第29章
僕が言った直後の初球、痛烈なライナーが三塁線へ。
と思ったら前田がラインぎりぎりに飛びついて捕った。三直。前田はボールを回してから帽子を拾い上げ、何事もなかったような表情で被り直した。
「さゆナイスプレー」
「さゆちゃんかっこいー」
「まだツーアウトだ、引き締めて」
前田は厳しい口調で周囲を諫める。さすが氷の女王、頼もしい。相手ベンチからも拍手が起きていた。たしかにあれは男も惚れる。ショートのポニーテールが舞っていた。
三番の森田。体格がいいし不用意にいくと危険だ。愛ちゃんはリズに低めを指示、ボールボールストライクで少しばらついた。
リズは左打者に対して、いつも投げづらそうにする。慣れていないせいか苦手意識があるようだ。四球目、森田は山を張ったのか、やや早めに始動してフルスイングしかけたが、タイミングを外されて腰砕けの空振り。
今日初めて投げたチェンジアップだ。この球だけは試合で使える段階まできた。メジャー投手の標準装備だ、とリズに説明したのが効いたな。
「くそ、何だよ、球種あんのかよ」
森田は空振りで少し気を悪くしたらしい。それを見たリズは、アイドルみたいな仕種で微笑んだ。愛ちゃんがうまくリードしてくれている。結局、インハイに手を出させて三振にとった。
三者凡退はできすぎと言っていい。リズがいち早く、手を振りながらベンチに帰ってくる。
「ヤッホー、タクマ、私すごい?」
「うん。完璧なスタートだよ」
「うふふ、嬉しい。私、次も頑張るよっ」
「村上、あの」前田が無表情のまま、横から僕の腕をつついてきた。
「二番打者のことか?」
「え……うん。なんで引っ張ってくるって読めた?」
「ネクストでタイミングの取り方を冷静に計ってたし、たしか俺、中学時代にあの人と対戦してたからな。一回だけだったと思うけど」
「……そんなのまで、覚えてるんだ」
「捕ったのはおまえだよ。ナイスプレー」
前田は無表情で打席の準備のために去って行った。照れてるのかな。




