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ドラムの屋敷にて 3

「え、ええっと、ノ、ノイエちゃ、さん」

「はい、ギクリ様」

「あ、あのね、…き、今日はいい天気ね」

「はい、いい天気ですね」

「あ、いや、違うの、ホントはね、」

「はい、本当は?」

「う、うう、ごめんなさい。あ、あのね?」

「はい?」

「そ、そう、体は大丈夫?まだ動けない?」

「申し訳ありません。まだ、少し、」

「い、いいの!ノイエちゃ、さんは気にしないでゆっくり、体調を戻してちょうだい!」

「はぁ、」

「う、うん、今日はごめんなさい。またお話しできるかしら?」

「え?あ、はい。」

「そう!分かったわ。じゃあ、ゆっくり休んでね。」


メイに会うことを伝えると、ギクリはすぐにノイエの部屋の前に来た。事前にメイから聞いていた通り、噂よりも悪い人ではないと思う。それは、初対面から思っている。


ノイエの回想


ギクリ様は美しい女性だった。ザーマ様とはまた違う、人間離れした神々しい美しさを持つ女性であった。


お祖父様からあまり話を聞いたことはなかったが、巷で語られるギクリ様はエルフの血をひくハーフエルフだと言われ、天地を揺るがせる最強の魔術師だと聞いていた。

怪しげな魔術に手を染めているとも、人拐いの元締めだとも噂される。

しかし、先日初めて言葉を交わしたギクリ様はそんな世間で騒がれる人には見えなかった。


その人はただ美しい女性であった。

その美しい歌声に包まれて目覚めたノイエには、歌を歌う姿が天使や女神のように思えた。


目覚めてから、その歌の主が新しいお祖母様だと言われて固まった。それは、一年前のトラウマ、また、自分の前から大切な人がいなくなる怖さ、恐ろしさがフラッシュバックしてきた。


既に死んでいるお祖父様と共にいたいと女神のような美貌の大魔術師が口にする。唾を飛ばさん勢いで、思いの丈を全てぶつけてくる。


本当に愛するというのは、こんなに熱いのだ。


私はなにも言えずに黙り混み、お祖父様と周りの人がギクリ様を押し止め、ギクリ様はやっと止まった。


それからギクリ様と今日までお話しできなかった。いや、会うことが出来なかった。ギクリ様の持つ本気の愛の熱量に私は完全に飲まれていた。

正直に言えば、狂ったかのような愛を叫ぶギクリ様が怖かった。しかし、その姿は目に焼き付いて、忘れられなかった。


メイから、ギクリの事を言われて迷いながらも、ノイエはギクリと話すことを選択する。


二度目の会話は扉越しに行われた。

物凄い力を持たれているはずなのに、ギクリは言葉と話題を慎重に選びながら、恐る恐るノイエに話しかける。


対してノイエも、どうしても緊張や警戒心が表に出てしまう。結果として、素っ気ない返事を返すばかりになり、二人の会話はドッジボールになっていた。



次に話すときにはもう少しちゃんとお話をしよう。

せっかく、ギクリ様から次を約束されたのだから。

先の会話を反省し、ノイエはそう心に決める。



「ヒノちゃん!起きて!起きてよ!」

「…、はい!いいえ、寝てません。聞いてました。」

「ヒーちゃん、だめねぇ~、もう一回、初めから話すわよ」

「ごめんなさい、勘弁して、ベス姉」

「ヒノちゃん、こっちの話を聞いて!」

「ん?どうしたのギクリ義姉?あれ?にーさんたちは?」

「ギクリちゃんの素敵な旦那さんは若い娘を連れて何処かに行っちゃったわよ?」

「…、なんでそんな言い方するの?ニーナちゃんでしょ?いくら何でも若すぎるわよ!」

「あはは!で、どうしたの?ギクリちゃ~ん?深刻な顔してるけど?さっきのは本気の冗談よ?」

「あのー、お酒持ってきました。」

「えらいわね!さすがは悪魔ちゃん!世界一!あ、旦那様の次だから、世界二よ!」

「水をくれる?」


どーん!カッ!ゴロゴロ、ピカッ!どぉぉぉおおおおん!ゴロゴロ!ざぁぁぁあああ!

物凄い稲光りと轟音そして、地上を洗い流すような大雨が降り出してくる。


「話を聞いてくれるかしら?」


ギクリはにこりともしないでヒノク、ベス、悪魔の3人語り掛ける。

3人は首を上下に振って、ギクリの要望に最大限答えることを約束した。



「ノイエ、ノイエ?まだ、起きてる?」

「はい?ヒノクお婆様?」


急な、雷と豪雨の後ノイエの部屋の前にヒノクが現れた。ノイエには見えないが、少し後ろの方にはギクリが隠れてヒノクにプレッシャーをかけている。

退路のないヒノクは意を決して明るい声でノイエに語り掛ける。


「ノイエ、体の調子まだ戻らないらしわね?私が診てあげましょう」

「え?いえ、そんな、傷や痛みはありませんし、」

「いいのよ!ノイエ、みんな心配しているんだから、私がもう一度見てあげましょう!」

「あ、あの?どうしたんですか?お婆様?何かあったのですか?」

「い、いや、何もないわよ。ただ心配なのよ。あなたがここから出てこないから、」

「…、ごめんなさい。もう少し一人にさせてもらえないでしょうか」

「ふーん、そう、分かったわ。でも、何かあれば誰かに話しなさい。抱えながら転んだら大変よ?全部こぼれちゃうし、もう元には戻せないわ。」

「…、はい。分かっています。」

「誰でもいいとは言わないわ。でもね、ここにいるのはみんな貴女の味方よ。誰かに話してみなさい。じゃあ、おやすみなさい。」

「はい。」


ヒノクはノイエの治療を終えた後、極力ノイエと接触を持たないようにさせた人間である。ノイエの不調の原因が心や精神に起因するものだと考え、皆にもそのように対応させていた。

ノイエ自身の中で何かしらの整理、決着がつかないことには改善できない。聖職者、聖女として様々な人の傷を見てきたヒノクの経験であった。


しかし、それでも苦しむノイエをギクリは何とかしたかった。せっかくニックと結ばれたのだ、ただ一人の孫娘が苦しんでいるのならば助けたい。

ヒノクに必死(必殺)の説得を試みて、何とか一言アドバイスさせる事に成功した。


最期に前向きな返事が返されて、ヒノクは安堵のため息を漏らしつつ、後ろに控える鬼監督をちらりと見る。

ギクリはにんまりとほほ笑んで首を上下に動かし、ヒノクを手招きする。2人はそのまま次の作戦会議として広間に向かった。



2人の姿が見えなくなった頃、また、一人、いや、二人がノイエの部屋を訪ねてくる。


「止めません?」

「ダメ!ノーちゃん?起きてる?部屋はいるね?」

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