどわからないリリアは、プレゼントを1つもらっただけで十分に思っている。髪飾り以外にも香油も買ってもらったが、それは湯浴みの時に使っていた。

世間一般の貴族の婚約者はもっと色々と贈り物をもらっているのだろうか。同世代でこんな話ができる友人がいないので聞くに聞けない。

今度母やメリーナに聞いてみることにしようと密かに思うのだった。

「はい、できました」

「ありがとう」

準備が出来たところで部屋の扉がノックされた。

「お嬢様、お客様が到着されました」

「ありがとう、今行くわ」

ちょうどいいタイミングで来てくれた。部屋を出て客間に行くと、すでに相手はソファで寛いでいた。

「お久しぶりです。ケイン様」

「定期健診に来たわよ」

いつもの神官の服に低い声で跳ねるような張りのある声は変わらない。

魔力を体に纏わせた男性は近づいてきてリリアの顔を覗き込んだ。

「特に変わったところはない?」

「いつも通りです」

「それじゃ、座って診させてちょうだい」

細身で物腰が柔らかく女性の話し方をするが、ケイン=ラリットは正真正銘の男であり、神殿に仕えている浄化師でもある。男性にしては羨ましいくらいサラサラの金髪に青い瞳がリリアの上から下まで確認する。

彼は魔術師団長のイグナスと親交が深く、イグナスを通して父のオルファとも友人だ。今では親友と呼べるほどの間柄で、リリアの目の秘密を知っている唯一の神殿関係者でもある。

リリアは定期的に目の調子を診察してもらうため、ケインに診てもらうようにしていた。

表向きはそれで通っているが、実際は魔力が視える目の診断と、浄化師としての力の訓練が目的なのだ。

浄化の力を持っていても、力の使い方を知らなければ上手く治療をしたり浄化をすることはできない。

ケインはリリアにとって浄化師としての師匠でもある。

「異常はなさそうね。魔力の視え方も変わりはない?」

目は弱視のままぼんやりと視えている程度。魔力の方はケインがはっきりと視えている。

「変わりないです」

「それじゃ健診はこれで終わりにしましょう。浄化の訓練はどうする?」

体の違和感などもないか健康観察もしてもらうと、最後に力の訓練をするのがいつもだ。

だが、浄化師としてのリリアは今では安定的に力を使いこなせるまでになっているので、時々確認の意味を込めて訓練をする程度になっていた。

「今日はやめておきます」

「それじゃ、あたしの仕事はこれで終わりね」

「帰りの馬車を手配しますね」

入り口に控えているエルに声をかけると、彼女はすぐ部屋を出ていった。

「あら、いつもならお茶の一杯も出してくれるのに、今日はやけに早く終わらせるのね。そういえば、おめかししているみたいだし、出かける予定でもあったの?」

定期健診が終わると、いつもであればお茶を飲んで最近の神殿での出来事などをケインから聞くことが多かった。しかし、今日はお茶を飲んでいる暇はない。

「実はこの後出かける予定があるんですけど、ケイン様をお送りする途中の寄り道をしたいんです。一緒に付き合ってもらえませんか?」

リリアの誘いに数回瞬きをした彼はふと不敵に笑った。

「へぇ、珍しい。なにかしら」

こんな誘いは今まで一度もしたことがない。それでもリリアが幼い頃からの付き合いをしているケインは何か察してくれたようだった。

「いいわよ、付き合ってあげる」

詳しい内容を聞く前に彼はどこか楽しそうにそう言った。


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