ドラムの屋敷にて 2
「私との婚約を解消してくれないか?」
目の前に立っているのは、私の婚約者で一番大好きな男性メラク・ミスリー・オーランド様。
ここは、学園?あれ?今何って?
「話は以上だ。父には私から話す。後は、君の好きにするといい!」
ー待ってください!私に何か落ち度が?メラク様、待って!せめて理由を!
これは、夢だ。悪夢だ。
1年以上も前に同じことを言われた時の記憶、あの時と同じことが夢の中でまた起きている。
ーあ、あの、卒業パーティーは?今日の卒業式のダンスパートナーは?
やめて、それ以上は、
ー今日まではメラク様と一緒に?
「後で、誰かに私から直接頼んでおこう。君は、誰か頼みたい奴はいるか?」
目の前が真っ暗になった。景色が変わる。どこだろうか?
胸が張り裂けんばかりに苦しくて、今、どこにいるのかわからない。
「ノイエ様」
誰かが私を呼ぶ。
「ノイエ様!」
そこには、暗闇にあっても光輝く金髪の美しい女性が立っている。
ザーマ・ハイビッシャー様。
侯爵家のご令嬢でありながら、気さくで学園に通う平民の子共にも優しく、私のような下級の貴族にも親切でお優しい方、いつも心奪われんばかりの笑顔を浮かべている私の大切な友人。
しかし、今の彼女の表情は暗い。
彼女は青ざめた顔で、私の名前を叫ぶ。
私は、どんな顔をしたのだろうか?
ザーマ様が泣き出しそうな表情を浮かべている。
「ノイエ様、私、私は、…ごめんなさい、ごめんなさい。」
ーどうして、謝られるのですか?
ーザーマ様、どうして?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、…、」
ー待って、ザーマ様!どうして!
「第3王子の結婚相手はザーマ様らしいぞ!」
「いやぁ、実にお似合いのお二人だ。」
「大恋愛ですって!素敵よね~!」
「王子が本当に愛する人を選ぶということか、まるで物語のような話だな。」
「本当に感動的ね!恋愛小説みたいだわ!」
「王様もお二人を認めたのだから、物語以上だな。」
ーお二人はお似合い?本当に愛する相手?
ー私、私は?
「、はぁ、はぁ、はー」
高い天井が見えた。
起き上がり手を伸ばしても届かないだろう天井の模様がはっきりとわかる。採光の為の高い窓から、既に夜は明けたと燦々と日の光が入っているのだ。
ここ数日で見慣れたそれに安心を感じる。
ここは、お祖父様の友人ドラム卿の邸宅で奥方ベス様のご好意で一室をお借りしている。
私はノイエ・ノーキン。
王国の、世界の大英雄ニック・ノーキンの孫娘です。
一年ほど前までは、第3王子メラク様の婚約者でした。
…はい。でしたです。今は違います。
一年間、もしかしたら、メラク様のお気持ちが変わるかもと、メイやよくしてくれる人を頼りながら待ち続けましたが、遂にメラク様の新しい婚約者と結婚式が発表されました。
お相手はザーマ・ハイビッシャー様、私の大切な友人です。
メラク様の本当に愛する相手、大恋愛のお相手は私の大切な友人だったのです。
そこから、曖昧な記憶ですが、私は自殺を図りました。
でも寸前のところで、優しい悪魔さんと亡くなった後も私を心配していたお祖父様に助けてもらいました。
気を失っている間に、ヒノクお婆様、ギクリ…、ギクリ様のところにお邪魔したらしいのですが、あまり覚えていません。そして、十日ほど前からドラム卿の屋敷にお世話になっております。
お祖父様も、メイも、ヒノクお婆様にベス様、ニーナちゃんにギクリ様、悪魔さんもみんな私を心配しているのですが、私は、どうしたらいいのでしょう?
コン、コン、コンとノイエの部屋をノックする者がいる。
「ノイエ様、お目覚めですか?お体の調子はいかがでしょうか?」
ノックの主はメイであった。普段と違う、硬く冷たい言い方は、他人の家屋敷であることを気にしてのものであった。
メイには不思議な力がある。
魔術とは全く違う、超人的な能力、それはノイエの体調を把握する力。
本人いわく(匂い)でほぼ100%かぎ分けられる特異な力だ。
扉越しでも能力は発揮される。
「えぇ、少し楽になってきたわ」
「それはそれは、お部屋に入ってもよろしいですか?」
「えっと、もう少し一人にさせてもらえないかしら?」
「…、わかりました。何かありましたら、必ず、お声がけ下さい。」
「ええ、大丈夫よ。もう、心配させることはしないわ。」
「ノイエ様、もう一つだけ、」
「なにかしら?」
「ギクリ様がお話をしたいと、」
先程までの、ウソや申し訳なさが混じったノイエの匂いが変わる。
「何を話したいの?」
「わかりません。」
「そう。もう少し、体調が回復したらでいいかしら?」
「わかりました。その様に伝えてまいります。」
今、ノイエから発する匂いは緊張や警戒、ギクリへの不安であった。
怪しい噂の第2研究所の所長であり、お祖父様の妻になる人だ。つまり、自分の新しいお祖母様になる人。
目覚めて一番、いきなり紹介されて、ノイエは固まった。
警戒しないわけにはいかない。
大好きな人と大切な友人を失ったばかりなのに、甦ってきたお祖父様まで、いなくなったらと恐怖し態度を硬化させる。
「ては後ほど、お食事をお持ちします。」
「…その、メイ、貴女は、ギクリ様はどう見える?」
「ギクリ様は好い人です。きっと、ノイエ様も気に入る方です。」
「本当に、そう思っているの?」
「はい。少なくても、ノイエ様を傷つけたりしません。」
「…、でも、」
「扉越しで会話されてみるのはいかがですか?」
「失礼でしょ!大魔術師様よ!」
「ギクリ様の提案ですから、大丈夫ですよ?」
「えっ!」
「ギクリ様は、ノイエ様の幸せを願ってますよ?」
「わかったわ。ギクリ様とお話しましょう。」




