ドラムの屋敷にて 6
ノイエは少し不安があった。
誰かと眠る事が嫌なのではない、幼いころはメイと、1年ほど前まではザーマと一緒に眠ることは度々あった。
しかし、今のノイエはほぼ毎晩のように悪夢にうなされていた。
婚約破棄を言い渡された日を、ザーマ様から何度も謝られた日を、顔の見えない噂を囁かれる日を何度も夢見てしまう。
唯一、ギクリの歌を聞いたあの日は本当にゆっくり眠ることができた。
「あ、あの、ベス様、私、その、うるさいかもしれませんけど、いいのですか?」
「あら、そうなの?じゃあ、ギクリちゃんと同じね。」
「そう、そうなのですか?」
「そうよ、ギクリちゃんはお酒飲むとずっーとニックさんの、お爺さんの事ばかり話してきてうるさいのよ?」
「そうなのですか、」
「そうなのよ。ヒノちゃんはお酒飲めるけど弱いからすぐに寝るし、ニックさんはお酒に全く酔わないから面白くないの。」
「あ、あの、」
「ノイエちゃん、眠くないの?」
「その、あまり、」
「じゃあ、すこしお話ししましょうか!」
「はい」
部屋にこもりきりのノイエは寂しかったのだろう、ベスが話す何でもないような昔話が面白くて、楽しくて、うんうんと話に聞き入る。
やがていつの間にか、ノイエは穏やかな寝息を立てていた。
「ふぁあ~、私も眠るわね。悪魔ちゃん、一番鳥が鳴く前に起こしてね」
「はい、はい」
「ねぇ、貴方も、ニックさんも毎晩眠らないでほんとに大丈夫なの?」
「まぁ、悪魔だし、あれも同じようなもんだよ。」
「ふーん、美少女と美女がいるのだから変なことしないでね?」
「、はよ寝ろ!」
「はいはい、お休み」
やがて、寝息が二つになり、草木も寝静まる。
悪魔は一人、静かに考える。
いつの間にか、自分が丸め込まれていること、揶揄われていること、不満を感じなくなっていることを。
しばらくして、夜から朝へと変わる気配した。静かな世界に動きが生まれる。風が葉を揺らし、花がゆっくりと開き始める。わずかで、確かな朝の気配。
ベスから朝日の昇る前の、朝露に濡れる畑をノイエに見せたいと言われているので、すやすやと眠るベスに声をかけ、体を揺らす。
ベスはすぐに目を覚まし、幼子のように丸まり眠るノイエを優しく起こす。
悪魔は2人の身支度の間、外に出て終わると再び部屋での留守番を言い渡される。
「じゃあ、悪魔ちゃん、お留守番しててね」
「え?留守番?」
「ふふ、いい返事。これから二人でデートするんだから、貴方は留守番でしょ?」
「あ、あの、悪魔さんも一緒に連れ行きましょう?」
「ダメよ。今回は2人だけで行くの」
「あ~、まぁ、いいよ。留守番ね。はい。りょーかい。」
「すみません。悪魔さん、お留守番お願いします。」
「お嬢ちゃん、そこの人は俺より性質悪いから気を付けてね。ほんと、なんかあたら叫ぶ…、のは止めた方がいいな、うん、あれも起きてるだろうから、」
「あれ?」
「さぁ、せっかく早起きしたのだから早くいかなきゃ!」
「変なことだけはしないでくれよ。」
「あの、あれって?」
2人を送り出し、ノイエの部屋に一人残された悪魔は何をするでもなく、ただボーっとする。
一番鶏がようやく声を上げ、それに続けとばかりに二番、三番、次々とせわしなく鳴きはじめる。
朝のせわしない空気、喧騒を悪魔は一人で楽し気に聞いていた。
「ノ、ノイエちゃん、起きてる?」
時刻は早朝、いや、明け方といってもいい時間だ。
人の部屋を訪ねるのはどう考えてもマナー違反な時間にノイエの部屋を訊ねる人がいる。
―なんで、こんな朝早くから来るの?いや、何かあったのか?
声の主ギクリに抗議の声を上げようとしたが、もしかしたら、何か起こったのかもしれない。
それに、この部屋はノイエに与えられたもので、そこに自分がいるのはおかしいと、悪魔は落ち着いて魔法で声を変える。
「あの、何ですか、こんな朝早くから。」
急いで作り上げた声にしては、かなりノイエに似ている。少し、声が低い気がするが、まあ及第点だろう。
「う、あ、あの、あのね、ごめんなさい。こんな早くから、そうよね、まだ、眠いよね、」
「いえ、起きてましたから、あの、用件は?」
「う…うん、あの、昨日、ヒノちゃ、ヒノクお婆さんからいろいろ言われたでしょ?」
「はぁ、」
「うぅぅ、なにか、ほら、相談して、今ならだれもいないから!!」
―え、この人、まじ?本気?昨日の今日で、朝に押しかけてきて相談しろって?いや、ないわー、これはない。しかも、本人いないしなぁ、どうしよう?
「」
「ねぇ、ノイエちゃん?大丈夫?いいのよ、ほんとに私何でも聞くから、何でも話して!!」
「あ、あの、」
「うん。はい、なに?」
「えっと、あ、あのちょっとおなか痛いので、また後で、」
「え!どうして、ああ、開けて!ノイエちゃん!いま、治してあげるから!」
返答に困り適当に返事を返すと、ギクリはさらに突っ込んでくる。
自ら墓穴を掘ってしまった悪魔はさらに困り果てる。
「いや、あ、あの痛いの治りました!」
「だめ!ダメよ!開けて!ノイエちゃん!それは、痛みを感じ取れなくなってるだけ!」
「あ、あの、ほんとに大丈夫ですから、もう治りました!」
「ああ、ヒノちゃーん!!」
ああ、どうしよう。これ、どんどん集まてくるよ、絶対。留守番なんて引き受けるんではなかった。
「ノイエちゃん開けて!」
「ふぁあ~、」
「なにしてるの二人とも?」




