第50章
よろよろと背走する詩織。しかし緊張からか、途中で打球を見失ってしまっている。
姉が右翼から「バック、もっと後ろ」と叫んでいるが、まずい。落ちる、と思った瞬間、中堅から走ってきた蘭ちゃんがトップスピードのまま、お手玉しながらも捕った。
ファインプレーだけど、走者は一斉にタッチアップで走っている。一点は確実だ。蘭ちゃんはへろへろの球を遊撃の佐伯さんに返すが、あまりにも弱々しい。
それを見た二塁走者の森田は三塁も蹴った。普通なら暴走だ。佐伯さんは素早い動作でバックホーム、しかし外野に寄っていたためかなりの遠投になる。山なりの球は、幸い真っ直ぐホームまで向かってきた。愛ちゃんが捕球姿勢に入り、森田が走り込む。アウトのタイミングだが、またクロスプレーだ。
突っ込んでくる森田を、愛ちゃんは完璧なブロックで跳ね返した。途中で回り込みが頭にちらついたからか中途半端になった森田のスライディングでは、愛ちゃんを微動だにさせられなかった。愛ちゃん強い。
「あー、くそっ」
森田が吐き捨ててベンチに戻った。でもどこか嬉しそうなのは、愛ちゃんのぷにぷにボディに触れたからか?
小さい頃は僕もあの弾力に跳ね返されるのが楽しくて、よく愛ちゃんに体当たりしてたな。
何はともあれ、みんなの頑張りで七回は一点に抑えた。あとアウト六つ、リードが二点。追加点が欲しい。




