幕間 政務代行
「、く、きぃ、いけ、」
「はい! 聞いております。兄上! 」
メラクはサダークが力を振り絞り生み出す言葉を聞き逃すまいと口元に頭を近づける。その様子に気づいたものは、音を立てるのを、動くことをやめた。
全員が動くのをやめたわけではない。サダークの傍にいたある者は青ざめ震えながら何か力のある言葉を唱え続けていたし、別のある者は悔しそうに顔を背けるながら懸命に刺された場所を押さえて止血を試みる。
しかし、それ以外の少し離れた場所にいたものは全て口を閉じた。取り押さえられたイダンソは何かぶつぶつとしゃべり続けているが、すぐにその口に何かが詰められて黙らされた。そのほかの者は、乱入者である4人も、ザーマも誰も話すことはなかった。
「い、いか、……、」
「はい、はい! そのように、約束いたします。」
「……、た、たのむ、」
「はい! 必ず、必ず、そのように、ですから、あ、兄上? 兄上! 兄上!! 誰か、早く医者を! 」
「お待ちください!」
わずかに一言、二言をメラクに伝えて満足したのか、サダークは最後の言葉を言うと、ぐったりとそれ以上動くことはなくなる。メラクは部屋にいるもの全てに聞こえるような大きな声でそのサダークに呼びかけを続け、周りの者に医者の手配を指示する。
誰もが動くとができない緊迫した状況の中で、メラクの指示に一番初めに動いたのは、サダークの側仕えであったコーショウであった。彼は、メラクの傍により、震えた声でメラクに意見する。
「早く、医者を! 医者に診せねば、兄上が、兄上が死んでしまう!」
「落ち着いてください! 王子は、メラク様になんと託されたのですか! 王子のことは私が見ます! メラク様! いえ、メラク王子! 今この場であなたがすべきなのは何ですか! 」
コーショウはとにかく大きな声で、メラクを怒鳴りつけるような勢いで言葉を投げつける。それは、例えに憎まれたとしても、やらねばならない諫言、心からサダークに、王家にお仕えするという気持ちがあるコーショウだから口にできた言葉である。
「……しかし、」
「サダーク様は何と言われたのですか? なんと頼まれたのですか? メラク王子! あなたは必ずと口にされた! では今、何をするべきですか? 」
「……、あ、ああ、その通りだ。コーショウ。先に、何をすればよい?」
「この場を一旦収めなくてはなりません。このことは、まだ、口外できません。」
「分かった。皆ここから出ることは許さん! 全員ここに留まれ!」
メラクはコーショウの言葉を素直に聞き入れた。ちょうどその時、医者を連れた兵士が戻り、メラクは兄の事を医者とコーショウに任せる。その後、メラクはこの事件の口外を固く禁じて、主犯であるイダンソを王宮の一室に連れ出し、他の乱入者4人とザーマもそれぞれ別々の部屋に軟禁する。
誰も抵抗らしい抵抗はしなかった。乱入者の4人の内、公爵家の息子は家から解放の要望があったが、事が事だけにメラクも公爵家の要望を退け、こっそりと内容を伝え、息子本人の希望で軟禁された。
翌日、メラクは長官級の者のみを集め、その場にてサダークの長期の不在、療養を伝える。当然、会議は紛糾したが詳細は秘したまま、政務の代行を自身が務めることを伝えた。そして、正式にメラクはザーマとの婚約解消を宣言し、結婚の中止が決まる。
その日の夕方過ぎ、夜が迫るころに、北の砦で大規模な決闘が行われたという一報が入る。戦闘ではなく、決闘という言葉で書かれた報告は、教会にいる英雄リョーエン司教を王国の騎士ニックが討ち倒したという内容であった。
充分に衝撃的な内容であるが、メラクはいまいちピンとこなかった。彼も、英雄と呼ばれる人物を知らない世代であったのだ。しかし、この報告で完全に教会が自分達の敵であることが決定し、未だに意識が戻らに兄サダークを回復させる術がないことにメラクは頭を抱える。
悩むメラクに兄の様子を報告に来たコーショウがドラムの家で見かけた治癒の使い手を思い出す。
「ハイビッシャー家が黒幕…、うーん、どうすれば、いいのか…、」
「別に悪いのは親父だろう? 娘はノイエが言うには素直ないい子らしいじゃないか?」
「そうですよ。ドラム兄さん、ザーマという娘は評判いいですから、家とは切り離して考えないと可哀そうですよ? それに、教会は別にハイビッシャー家となんか繋がってません!」
「……お前らは、今後、王国にかかわりがないから、そう言えるんだ。」
北の砦から王都に向ける道のりを三人が進む。ドラム、ニック、リョーエンはリョーダンからもたらされた黒幕の正体をドラムは真剣に悩み、ニックは聞き流し、リョーエンは驚きながら聞いた。
悪魔を討伐するだけしか聞いていなかったリョーエンは、教会がハイビッシャー家に協力している勢力がいれば一掃するとリョーダンと約束し、三人は急ぎ王都に戻っていた。
ドラムは自分が進めていた結婚がもしかしたら、王国の凶事なるかもしれないと考え、結婚式をどうするか悩んでいるが、他の2人は自分にかかわりがないことなので気楽に考えていた。
「早く、戻らんといかんな!」
「この結婚式を終えたら、すぐに内部を調査しますから、ハイビッシャー家の野望なんて叶いませんよ? ドラム兄さんも安心してください。」
「……、そうだな、外国に力を借りないといけないという事は、内部ではそれほど協力者に恵まれなかったという事か、」
三人が王都のドラム屋敷に戻ったころ、王都には真っ暗な夜が迫っていた。




