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第41章

 四回表。六番、伴からの下位打線を、姉は速球だけで三者三振にとった。バントの構えを完全無視、できるもんならやってみろという速球。


 ただ、もう右脚の踏ん張りが効かないのかフォームに投げ急ぎの兆候が出て、球が上ずってきている。どこまでもつか。


「へっへー、どいつもこいつもただの案山子ですなあ」


 そう言いながら姉は汗を袖で乱雑に拭いた。ベンチに戻ってくるスピードを見ても、本当は余裕がないのがわかる。


「姉、まだいけそう?」

「当たり前田のクラッカー。ん?ああ、さゆは今のギャグに関係ないから反応しなくて大丈夫だよん」


 前田が遠くから返事してたけど、ひょっとして前田って天然?


 四回裏。打順は九番の蘭ちゃんから。悪くない。塁にさえ出れば何とかなる。後続の二人なら、前に飛ばすのは難しくない。


 蘭ちゃんはまた、がくがくしながらベース寄りに立った。森田は苛立ったのか、速球を内角に投げつけ、蘭ちゃんは体を捻って背中で受けた。ベンチに悲鳴が響く。


主審が死球をコールしても、蘭ちゃんは動かない。僕が慌てて立ち上がった時には、もう長谷川がコールドスプレーを持って駆けつけていた。ああ、そうだった。長谷川はついこの間までマネージャーだったんだ。


「蘭ちゃん、大丈夫?動ける?」長谷川は優しい声で、うずくまった蘭ちゃんに話しかけていた。


 そうだよな。野球部時代、長谷川が誰に対しても優しかったのは嘘なんかじゃないよな。


 僕が遅れて蘭ちゃんに声をかけると、「だ大丈夫でひゅ」という微妙な返事がきた。


 無死の走者が一塁、しかも超速の蘭ちゃん。打順は一番、佐伯さん。森田は蘭ちゃんを牽制。僕が言うのも何だけど、もう二盗を刺すのは諦めたほうがいいと思う。僕と健太のバッテリーでも何割刺せるだろうか。


 初球、蘭ちゃんは走った。ウエストボール、すかさず上本が二塁へ送球。バッテリーにミスはなかったがセーフ。もはや絶対領域。


 もう愚痴も言わなくなった森田が二球目、また蘭ちゃんが走りウエスト。今度は微妙なスタートだった。


 すると佐伯さんが飛びつくようにボール球を打った。みんなボール球を打つのは姉の影響か?このチームは常識外だ。


 打球は牽制に備えて空いた一二塁間へのゴロ。二塁の伴が何とか追いついて捕ったが、少しもたついたせいで投げられない。蘭ちゃんは三塁コーチの詩織が大声で止めた。


 内野安打で無死一三塁。大チャンスが来た。


 さっき似たような状況から変な形で一点をもぎとったが、今回は無死だ。同じように蘭ちゃんが飛び出したら三重殺になってしまう。


 打者の桐谷さんは融通がきくけど、走者が蘭ちゃんだからスクイズのサインは出せないな。叩きつけてゴロにするか、浅めでもいいから外野に打ち上げるか。併殺でも一点入れば上出来だ。


 初球、二球目と外れてボール。甘い球が来てもいいカウントだ。三球目、カーブを空振り。桐谷さんはスイングの途中で当てにいくのを意図的にやめたように見えた。なかなか慎重だ。四球目、速球をファール。バックネットに飛んだ。


 ツーボールツーストライクからの五球目。カーブをぎりぎりまで待って打ち返した。打球はまたライナーで一塁へ。しかしこれはワンバウンド、捌いた中井は素早く一塁を踏んで二塁へ送球。


「伴、タッチ」


 指示を受けた伴は走ってくる佐伯さんにタッチして併殺。その間に蘭ちゃんはホームへ。

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