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二十二話:もう、貰っていた

 そこには祭壇も無ければ、何らかの魔器も置いていない。

「ここまでだ」と言うように、壁が立ち塞がるだけだった。


「……そん、な……」


 あっさりと最後の希望も砕かれ、急に身体の力が抜けてしまったのように信乃はへたり込んでしまった。


『お前には今の世界を救うことなど出来ない!』 

『いつまで古い夢物語を思い描いているゲロ、偽物の勇者? お前にはもはや力もないし、お前に裁けるような明確な悪(魔王)も、お前が守るべき味方(人間)も、もうこの世界にはいないんでゲロよ?』


 追い打ちをかけられるように、嫌な言葉ばかりが頭に浮かぶ。


 ――ここまで、なのだろうか。


 結局はこの世界にもう勇者など必要はなく、信乃には意味も価値も無かったのだろうか。

 やはり信乃という人間は、空っぽの、誰かの偽物でしかなかったのだろうか。


「俺は……一体、何の為に……っ!」

 

『――ねえ、忘れないで信乃。あなたはあの日、紛れもなくあなたが、あなたの意志で神器に触れて――勇者になったんだよ』


 俯き、諦めかけた信乃の頭に、全ての言葉をかき消す声が響いてきた。


「……あ」


『私は、元の世界のあなたを知らない。でも今のあなたなら知っている。あなたは弱虫なんかじゃない、臆病なんかじゃない。いつか世界を救う、本物の勇者なんだってことを』


 ロアだ。彼女の最後の笑顔が、最後の言葉が、鮮明に脳裏に蘇ってくる。


『信じてる。あなたは私の見つけた、最高の勇者だってこと』


 何も出来ないのだと思っていた。何も変わっていないのだと思っていた。

 だがそんな信乃は、あの言葉を聞き届けて今もここにいる。


 彼女は、信乃の弱さを知った上でも尚、彼を強いのだと言ってくれた。

 認めてくれて、信じてくれたのだ。


『大丈夫、信乃にならきっと出来るよ! 私、ずっと待っているからね』


「……っ!!」


 ――今でも分からないけれど。時折立ち止まってしまいそうになる時もあるけれど。


 それでも精一杯の力を振り絞り、信乃は再び立ち上がっていた。


「……ああそうだ、そうだったな。お前はもうとっくに、意味も、価値も、貰っていたんだろうが。何を今更弱気になってんだ……」


 所詮、何も出来ない偽物の勇者なのかもしれない。

 そもそもこの世界は、救いなど求めていないのかもしれない。

 

 だが、それがどうした。 


 出来ると言って貰えた。

 お願いと言って貰えた。


 何もなかった信乃を本物の勇者だと呼び、助けを求めてくれた人は確かにいた。


 それだけで、戦うには十分過ぎる理由だ。


「……上等だ。俺は勇者になる。敵が強すぎる? 人からも見放されている? 結構。それでもまだ何も終わっちゃいない。ならばここから誰も思いつかないような、この世界を救う超逆転劇を考えて、見事に起こしてしまえばいい。空っぽだからこそ、俺の全てを、存在そのものをこの長い戦いに捧げよう。偽物だからこそ、誰にも予想出来ない、俺だけの結末をもたらそう。――今度こそ、しがみついてみせろよ……有麻信乃!!」


 心には、再び火が灯っていた。

 その目はしっかりと現実を見据え、それでも再び歩みを進める。


 そろそろ、魔人達が来る。

 信乃は入り口側から死角になる物陰へ移動し、ガンドを構える。


 魔力が少しだけ回復し、辛うじて「エクスプロージョン・バースト」一回は撃てるかもしれない。

 この狭い洞窟内であれば、固まっているところを奇襲すれば一網打尽に出来るかもしれない。

 成功率は極めて低いが、やらないよりはいい。


「……ありがとう、ロア。情けない俺でごめんな。……でも、もう俺は諦めない。最後まで、足掻いてみせるから」


 最後に形見のガンドへ向けて微笑みかけてから、気を引き締めて――


『――目を覚ましてください。時は満ちました。運命は、とうとうあなたを迎えに来たのですよ』


 ――その時、もう魔力が空だったはずの神杖が、眩い光を放った。


「……っ!? な、なんだ……!?」


 光は収束し、一筋の線となって行き止まりであるはずの洞窟の壁を指し示す。

 光が当たった壁は、突然ヒビが入り、すぐに崩れ落ちていく。


 そこから、まだ先へ続く新たな空間が現れる。


「……隠し、通路……?」


 信乃は、まだ魔人達が来ていないことを確認してから、瓦礫をくぐり更に奥へと進んでいった。



 □■□



 隠された通路を進んだ先には、今度は大きな部屋に繋がっていた。


 地面、壁、天井、そのあちこちに大小様々な青く光るクリスタルが埋まっていて、洞窟の中だと言うのにとても明るい。


「魔晶石……こんなにたくさん」


 そして何より目に付くのは、部屋の真ん中に置かれた、信乃の背丈よりも大きな血のように赤い岩だった。


「……これ、は……」


 まるで何かに導かれるように、信乃はそれに近づいて触れる。


『――その人はきっと、私を憎むのでしょう。あなたはいつか、何もかもを思い出し、嘆くのでしょう。それでも、私はこの決断を悔やむことはありません。……祈ります。あなたに祝福があらんことを。あなたが……許され、幸せに生きていけることを』


「ぐっ……!」


 ――その瞬間、岩はまばゆい光を放ち始め、信乃の視界を覆った。

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