第14章
打撃はまあ、全体的にひどかった。とは言うものの、愛ちゃんと前田の経験者組は完全に異次元で、草野球レベルなら男に混ざっても間違いなく主力だろう。
愛ちゃんは高々と百メートルくらい飛ばすし、前田は全てのコースに対応できて、内角の引っ張りが素晴らしく上手い。常に打ちそうな雰囲気がある。
しかし他は、テニスの二人がやっと前に飛ばせるくらいで、三田村のスイングは良いが扇風機だし、後は全員、球への恐怖心が先立って打つどころじゃない。そこで僕が軽くトスした球を打ってもらうことにしてみたが、前に飛んだらハイタッチのレベルだ。
「はーい、じゃあ最後は整理体操。みんな、疲れを残さないようにしっかりやるよー」
「姉が一番しっかりやれよな」
しばらく休んで、姉の膝は落ち着いたらしい。心配かけるのが無駄に上手い。
体操も終わり、集合してまた輪になった。
「みんな、今日は拓、って言うか私の弟で、甲子園のスーパースターである村上拓馬くんが指導してくれました。どうだった?」
「さすがは小さな大投手ですわ。アドバイスが的確で、逐一感心しましたもの」
「こんな可愛い弟くんがいるんじゃ、舞も鼻が高いよね。いっつも自慢してくるわけがわかった気がしたよ」
「ふふん、みんな、次も拓が来てくれるからね。じゃあ、次の練習も参加して、くれるかなっ」
「いいともー」
「よーし、じゃあ解散」
わけわからん締め方で練習はお開きになった。て言うか俺、いつ次も参加するって言ったっけ?と思いつつ道具を片づけようとしたら、こっちにリズが向かってきた。
「ハーイ、タクマ」
「おつかれさまです」
「やん、敬語じゃなくていいよー。タクマ、私、ジェペーンのベイスボウも知りたくなったの」あれ、知らないのに批判してたのか?
「わかった。じゃあ、また教えるから」
「ほんと?ねえタクマ、それならケータイのアドゥレス教えてよ。いいでしょ?」
「ああ、全然。片づけ終わったら教えるよ」
「ありがと。それとね、また一緒に遊んだりもしたいの。タクマは嫌?」
「え、いや別に……いいけど」
「ヤッホー、嬉しいっ」
僕はボールの入ったバケツとバットを三本持った無防備な状態だったので抗えず、頬にキスされた。また動揺してしまった上に、今度はみんな見ていたから相当まずい。もちろん姉も見てた。
「こらあリズ、私の拓に何さらすんじゃあ」
「あら、私タクマのこと好きなの。私が何か悪いことした?」
「ぐぬぬ……私のほうが拓にチューとかいっぱいしてるもんっ」
「お、おい姉、何言ってんだよ」
「みんなに見せてあげる。ほら拓、チューよチュー。んー」
「やめろって。ほんとにやめろ」
「あら、舞ちゃんは拓ちゃんが本当に好きなんですのね。うふふ」
「あ、あのっ」そこに三田村が、上空から声をかけてきた。ほんとに高いな。
「私もアドレス、お願いしゃす」
「あー拓ちゃん、うちもうちも」
「えー詩織が言うんやったら、うちも」
「あの……わ、私も」前田まで。しかも顔が真っ赤だし目は泳いでいる。氷の女王はどこ行ったんだ?
「わかった、いいから、みんなとりあえず先に片づけようぜ。なっ」
僕も何が何やらわからない。そう言えば一年前、甲子園出場が決まった時もこんな感じの扱いだったが、僕みたいな野球ばか人間とメールして何が楽しいのか。
時刻はちょうど正午。僕は帰って勉強しようと思い、まだ同級生と話し込んでいる姉に「じゃあ俺、先に帰るから。おつかれ」とだけ言ってその場を後にした。
野球の指導者、ってのも悪くないか。そういうのを仕事にできたらいいかも。自転車で帰る道、僕は聖沢大にスポーツの学部があったことを思い出して、ちょっと調べてみようと考えた。




