第65章(完結)
四月。結局、僕の体は百七十七センチ、七十三キログラムまで大きくなっていた。
僕の部屋に置かれたトロフィーや写真の後ろ、新聞記事の切り抜きが飾ってある。
聖沢学園、完封で甲子園の切符。小さな大投手、一人で投げ抜く。
聖沢学園、初戦突破。エース村上、自ら二打点。
聖沢力尽きる。小さな大投手、完投するも……
それを見て少しだけ寂しくなった。もう、小さな大投手とは呼ばれない気がしたから。ガラスケースに反射した、慣れないスーツ姿の大投手。
「拓、入るよん」
「俺が返事してから入れよな。ノックの意味ないだろ」
「えへへー、ごめんね。おー、スーツもかっこいいじゃん。これが早く見たかったの。あ、ネクタイ曲がってる……ほら」
「いいよ、自分でやるよ」
「だめ、ちょっとはお姉ちゃんに甘えなさい」
「はいはい」
「入学式のプログラムとか全部持った?」
「大丈夫だよ。子供じゃねえよ」
「むー、いくつになったって拓はお姉ちゃんの弟だもん」
「……ふふっ」
「な、何よっ」
「いや、たしかにそうだな、って。お姉さま、これからもよろしくお願いします」
「ふ、ふにゅん……もー可愛いなあ、拓大好きっ」
「それ、頼むから外では言わないでくれよ」
「わかっておる。さあ、いざ行かん入学式」
「ずっと前からの疑問だけど、その喋り方は何なんだ」
姉と一緒に野球ができるのは、まだ先になりそうだ。次はプロの世界で会おうぜ、なんて言っていた健太も、当然ながら二軍スタート。
こんなことを言ったら姉は怒るかも知れないが、これから先の舞台でも大投手でいられるとは思っていない。多少伸びたとは言え、今の体だって大きいわけじゃない。
でも、僕はもう一度、本気で野球をやってみようと思う。指導者になるのはその後でいい。
だって僕は追い越してしまったから。今の僕はもう、姉より大きな大投手なんだから。
あんなに眩しかった憧れよりも。
(終)
お読みいただき、ありがとうございます!作中で1試合しか書いていないのに、結構な文章量になってしまいました。
昔に一括でアップした分があまりに読みづらく、言葉が足りないところもありましたので、章立てや改行の他にも今回いろいろと加筆修正しております。
分割アップ途中、アクセス数が見たことないような凄いことになっててかなり驚き、これは誤字なんかできないな……と緊張感ある校正ができました。皆様には重ねがさね感謝の気持ちでいっぱいです。
作品についてのご感想やお叱り、誤字脱字のご指摘などありましたら、いつでもお待ちしております!




