結婚式編 5
何事も計画通りに全てがうまく進むことはない。誰もが羨み、祝福した第三王子と侯爵家の娘の結婚であっても流れたのだから、世の中何が起こるのか分かったものではない。しかしだからといって、このようなことになるなんて、ザーマのお付きのメイドたちは思惑通りに運ばない事態に苛立った。
日没後、城内の武器庫、詰め所、北の見張り塔に火をつけることに成功し、続けて、城内にいた外国の騎士団たちを外に連れ出し、同時に彼らを脱走者だと触れまわった。これにより、城内にいた騎士団は外国の騎士団と正面衝突をして、火の手を消す人手が足りずに、城内は完全に混乱するはずだった。
だが、城内に規格外の連中がいた。若い女が一人で勢いのついた火を魔術ですぐに消火し、殺気立つ王国の騎士たちは一人の老人の一喝におびえ、ただただ、慌てふためいていた外国の騎士たちは一人の大きな男の姿を見ると皆落ち着きを取り戻した。騒動の最中に生まれた怪我人はほとんど出ず、出ても、すぐに老女の力であっという間に治された。
こんなはずではザーマ付きのメイドたちは歯ぎしりするようにその光景を眺めながら、それでも、抵抗するように洗脳した騎士たちを差し向けた。しかし、たった一人の男に何もできずに倒された。かくなる上は、全員が覚悟を決めザーマが幽閉された塔に向かう。
サダークの治療を終えて、ヒノクが屋敷に戻ると完全に夜が明けていた。ヒノクは治療の疲れと徹夜でとにかく眠かったが、屋敷でヒノクを待ち構えていた連中はそんなヒノクの様子など、はなから無視して言葉を投げかけた。
「ヒノ、王子はどうじゃった? 無事に治療は済んだか? ケガの大きさは? 暴漢とはいったい? 」
「ヒノ、王子様の容態は? 」
「ヒノ、何じゃ、眠そうな面して、王子は無事か? はっきり言わんか? 」
「ヒノク様、王宮の方に我が国の騎士団がいたはずですが、見かけておりませんか? 」
「っさい」
「「「ん?」」」
「うるさい! 良くなったから、戻ってきたの! 疲れてるの、眠いの! 分かった? お休み! 」
ヒノクは投げかけられた言葉に、自分の今を主張した。60を超えて一晩の徹夜はかなりこたえた。王宮では疲れも眠気も感じなかった体が用意された馬車に乗り込んで人の目から解放されると、隠していたその疲労や眠気を一気に全身に運び、それでも、何とか気合でここまで来たのに、ここに来てこんな言葉の集中砲火を浴びるとは、ヒノクは反撃の主張を返すと手近なソファに横になり、すぐに寝息を立てた。
その早業に、誰も何も言うことができず、バツが悪そうに周囲を見渡すと、ベスに寄りかかってニーナは既に夢の中、メイやノイエもうつらうつらとベスの傍に体を預けていた。悪魔はそんな彼女たちに毛布を運んできて、静かにそれをかけ、その場をうるさくしている英雄に非難がましい視線を投げる。
誰ともなく、小休止となり、休憩の必要がないニック以外は一旦眠りについた。皆が眠る間、ニックは一人で壊した扉を修理し、悪魔と一緒に料理も作る為に買い出しに向かった。ドラムの解任後、臨時の関所は解散し、いまだに物不足であるが、徐々に市場に物が並ぶようになった。昔に戻った気分で必要な食材を購入し、市場を回っていると、市場を行きかう人の話が聞こえてきた。
「北の方に新しい英雄が現れたそうだ、知ってるか? 」
「英雄? 本当か? 英雄って竜でも打ち取ったのか? 」
「いや、何でも亡くなったニック様が復活して、また希望を灯すために動いているらしい」
「それは、うそだろ」
「ほんとだって、リョーエン司教と殴り合って一歩も引かなかったらしい」
「ほんとかよ」
何か自分のことが噂されていると分かると、ニックはそそくさとその場を後にした。
2時間ほどして、昼を前に全員が揃った。ニックが豪快に切り、悪魔がきちんと味をつけたスープの匂いに、全員が空腹で目を覚ました。出来上がったスープは、実に滋味深く、優しい味わいで、疲れた体に染み渡るものであった。その、出来栄えもさることながら、ニックが作ったことにかつての仲間全員が驚く。
「美味しかったわ、兄さん、やればできるのね」
「うん、そうじゃな、ニック」
「本当に驚いてばかりです。まさか、ニックさんに料理ができるなんて」
「お祖父様、すごくおいしかったです」
「ノイエは偉いのぉ~、言葉に裏がない。」
「……、ねぇ、ベス、悪いんだけど、」
「ニックさん? これって一人で作ったの? メイちゃん、ニーナちゃん手伝っていない? 」
「いえ、私は眠っていて、お手伝いしてません」
「私も」
「私が味付けました。この人、なんでも、ぶち込めばいいって、味付けしないんですよ? 灰汁だって取らないし、美食の追求だって悪魔の仕事ですから、ほんとに信じられません」
「「「なんだ、やっぱり」」」
「黙っとかんか、悪魔! 」
「……、悪魔が一緒に料理、ニック、あの、今度一緒に、」
空腹が満たされて、頭が回るのに更に1時間はかかった。




