第23章
解散になり、蘭ちゃんはうちまで約束のPSPを取りについてくることになった。長谷川は僕と姉に「私、絶対一番になりますから」と悲壮感あふれるコメントを残し帰っていった。チームメイトを刺すのだけは勘弁してほしい。
「姉、長谷川だけど……大丈夫かな?」
「大丈夫。遥ちゃんが頑張りすぎて体壊さないように気遣ってあげなよ。遥ちゃんの原動力は、拓を好きな気持ちなんだから」
「うん……」
「さてと蘭ちゃん、私たち自転車だけど、うちまでついて来れるかな?」
「は、はい」
蘭ちゃんは家まで余裕で走ってついて来た。走るフォームが本当に美しい。
「じゃあ私、部屋から取ってくるね。ちょっと待ってて」玄関前で僕と蘭ちゃんは待つ。
「蘭ちゃん、疲れたろ?」
「はあ、はあ……んん、ぼくは大丈夫だから」
「え?今、ぼくって」
「わあっ。あ……違、ままま間違えました」蘭ちゃんの顔が一瞬で火照った。
疲れて油断したのか、素のちょっと痛い部分が出てしまったようだ。何となく、いつも物静かなわけがわかった気がした。
「す、すびばせんよよ用事を思い出したので帰りましゅ」蘭ちゃんが走って逃げ出しかけたので、気配を察知して事前に回り込んでおいた僕は手首を掴んで止めた。
「大丈夫だから、ちょっと待ってなよ。もうすぐPSP来るから」
「お願いします誰にも言わないでください、て言うかもう私のばかばかばか」
「いやそんな、俺は気にしてないから。別にいいじゃん、個性だろ?一人称なんて。うちの姉だって、俺と二人の時は自分のことお姉ちゃんとか言っちゃってんだぜ」
「え……ぼくって言うの、変じゃないですか?」
「他の人はどう思うか知らないけど、俺は別に」
「あ……あの、えと、たた拓馬さんの前では自分のこと、ぼくって言ってもいいですか?」
「全然。いいよ」
「あ、あ、あのっ」
蘭ちゃんはポケットから手紙を出して、お辞儀するようにしながら僕に差し出してきた。ひょっとしてラブレター?
「急にすみません、あの……受け取って、ください、ませんでしゅかっ」
蘭ちゃんの手と声はかわいそうなくらい震えていて、顔は下を向いて見えないけど、耳なんか火で炙られたようになっている。
「うん……ありがとう。ちゃんと読むよ」
僕はそれを受け取り、姉がどたどた階段から下りる音が聞こえたのですぐポケットにしまった。
「蘭ちゃん、待たせてごめんねー。ほらこれ、パワプロ入ってるから」
「難易度を下げて何回か試合モードやってみたら、野球の流れとか覚えられると思うぜ。なあ姉」
「まあ完璧に知ってなくても別に野球できるけどね。私だって実際よくわかってないとこあるし」
「姉はベースの踏み忘れと走者追い越し、現実で何回かやらかしてるもんな」
「あれって、どうなるんだっけ?」
「……後でまた教えるから。蘭ちゃん、返してくれるのはいつでもいいよ。えーと、ここから帰り道わかる?」
「あ、わ、わ、ここよく走ってるんで大丈夫です。ありがちゅ、ごじゅる……失礼しまふ」
蘭ちゃんは逃げるように走り去った。
「蘭ちゃん可愛いわあ……お姉ちゃんも、あんな妹ならほしいなー。拓もそう思う?」
「まあ、ちょっと変わってるけど……素直だしいい子だよな」




