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第17章

「拓?いいよ入って」

「姉、ちょっとあの、相談いいかな」

「だめなんて言うと思ってる?可愛い可愛い弟の悩みだもん、何でも来なさいな。さては恋の悩みだね?」

「うん、まあ、それはそうなんだけど……」


 僕は長谷川のことをありのまま話した。秘密にしておこうかとも思ったが、草野球の練習にも来るって言ってるし、その前に僕の精神がやられてきつつあるので話さないわけにいかなかった。


「……そんなことがあったんだ。まあ、あの子はそんな感じだろうとは思ってたけどね」

「本当かよ?いつ、そう感じた?」

「まあ、直接話したのは数えるくらいだけどさ、女子のネットワークってやつ?遥ちゃんはすごくいい子だけど、誰の前でも完璧な自分でいようとしてストレス溜め込んじゃうタイプだね、たぶん。拓のこと好きなのに、自分はマネージャーで誰かを贔屓したりしちゃだめだ、って思いすぎて雁字搦めになって、拓が引退して毎日会えなくなったら病んできちゃったんじゃない?」

「たしかに、言われてみたらそんな感じかも。前は普通だったし……」


 姉は僕が本気で話すことには本気で考えて、答えてくれる。こういう時は本当に心強いと思う。


「俺、どうすべきかな?正直、長谷川の気持ちに気づいてたのにずっと見て見ぬ振りしてた自分も悪い気がして」

「拓は遥ちゃんのこと、好きなの?」

「……前は可愛いと思ってた。でも今はそれより怖い。何しでかすかわかんないし」

「お姉ちゃんは、遥ちゃんはいい子だと思うよ。そんなになるほど好きでいてくれるって、凄いことだと思う」

「そうかな」

「もし遥ちゃんが一方的に思いつめてるだけなら、しばらく一緒にいてあげれば落ち着いてくるんじゃない?」

「じゃあ、草野球の練習観に行かせてもいいかな?」

「全然大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せといて」

「……本当に大丈夫かよ」


 僕が指導するようになって二回目の練習日。長谷川は出発の三十分前にうちの前まで来た。


「おはよー。遥ちゃんひっさしぶりー」

「わー、舞先輩おはようございます。もう膝はいいんですか?」

「愚問だね。私の回復力は五十三万です」

「何だよその数値」

「あ、先輩、おはようございますっ。えへへ」

「おはよ、長谷川。朝から元気だな」

「だって……楽しみにしてましたから」

「遥ちゃんは、野球はできるの?」

「え、トス上げたりとか、軽いキャッチボールくらいなら……私も選手なんですか?」

「まあ候補だね。今んとこ、みんながまともに野球できるわけじゃないし。できるよね?」

「は、はい」


 長谷川も選手?姉が何を考えてるのかよくわからない。でも企んでる。それは顔でわかる。

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