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二十四話:彼女は、血の中で微笑んだ

 持っているガンドが無属性だと分かっていた信乃が、この場で一番最初に違和感に気が付いていた。


 最初の雷魔法は理解出来た。ガンドから出ている時点でおかしなものではあったが、彼女の魔物としての雷魔法が、たまたまそこから出たように見えただけとも言えたからだ。

 だが次の水属性魔法を放った時点で、信乃の知っていたこの世界の魔法法則が破綻していた。


 人や魔人が使える属性数の限度は二つ。

 魔器の魔法と、自分の魔法だ。このルールが揺らいだことだけは、これまで一度もなかった。


 しかしあの魔人の少女は、ガンドの無属性魔法とは別に、既に雷、水、さらには土の魔法まで放っている。


(なんだ、あの魔人は。魔法攻撃力自体もおかしい……一体、何の魔物の力を取り込んでいる……!?)


 少なくとも、信乃はそれほどの数の魔法属性を行使できる魔物の存在など知らない。

 だが、それは魔人達にとっても同じ認識であったようだ。


 少女はとどめを刺さんと、ゆっくりと串刺しにされて動けない竜女へと近づいていく。


「ぐ……キラーホーク! デンリュウを助けるゲロよ!! あの魔人を攻撃するゲロ! 『ライジング・ボルトレーザー』!」

「あ、ああ! 『グランド・ロックバースト』!」


〝ライジング・ボルトレーザー

 魔法攻撃力90

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:720〟


〝グランド・ロックバースト

 魔法攻撃力:100

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:800〟


 少女の進行を止めんと、ビリガエルと鳥男が共に彼女へ向けて最大威力の魔法を放つ。


「限定顕現――イカロスの書。『ギガント・ウインドシールド』」


〝ギガント・ウインドシールド

 魔法攻撃力:280

 威力階級ギガント:×4

 シールド補正:×2

 属性相性有利:×3/2

 魔法威力:3360〟


 だが、彼女は今度は風の盾でそれらを容易く防いでしまう。


「ひ……風、属性まで……!?」


 結果として、それは彼ら自身を更に怯えさせてしまう結果となっただけだった。

 妨害を防いだ少女はまた、何事も無かったかのように竜女へ近づいていく。


 竜女の顔は引き攣り、まだ無事だった右手に持つブレード・ガンドを向けていた。


「ひ……来るな、来るなよ。この――化け物おおおおおおおおっ!! 『メテオ・フレイムバースト』!!」


 それに対して、少女はまた無表情のまま赤いガンドを向けて魔法を唱えるだけであった。


「限定顕現――クビラノタチ。『ダイダル・アクアスラッシュ』」


〝メテオ・フレイムバースト

 魔法攻撃力:120

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:960〟


〝ダイダル・アクアスラッシュ

 魔法攻撃力:280

 威力階級エクスプロージョン:×8

 属性相性有利:×2

 魔法威力:4480〟


 赤いガンドの刃を振り、そこから発生した強大な水の刃は、竜女の炎魔法諸共彼女の身体をバターのように容易く両断。それきり、彼女が動くことはなかった。


「い、嫌だ……勝てるわけがない。ビリガエル! 私は逃げるぞ! 帝国に報告してくる! 『旋風蹴り』!!」

「お、おい! 無謀だ、待つゲロよキラーホーク!!」


 恐怖の余り、鳥男はとうとう冷静な判断が出来なくなってしまったのだろうか。

 洞窟の天井を掘り、空からの脱出を試みる。しかし、その速度は余りにも遅い。


 少女は、必死に天井を掘り進む鳥男に向けて赤いガンドを向ける。


「限定顕現――アグニボウ。『ギガント・フレイムアロー』」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


〝ギガント・フレイムアロー

 魔法攻撃力:280

 威力階級ギガント:×4

 属性相性有利:×2

 魔法威力:2240〟


 放たれた炎の矢によって、鳥男は一瞬で焼き尽くされた。



 □■□



 あっという間に魔人を三体も屠った少女は、最後にビリガエルへ視線を向ける。


(……ああ、ここまでゲロね)


 最期を悟ったビリガエルは、不思議と静かな心境だった。

 どうやら、恐怖すら通り越してしまったらしい。


 全ての魔法属性を行使し、如何なる魔法に対しても属性相性有利をぶつけてくる謎の怪物。詳しい数値は分からないが、どうにも魔法攻撃力自体も滅茶苦茶に高いようだ。

 魔人の二属性持ちという強みが全く生かせない。対抗策はおろか、逃げられる選択肢すらない。


 絶対的強者。そんな言葉すらが頭に浮かんでしまった。

 この身体が、本能レベルで「勝てない」と痛感しているようだった。


 一瞬だけ、同じように呆けてしまっている神杖の勇者を見る。


(神杖の勇者、有麻信乃。お前、取り返しのつかないものを目覚めさせてしまったのかもしれないゲロよ)


 自分が抱いている感情が、憐れみや心配に近いものだと気付き、少しだけ驚く。

 有麻信乃。やはりビリガエルは、この男が嫌いではなかったらしい。


(止まっていた方が、何もしない方が幸せなことだってあるゲロ。お前はこれからも、きっと地獄を見続けることとなるゲロよ。……それでも、お前は進むゲロか?)


 少女が近づいてくる。ビリガエルは少し笑い、せめてもの反撃の魔法を放つ体勢に入った。


(なら、精々あの世で見物させてもらうゲロ。……お前の旅路に、呪いと祝福があらんことを)


「『ビリねんえき』!!」

「限定顕現――グラディウス。『ライジング・ボルトスラッシュ』」


 彼が最後に見た光景は、眩く光る巨大な雷の刃だった。



 □■□



 魔人を倒し尽くしたその少女は、今度は信乃の元へと駆け寄ってきた。


 今度は自分が殺される番だろうかと危惧した信乃であったが、それは杞憂に終わる。

 少女は信乃の前で立ち止まると、こちらをその赤い瞳でのぞき込み、少し心配そうに問う。


「……大丈夫?」

「あ、ああ……」


 思わず、そう答えてしまう。


「……そっか」


 その時、信乃は彼女の身体に起きている異常に気付いてしまう。


 その皮膚のあちこちが裂け始め、そこから血が滲み始めていたのだ。


「お、おい! お前……!?」


 その痛みがどれほどのものだったのか、信乃には分からない。

 

 だが、無表情だった彼女は初めて、微笑んでいた。


「……よかった」


 それはまるで、初めて出来たことに心底安堵するかのように。

 こんな自分でも、誰かの役に立てたのだと、心の底から喜ぶかのように。


 信乃は、彼女へ手を伸ばす。


 直後、あちこちで広がった裂傷から勢いよく血を吹き出し、彼女は倒れてしまった。

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