第19章
「この中で一番野球が上手い奴、もしくはこのチームで一番成長した奴こそ、拓の彼女に相応しい。私に認められたいなら練習なさい。下手くそなままで拓に手を出したら、私が抹殺してやる。二度と拓に近づけないようにしてやる。以上。はーい、じゃあ今日も軽く走って体操からねっ」
何事もなかったように、いつもの姉に戻った。
むちゃくちゃにも程があるやり方だが、姉としては長谷川に対する牽制のつもりだったんだろう。結果的にみんなに好きと言われたのは僕も複雑だけど、これで長谷川の暴走を姉が抑えるという構図はできた。自分が悪者になることで解決を図るという、泣いた赤鬼のような戦術だ。
みんな軍隊みたいな硬い動きでランニングと体操を終え、キャッチボールに入った。まだリズと蘭ちゃんは泣いている。今日は十一人になったこともあって、姉のキャッチボール相手が僕。
「あんな感じで、どうかな」姉が近づいてきて小声で僕に囁いた。
「……目的はわかるし、気持ちも嬉しいんだけど、やりすぎって言うか状況がさらに複雑になってないか?」
「いいじゃん、これでみんな頑張って練習するだろうし」
「なんか俺、みんなに気まずいんだけど」
「実際みんな拓のこと好きなんだから、気まずいのは仕方ないね」姉は平然と言った。
「仕方ないって、おい……」
「で、拓は誰がお好みなのかな?」
「いい加減にしろよ」
「ま、いいや。ほら、投げるよん」
姉が投げる球は異常に正確なバックスピンで飛んでくる。教科書のようなオーバースローからのフォーシームは、球速よりはるかに速く見えて浮き上がる。僕より身長が一センチ高いだけなのに、ずっと大きい。
ちゃんとケアするようにしてから膝の調子も良いみたいで、今日の遠投は八十メートル近くも距離をとった。横目で見ると、隣の長谷川は眼の色を変えて必死に投げていた。
もう少し視野を広げ全体を見ていたら、みんな恐怖や緊張というよりは真剣な表情になっていて、姉の言葉を本気にしているのだと感じる。え、みんなこれ、本当に僕が目的なの?
守備の練習。まずキャッチボールの二人一組のままで、お互いの足元にボールを転がし合ってゴロ捕球から送球までの流れをおさらい。姉と僕は指導役。
愛ちゃんと前田は送球も含め安心できる。長谷川や双子も野球の動き自体に慣れている。テニスの二人は送球に繋ぐ動作が少しもたつくが、一つ一つの動きは正確だし身体能力も高い。
問題は未経験の三人、三田村とリズと蘭ちゃん。三田村は姉と前田に指導を受けていたので、僕はリズと蘭ちゃんの謎コンビのそばへ歩いて行った。




