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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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二話 先生の家2


「それで、怖がらせたって? だから私はこれに彩夜ちゃんのことを言わなかったのよ」


「ほら、いつまでも隠せないしそろそろ良いかなーと」


「俺の方が付き合い長いのに、どうして二人ともそんなに冷たいのかなー?」


「そうだったかしら? 成雨も私も彩夜ちゃんとの付き合いの方が長いわよ。忘れたの? ボケたの?」


「わぁー、辛辣。ひどい」


成雨さんと燈依先生の関係とはまた違った関係に見える。棘があるような言葉ばかりだけれどそれだけじゃない。


「成雨さん、ご飯の数多く無いですか?」


私は先生達が話しているあいだ、茶碗にご飯をついでいた。ここにいるのは4人と1匹だけれどお茶碗は5個用意されている。間違えたのかな? それと夏牙の分?


「1人午後から休みでそろそろ帰ってくるんだ。だからあってるよ」


「ちょうど帰ってきたみたいよ。今度は普通の子だから安心して」


がらっと玄関の扉の開く音がした。


「ただいまー。わあー、部屋から出てくるなんて珍しい。彩夜ちゃんもいるんだー」


若い女の人だった。燈依先生よりも若く見える。この人も私のことを知っているらしい。


「初めまして。桐花(とうか)です。みんなは桃って呼ぶの。好きな方で呼んでね」


「とうかって言われたら桃の字が出てくるでしょう。それで桃って呼び始めたのがきっかけなの」


桃と呼ばれるのもわかる気がする。桃の花のようにふんわりしてて可愛らしい人だ。


「桐花さんですね。初めまして」


「とうかって呼んでくれるのは彩夜ちゃんだけなんだよー」


のんびりでマイペースな人らしい。







今日もいい天気なのに、木の香りのする部屋に陸監視の元で閉じ込められ机と向き合っていた。


「はあぁー」


筆を持ってはみたものの進まず、結局置いてため息をつく。さっきからその繰り返しだ。


「どうしました? ため息ばかりですよ」


陸が用事で席を外している間に葉が話しかけてきた。葉も兄が怖いのかおれのやる気がない時は何も言わず、気分転換の誘いもしてくれない。


「それもダメだって言う?」


「他の方がいるところではやめてくださいね」


ここでは良いということだろう。


「葉、どうしても漢字だけで書く文も覚えないとだめ? 読めなきゃダメ?」


「公的文書はこちらばかりですよ。藍国は平仮名混じりも普通にありますが、本州に近い国ほどそちらに近い文化を持ってますから」


最近やっと平仮名をスラスラ書けるようになり、これから日常で使う漢字を覚えようかとしている時に漢文の宿題を出されてしまった。しっかり現代に染まってきているらしく、漢字だけの文章は違和感がある。


「読むだけでも一苦労なのに書くなんて」


「あんまりぐちぐち言うようでしたら兄上を呼んできますよ」


「あー、それだけは!」


「わかってます。兄上からは止められているので本来は言ったらいけないことなのですが・・」


葉がまじめな顔になる。今度はなんの話だろうか? さっさと継げとでも言うつもりだろうか?


「そろそろ結理様の元服の話が出ています。覚悟しておいた方がいいと思います」


元服、つまり成人のことだ。その年齢は男子ならば大体12〜15歳。ちょうどおれくらいの年齢で結理様には少し遅いくらい。


「どうにか理由つけて遅く・・なんてできないよな」


「無理でしょうね。体調でも崩せば別かもしれませんが」


「結理様って今までどうしてたことになってるの?」


それによっては遅らせる理由も見つかるかもしれない。


「それがちゃんとした発表はまだされていないんです。こちらとしてはどうしようかと考えているところでしょうね。ただ長く放置しているので色々な噂は飛び交っています」


そもそも結理様ではない結理様になっている説、事件に巻き込まれ行方不明になっていたが今になって発見された説、諸々の事情で表に出てこなかっただけでひっそりと暮らしていた説・・なんかがあると葉が続けた。


