二十三話:運命との邂逅
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「……っ!」
息を、呑んでいた。
薄暗い洞窟の、魔晶石の青い明かりに照らされた最奥部。
魔人達に追い詰められ、ぼろぼろだった信乃の前に、突如その少女は眩い光の中から現れたのだ。
齢にして十六、七程の女性の身体をしてはいるものの、その頭部の左右斜め上からは、二本の黒く長い角が禍々しく生えている。
「……魔、人……」
――それは、死神だったのだろうか?
それでいて、その長い銀髪は光を受けて幻想的な煌めきを放ち、その下から覗く布一つ纏わない肢体は驚くほど白く美しかった。
しかし、その銀髪の一部分はまるで血が流れているかのような深紅で、更には身体の所々に文様のようなものが描かれている。
閉じられていた目がゆっくりと開き、磨き上げられたルビーのような、赤く美しい双眸が彼を捉える。
そこには、魔晶石が青く煌めく洞窟内の幻想的光景すらも霞ませてしまうような、この世のものとは思えない美貌があった。
――それとも、天使だったのだろうか?
「おまえ……は……?」
信乃はガンドを向けたまま、神杖を持つ左手に力を込め戸惑いの声を投げかける。
「……そう。あなたが、神杖の勇者。ずっと、待っていた」
恐ろしくも美しすぎる魔人は、神杖を見ながら凛とした涼やかな声を発した。
「どうか許されるのならば、この怪物の命を使って欲しい。私と共に……世界を救って欲しい」
――これが、運命との邂逅。新たなる希望と、大いなる罪の始まり。
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「いたゲロ、神杖の勇者!! 今度こそもうどこにも逃げ場は……っ!?」
ビリガエル達もすぐにやってきたが、見せていた歓喜とは一転し、言葉に詰まっていた。
追い詰めたと思っていた信乃の後ろに、全く予期していなかった新手の姿があったからだ。
「……魔人。勇者を傷つける、敵」
少女は歩き始め、ガンドを向けている信乃に警戒する様子もなくその脇を通り抜けると、彼が先程の光でのけぞった拍子に落としていたらしいもう一つのガンドを拾い上げる。
「コアとしては申し分なし。少し、借りるね」
「おい、お前……ぐっ!」
止めようとした信乃だったが、傷の痛みで動けなかった。
「大丈夫だよ、あなたは休んでいて。何もしなくていい」
そんな彼を、少女は無表情のまま見て、語りかける。
「彼らという魔人を、私という魔人が裁く。ただ、それだけのことだから」
そして少女はガンドをゆっくりと魔人達に向けてかざし――詠唱した。
「我が血を喰らえ、我が血を喰らえ。我、命を喰らい蒐める者。我、泉に沈み込み、力の価値を問い続ける者。造りしは数多の像、示すは数多の意味。今、その魔泉の蔵をここに――『フヴェルゲルミル』」
途端に、彼女の持っていたガンドに赤い結晶が張り付き始め、形を成していく。
銃身が伸び、更には先端に刃のような形も付き、ブレード・ガンドに近い形状となった。
「完全顕現、不可。汎用媒体、形成。限定顕現、準備完了。……無闇に殺したくはない。でも彼を傷つけるのなら、私が相手になる」
「……ウ、ウガー!!」
突然凄まじい量の魔力が湧き上がり始めた赤いガンドを見て何を思ったのか。一瞬怯えるような動作をした泥人形の魔人が、ブレード・ガンドを向けて彼女へ襲い掛かる。
「ま、待つゲロ! まずは様子を……!」
「『ギガント・アクアスラッシュ』!!」
ビリガエルの静止も聞かず、水属性の魔法の斬撃を放つ。
それに応じて、少女も動いていた。
「限定顕現――ライジンツイ。『ギガント・ボルトインパクト』」
「ゴオオオオオオオッ!?」
彼女の赤い結晶で覆われた無属性のガンドが激しく帯電し、雷撃を叩きつける。
相性有利となった彼女の魔法は泥人形の水魔法をいとも容易く打ち破り、その体の半分以上を粉砕していた。
〝ギガント・アクアスラッシュ
魔法攻撃力:80
威力階級ギガント:×4
魔法威力:320〟
〝ギガント・ボルトインパクト
魔法攻撃力:280
威力階級ギガント:×4
インパクト補正:×1.2
属性相性有利:×2
魔法威力:2688〟
「――」
まず、信乃はその魔法攻撃力の高さに愕然としていた。
しかし、どうやら「ラタトスク・アイ」を持っていない魔人達はそれに気付く様子はない。
「ゴ……ガ……『サンドイート』」
泥人形は周囲の岩を取り込み、回復しようとする。
だが、またすぐに少女は赤いガンドを向けていた。
「限定顕現――トリトンスタッフ。『ギガント・アクアストーム』」
〝ギガント・アクアストーム
魔法攻撃力:280
威力階級ギガント:×4
魔法威力:1120〟
「……は?」
――この時点で、まずは再び信乃が唖然とした声を上げる。
大きな水の渦が発生し、取り込んでいる最中の岩もろとも泥人形を呑み込んでしまう。
「ゴ……オ……」
回復も虚しく、彼の身体はすべて崩れ落ち、消滅してしまった。
「う、うそ……クレーマンが、こうもあっさり!? くそ……水と雷の使い手だってんなら、あたしのエクスプロージョン級にも匹敵する雷魔法……それも最大限に魔力を込めていくわ! 属性相性有利魔法でもない限り、これを止められるとは思わないことね!! 『ドラゴンサンダー』!!」
〝ドラゴンサンダー
魔法攻撃力:120
威力階級エクスプロージョン:×8
魔法威力:960〟
今度は竜女の魔人が、今までで一番大きな雷竜を放つ。
それに向けて、また少女は赤いガンドを向ける。
「限定顕現――タイタンランス。『グランド・ロックジャベリン』」
「……え?」
ここに来て、ようやく魔人達も「おかしい」ことに気付く。
〝グランド・ロックジャベリン
魔法攻撃力:280
威力階級エクスプロージョン:×8
ジャベリン補正:×1.2
属性相性有利:×2
魔法威力:5376〟
赤い銃口の魔法陣から現れた巨大な岩槍が凄まじい速度で飛び、属性相性有利である雷竜を紙屑のように貫通。その延長線上にあった、竜女の竜の左腕を一瞬で壁に串刺しにした。
「ぎゃああああああ!! ひ、左腕が、あたしの左腕が!! な、なんで、どうして……!?」
「う、うそだ……こんなの、おかしい。何なんだ、あの魔人は……!?」
それを見ていた鳥男が、怯えた表情で首を振る。可視化は出来ていないおかしな威力そのものに驚いたのではない。彼らが抱いた底知れない恐怖とは――
「――どうして、二属性以上の魔法を行使している……!?」




