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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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八話 割れた玻璃8


「彩夜」


部屋で1人、ぼーっと過ごしていると聞き慣れた声が降ってきた。


「結、おかえり」


「うん」


調子はまだ戻っていないらしい。ずっと無表情のままだ。


「結は何したい? せっかくの休日だよ。なんか遊ぼうよ」


「なんでもいい」


結が話題を出すから今までは会話が途切れることはなかったけれど、今の結にそれを求めるのは難しい。結果、会話がほとんど続かず私は困っていた。


「彩夜」


「! なに?したいこと思いついた?」


「彩夜が・・・欲しい」


私が欲しい? 何度かその言葉を頭の中でぐるぐると回した。意味がわからない。


「奏さんにもだれにも邪魔されたくない。取られたくない」


向けられた目は酷く辛そうだった。


「結? なに言ってるの?」


邪魔ってなんだろう? 取られたくないって?だれがとるの?


「彩夜芽さん、お茶を用意しませんか?」


「あ、はい」


葉さんが来てくれた。近くにはいると言っていたから何か察して来てくれたのだろう。


「星が用意してくれているところなので取りに行ってもらえると助かります。部屋の場所を伝えていないのでその辺りで彷徨っていると思いますので」


「わかりました」


突然のことでなんなのかわからない。星くんに聞いて見ようか。それとも陸様に頼ろうか?


なんとなく、逃げるようにその部屋から抜け出した。






彩夜は葉の言った通りに、というより乗っかった感じで部屋から逃げていったように見えた。


「結理様、あんな言い方をしては怖がられますよ」


「怖がられる?」


「例えば・・それが思い合っている2人ならば気持ちを伝える言葉をして十分かもしれませんが、2人は違うでしょう? 彩夜さんが兄のように見てるってあなたが言ったんですよ。兄弟のような関係だと思っていた人にああ言われては混乱するに決まっています」


確かに、桜や友梨に同じようなことを言われたらびっくりして混乱するだろう。


「気持ちを伝えればちゃんと受け取ってくださるはずです。ただ、もう少しわかりやすく伝えましょう。あれは真っ直ぐに伝えすぎです。大事な部分が伝わっておりません」


「大事な部分?」


「色々含め、なにを言いたかったのですか?」


彩夜を見ていたらなんとなく溢れた言葉だった。結愛様に会って話して、一番欲しいものだと気づいたから。


「・・おれはかっこわるい」


「どうでしょうか?」


「だって、弟に当たって荒れて、年下の女の子に助けられるって・・・・本当かっこわるい」


それが想っている女の子となればなおさらだ。なんだか嫌になってくる。


「ならば、今からかっこ良くなる努力をしては?」


「優理の方がそういう素質はあった。大人びてて器用だし、なんでも・・・簡単にこなしていくって言うか」


足りないところをさらっと補ってくれていた気がする。


「比べなくて良いですよ。優理様は優理様、結理様は結理様です。それぞれ良いところがあるのですから」


それらしく取り繕って言うのは得意だけれど、自分の気持ちを話す経験がほとんどなくて方法がわからない。


「一番は怖がられないようにするのが大事かと。自分の気持ちを伝えた上でどうしたいと思っているのか、そこは普通に婚約者とかでしょうか?」


現代人の彩夜に婚約とか言ってもだめだろう。あの時代での結婚なんて考える時期は今の年から10歳くらい上だから、わからないと言われて終わりだと思う。


「その辺りの考えは・・8歳くらいだと思ってる?」


付き合うくらいなら理解してくれるだろうが、おれの欲しいのはそういうものではない。

学生の薄っぺらいそんな関係ではなくて、ただ、そばにいてくれる確証が欲しいのかもしれない。

ずるい自覚は十分ある。重い自覚も、それでも・・。


「婚約なんて言っても無理でしょうね。簡単に好きだとかの方がいいかもしれません。ずっと一緒にいたいとか大事にしたいと想ってる。通じるのはその程度かと」


そんな真っ直ぐ言えるだろうか? かっこわるいおれにそんな度胸があるだろうか?


「まあ、今は彩夜さんのことを考えましょう。ちょっと落ち着いてきたように私には見えますよ。うじうじ、じめじめしているよりよっぽどいいかと。一日中陽の当たらない湿った場所のような空気を出されていましたよ。苔が生えてナメクジが居そうなジメジメ具合ですね」


聞くとひどい。


「優斗になんて言ったらいいんだろう?」


「結理様、どうして私たちのことは疑わないのですか? 正直に言いましょう。兄上は憶測の部分もあると思いますがある程度のことをわかっていますよ」


「・・だって、陸はずっとおれの面倒見てくれてた。また戻ってきてからも自分には不利になるかもしれないのにおれ個人を思って動いてくれてる。おれは兄弟に対して怒ってるだけ」


陸は一度も優理と会えないなんて言わなかった。時が来れば必ず会えるからと言い続けていたのをなんとなく覚えている。


「一番文句を言ってやりたいのは優理。大人ぶって1人で勝手に動くところがある。ああいうところは本当に嫌い」


こっちがどんな思いをしたのかわかって欲しい。一言、言ってくれればちゃんとわかってそう振る舞ったのに。きっと今もどこかで元気に暮らしているのだろう。


「優斗には謝った方がいいかな。きっと優理のいう通りにしただけ」


「そうですね」


「優理はさ、おれのこと置いていくつもりだったのかな? 3人もいた男子がみんないなくなったら困るから、親のことも忘れて言われた通りにここの子として育つ、すぐ忘れてしまうおれは置いていくつもりだったのかな?」