「それもあって元服してお披露目することで本物なんだと言いたいのでは?」


「まあ、物心ついた頃には入れ替えられてるんだから本物といえば本物だけどな」


両親とはもちろん顔も性格も似ていない。そこから疑われたっておかしくはない。


「どうであれ、今回は逃げられても長くは逃げられないと思ってください。早めに覚悟を決めてくださいね」


成人してしまえばどんなことを押し付けられるかわからない。おれはそう思っている。


「三葉に手を貸したことを後悔されてますか?」


「いや、あーいう状況になって一番に困るのは端っこの村で暮らしてる子供だから。それを身をもって知ってるから何もしないなんて無理だし、後悔もしてない」


動いて決めていくのは大人だけなのに、何かあった時に一番皺寄せがくるのはいつも子供なのだから世の中嫌なものだ。


「それと、北側で不穏な動きが」


「・・戦いでも起きるって?」


ここ10年ほどそういうことが全くなかったわけではない。実際にどれだけぶつかったかは知らないけれど戦が起きそうだとは何度も聞いた。


「そういうのは嫌だから」


「好きで戦を起こす人なんてほんの一部ですよ」


「もっと平和的に解決できないの? 例えばじゃんけんとか。もしくは模擬戦でもいいじゃん。代表同士がしてそれで勝った負けた決めるの。平和じゃない?」


そしたら誰も傷つかずに済むのに。杏と華鈴も怪我をせずに済んだのに。


「それで済んでいればとっくの昔に戦なんて無くなっていますよ」


「そうだよな」


「自分で変えてみてはどうですか? あなたなら何かできると私は思いますよ」


「そう?」


まだ文字もまともに書けない自分がそんなことをできるとは思えない。


「おれ・・ここ継ごうかな。それでもずっと陸と葉とみんな助けてくれる?」


継ぐのが一番これから暮らしやすいのはわかる。でもそれでもいいかなと思ったのはそれだけではない。


「もちろんですよ。私たちはずっとあなたに支えるつもりです」


「あ、でもまだはっきり決めたわけじゃないから絶対陸には言わないで」


陸が聞いたら継ぐので決定されかねない。そして宿題もさらに増やされそうだ。


「わかってますよ。少しでもそう思ったなら字くらいちゃんと覚えてくださいね」


覚えるのは苦手ではない。少しずつ毎日覚えていくしかない。


「果物でも持ってきますね。少し離れますけどサボらないでくださいね」


「はーい」


葉が部屋から出たのをみて筆をもつ。今は文字の練習だけにしてくれているのは十分優しいのだろう。本来なら行方不明だった7年分をこれからの数年でやってしまわないをいけないのだから、もっと厳しくてもおかしくない。


陸達がここまで付き合ってくれている。できるだけそれに応えたいと思ってしまった。










結理様がまた机に向き合うのを確認してそっと扉を閉じる。


「兄上、盗み聞きとは趣味が悪いですよ」


「私は何も聞いてない」


部屋から出た時にはすでにちょうど扉に隠れるように居たのだから聞こえていたはずだ。


「あいつはどうしてああも疑うんだろうな?」


「意外と自信がないのかもしれませんね」


こちらはずっと昔に仕える覚悟は決めている。家のことなんか関係なく大事な存在なことを結理はわかっていないのだろう。


「嬉しかったですか? 可能性は出てきましたよ」


「教育係失格だが素直に喜べない」


兄の方がずっとそばで見てきている。そのぶん思い入れも強いのだろう。


「最近、特に頑張っていますよね。宿題以外にも自分で勉強しているようですし」


「無理しすぎないといいが」


少し危うく見えるのだ。咲く寸前の花の力強さと散る前の儚さを合わせたような。


「街にでも連れていくか」


「流も言っていましたが、やっぱり甘いですよね」


「弟にも優しくしてるだろ」


怖く見えるだけで実は優しいのがこの兄なのだ。私たち弟や結理様達が揃って迷惑をかけ苦労しているのも見た目が怖い理由でもあるかもしれない。


「結理様に付きっきりでなく、兄上もたまには家族に何かした方がいいですよ。奥様に逃げられても知りませんからね」


そしてとても不器用なのだ。きっと今だってそれは困ると頭を悩ませている。


「結理様、褒めたらとても喜びますよ」


さらに悩むであろう兄を置いて約束の果物をとりに向かった。








        ・         ・         ・






「彩夜ちゃん、わからないところがあったら私が教えてあげるからね」


「桐花さん、勉強得意ですか?」


「中学校のならわかるの。英語だってできるんだよ?」


「へー」


「あー、彩夜ちゃんかわいい!」


桐花さんも他の人とは違った意味でまた個性的かもしれない。ふわふわしているようで反論できない強さがあるというか。


「ありがとうございます」


「ここは年寄りばっかりでつまんないから毎日でも入り浸っていいからね」


「年寄りって誰のことを言ってるの?」


燈依先生の顔が怖くなる。


「成雨様と露優、玲優。あとそこの変人?」


「桃、燈依の方が年齢は上らしいよ。てことは燈依も年寄り・・」


「いや、女の子は永遠に少女ですから!」


「せーいーう?」


「桃、それはずるいって。あ、いや、ろゆれゆの仲間にされたくないだけだって。決して燈依のことを言っているわけではなく・・」


ここの一番上に立っているのは燈依先生らしい。次に成雨さんか桐花さんだろうか?


ろゆれゆさん?にはまだあったことがない。どんな人なのだろうか? 成雨さんより年齢は上らしいからもっと存在感のある人かもしれない。


「楽しそうですね」


「・・・楽しくないわよ」


「そうですか?」


するとふわっと一瞬冷たい空気が吹いた気がした。


「エアコン?」


いや、付いてない。窓も特に開いてないのに一体どこから風が?


「燈依・・落ち着いて」


「落ち着いてるわよ。いつか氷漬けにしてあげるわ」


どんどん気温が下がっていく。遊園地にあるようなマイナス何十度の部屋がこんな感じだった気がする。最初は涼しいけれど途中でとっても寒くなる。


「まあ、やれるものならやってみればいい」


「あのー、彩夜ちゃんが凍えそうですよー?」








読んでいただきありがとうございます。

前回の投稿からかなり時間が立ってしまいました。次のお話はもう出来上がっているので早く投稿できると思います。

今回はほのぼのとした先生の家でのお話の続きでした。もう少ししたら先生の登場が増えてくる予定です。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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