第12章
「よーし、じゃあフリー打撃しよっ。みんなは練習してたポジションにいて、一人ずつ打席に立って自由に打つの。順番は……まず私からっ」自分が打ちたいだけだろ。
「じゃあ拓、投げて」
「はいはい」
僕はグラブを頭に被り、ボールの入ったバケツを持ってマウンドに上がった。マウンドと言っても、プレートが埋まってるだけで傾斜はないが。
「姉、バントからいく?」
「んーん、四番にバントなど要らぬわ」
「拓ちゃん、遠慮なく投げてきなよ」捕手が愛ちゃんだと実に安心感がある。
僕はまず、一球軽く投げてみた。ほぼ真ん中へ。
「だらあ」姉が奇声を発しつつフルスイングすると、強烈な打球が左翼線へ飛んだ。しかしファールだな。
「ちょっと、拓、あんなもんプロの球やない」
「いや練習だろ」
「ちゃんと投げてきなさいよっ」
「あいよ」
ちょっと頭にきた僕は、やや内角を狙って強めに腕を振った。球速は百二十キロ程度か。
「ぐわらきいん」またも姉は奇声を伴うフルスイング、今度はライナーで左中間を真っ二つに割った。嫌というほど知ってはいるが、なんて女だ。
「ふふ、拓もまだお子ちゃまね」
「じゃあ次は本気だからな」
「よかろう。来るがよい」
もう何でもいいや。僕はインハイに全力で投げた。
しかし姉はそれを強烈に引っ張り、柵があったら越えているであろう距離までかっ飛ばした。もはや化け物だ。ソフト時代から速球には異常に強かったが、これほどとは。
と半ば呆れて姉を見ると、少し顔を歪めて膝を押さえている。姉は余程の痛みでなければ、表情に出したりはしない。
「ね、姉、膝か?」
「……大丈夫。でも、ちょっと座って休もうかな、とか言ってみたりして」
僕は駆け寄り、姉に肩を貸した。
「え、いいよ。ほら、みんな見てて恥ずかしいし」
「ばか、無理すんなよ」
近くで見ると、姉は冷や汗を流していた。愛ちゃんと一緒に姉をベンチに連れて行き、休ませた。
「ごめんね。すぐ良くなるから」
「だから無理すんなって。愛ちゃん、適当に投手選んで練習続けてて」
「舞、拓ちゃん、ごめん。ちゃんとあたしがブレーキかけるべきだったわ」
「いや、悪いのは百パーセントこいつなんで。投手はコントロールの良い桐谷さんにやらせてあげて」
「うん、わかった」
愛ちゃんは練習に戻った。