葉に聞いてもわかるはずがないのに。


「どうでしょうか? でも、それをやったのが7つにもならない子供だったことは忘れないでくださいね」


優理は全て覚えていた、と仮定するならばここでの生活はつらかっただろう。


「じゃあ優斗の方がわるい。あいつ13歳?」


「結理様は兄ですよ。できれば弟のすることは大目に見てあげてください」


「・・兄って損するだけだ」


今まで兄らしいことなどほとんどやってきていないけれど、兄だからという理由で弟には優しくしなければいけないなんていうのも納得いかない。


「いえ、弟の可愛いところが見れますよ。あと、本人は覚えていないような恥ずかしい失敗だって大人になってから話すこともできます。ちょっとしたやり返しにいいですよ」


「あいつらの名前には優しいが入ってる」


「何かを考えた上でやったことですよ。それをわかった上で喧嘩するのは私は構いませんから」


「やっぱり陸も葉も流も信頼できる」


みんな人間味のある自分でいてもなにも言わない。表に立つ時だけ、隙を見せないようにしなさいと言われるだけだ。


「お茶持ってきました。入ってもいいですか?」


彩夜が戻って来たらしい。


「どうぞ、入ってください」


彩夜は動揺はなくなっているけれど、何か様子がおかしい。部屋に入ってくると持ってきたお盆を机に置き、なにやらおれの方へ近づいてきて・・


「さっきはびっくりしたの」


「言い方が悪かったって葉に怒られたところです。こちらこそ・・!」


柔らかい感覚に包まれる。金色の髪が顔に当たる。なぜか彩夜に抱きしめられていた。


「その・・、疲れてるんだよね? 疲れた時はぎゅーに限るかなって。結にはしてくれる人いないんでしょ?」


思考が止まってしまったのは仕方ないだろう。状況を理解すれば、この距離のせいか羞恥心かで顔が熱くなっていく。


「安心するでしょ? これからね、ぬいぐるみも作ろうと思ってるの。私の部屋にもあるでしょう? ふわふわのあんな感じのやつ、ぎゅってするとなんか落ち着くよ?」


「え」


葉を見れば隠すこともなく、くすくす笑っている。


「だから、なんの形が良い? 動物? 私は可愛い系が好きだけど結はかっこいい系の動物が良い? それともシンプルにまるとか?」


彩夜には何の悪気もない。だからやめてくれと言っても何のことかわかってくれないだろう。


「彩夜さん、それくらいにして差し上げてください。結理様はもう子供では無いのですからぬいぐるみは恥ずかしいそうです」


「そうなの?」


葉が助け舟を出してくれた。これに乗っかるしかない。


「気持ちはありがたいけど、抵抗が・・」


「そっか」


ちゃんとわかっているのだろうか? いや、わかっていないのだろう。わかっていれば抱きついたりしないはず。


「彩夜」


「なあに?」


「あんまりくっつくものじゃないって説明したよな?」


「それは普通、でしょ? 私も外ではそんなことしないよ? 疲れた時は別じゃない?」


どう説明すれば良いのだろう?


「誰にでもするわけじゃないよ? それでもだめだった?」


「部屋の中なら良いのでは?」


葉がしれっとそういった。明らかに面白そうにしている。


「葉!」


「結理様もそれが良いでしょう? 私たちは大歓迎ですけれど?」


どうしたものか。彩夜は状況も葉の意図もわかっていないだろう。正直、知らないふりをして止めるのをやめてしまいたい。


「結、私たぶん結愛様と会ったよ? きれいな人だね。すれ違ったからただ挨拶だけしたの」


それと・・と彩夜は一度廊下に出て、何か引っ張ってくる。


「結、動かないでね?」


彩夜がやったとして精々いたずら程度のことだろうといわれた通りにした。


「まる、いけ!」


白い毛玉が飛び出してきて、ぼふっと顔に埋まってきた。息がしづらい。


「彩夜さん、その・・目的は?」


葉がかわりにおれの疑問をきいてくれる。


「私の生まれた所ではアニマルセラピーっというのがあって、動物と触れ合うと癒される?みたいな意味だったと思います」


「なるほど、確かに良いかもしれませんね。生き物ですけれど人間でないというところが」


ポメラニアンのモフモフふわふわの毛をわさわさする。


「お馬さんのところに行くのも良いと思いますよ。私は犬より馬の方が好きなんですけど・・」


思いつく限りの癒される方法をやってくれたのだろう。おれが精神的に疲れているのを分かった上で。


「彩夜さん、本当にこちらへ来ませんか?」


「え?」


「私たちは大歓迎ですよ。なんなら家で暮らしますか? 兄に聞けばすぐに許可は下りると思いますよ」


少しだけ、冷たく固まって苦しくなっていたものがほぐれた気がした。








読んでいただきありがとうございます。

この辺りまでは書きやすかったのですが、この後がなかなか続いてくれません。

また書き次第投稿したいと思います。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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