幕間 騒ぐ王宮
「誰がこんな騒ぎを起こしているのだ!」
王都の中心、王宮の中にイダンソの甲高い声が響き渡る。
「責任者は誰だ!騎士団長はどこにいる!今、王都にどれだけの人の目があるか分かっているのか!」
イダンソの、王国一番の権勢を誇る貴族の詰問、いや、恫喝に対応する官吏たちは沈黙で答えた。
なんせ、彼ら官吏も混乱していたのだから。
毎日のように、嘆願書や何らかの訴状が彼ら官吏の下に届いていた。嘆願の内容も初めのうちはただ恭しくお願いするものであった、だが、日に日に過剰な文面へと変化し、最新のものは罵詈雑言しか書かれていない物まで登場してきた。
しかしまだ、罵られるうちはこちらも心を強く保てた。なにくそと思いながら、なんとか現状をよくしようと自分たちのできる範囲で動いたし、働いた。だが、もっと情報を得ようと、官吏たちが自ら王都の現状に立ち会うと彼らは今の王都の姿に愕然とすることになる。
自分の父母と変わらない老人が泣きながらこちらに窮状を訴え出てくるし、幼い子供を抱えた母親が何とか子供だけでもと足もとに縋り付いてくる。親のいない子供たちはこちらをなにも写さない瞳でじっと見つめる。
王都中がまるで貧民街になってしまったような光景に官吏たちも思考が停止する。何とかしようにもすべての権限がドラム一人の下に集中しており、小さな裁量権限しか持たない官吏にはどうしようもなかった。
王都全体が今やどうなっているのかさっぱり分からなかった。
そんな状態でも、王宮に詰めて何とかしようと働く官吏たちは、いきなり現れてきて、王都での武力衝突が起きた件について説明しろ怒鳴り散らすハイビッシャー侯爵に徐々に苛立ち始め、そしてついには、官吏の一人が限界を迎える。
「何とか言わぬか!いったい責任者は!」
「ドラム様です。責任者はドラム様です。我々は何も知りません!」「おい、」「馬鹿!」
「はぁ?お前らは、お前らは官吏であろう!何も知らぬとは、何だ!」
「ですから、我らも分からないのです!本当に、なにも」「止めろ!」「申し訳ありません。厳重に注意いたしますので」
「うるさい!今の王都が混乱しているのは、ドラム様のせいだ!」「黙れ!馬鹿者!」「侯爵様、大変申し訳ありません」
侯爵位を持つ貴族に対して、失礼を通り越した応対を返す官吏を他の官吏たちが全力で押さえつける。気持ちは分かるが、あってはならないことだ。仲間を守るために懸命に頭を下げ、許しを請う官吏たちの姿をイダンソ見ていなかった。
―ドラム?あいつが主犯か!
欲しかった答えをもらえたのだから、イダンソはここに用はなかった。頭の中はドラムをどう責め立てるかそれだけでいっぱいであった。
無言のまま立ち尽くすイダンソに官吏たちは震える。言葉を無くすほどに怒り狂う行為の貴族など想像したくもない。とにかく、謝り続けるしかないと言葉を発しようとすると、一人、息を切らして王宮に駆け込んでくる。
「大変です。中央教会にて、我が国の騎士団が教会の騎士団と戦闘を開始しました!」
「」
一同は、押し黙る。
わずかな時間、本当にわずかな間、世界が止まった。
イダンソは言葉を理解するに従い、顔色が赤からどんどんと青くなり、そしてまたどんどんと赤く変化していく。
「ドラムは!どこだ!ここに連れてこい!」
イダンソは、その日一番の大声をあげた。
本来、高位の貴族はいかなる時も言葉を荒げることなく優美に、雅に話すべきだが、この日は結局一日中イダンソは大声で怒鳴り散らす事になる。
中央教会での戦闘が起こる数時間前の事
ドラムは手勢を3つに分けて、ほぼ同時に各地にある集会所を急襲した。
正直、王都は広くわずか200名の人数で、噂されるすべての拠点を落とすことはできない。いや、仮に噂されるすべての拠点を落としても、王権に対して敵対する勢力は深く根を張り、また機会を伺うとドラムは踏んでいた。
だからドラムは、先手を取り相手に強く印象付けさせることにした。
鮮やかに、強烈にこちらの力を意識させることで敵対組織から対抗する意思をそぎ落とすことを目的に、秘密裏に部隊を編成し、奇襲的に動いた。
3つの拠点を落とし、特に、王権を狙う組織と関連する証拠は手に入らなかったが、これで相手にこちらの存在を意識づけさせる事ができ、ドラムとしては十分に目的を達成した作戦であった。
作戦が終了し、王宮に戻る途中で中央教会に人が押し寄せて混乱していると情報が入り、部隊の進路を変更する。すると更に、大聖堂府から今日到着した聖堂騎士団が取り残されていると情報が入る。
ドラムは、外国からの大切な客人の安全を守るために中央強化に向かい、取り囲む群衆に解散を指示するが、反応は思わしくなく。群衆を指揮する存在が確認したが、これにも返答はない。仕方なく、威嚇用に魔術の準備をすると、中央教会から若い騎士たちがこちらに向かい保護を求めてくる。
何人かは錯乱している様子であったが、全員を無事に保護し、取り囲む集団の解散を確認してドラムは王宮に向かった。
中央教会での戦闘はそこまで大規模なものにはならなかった。
理由は、教会に騎士団たちの経験不足と力量不足。地の利、状況判断の悪さ、言い出せば切りがないが、簡単に言えば、多くの混乱する一般人をかき分けて準備万端の王国の最精鋭の部隊に戦闘を仕掛けに行くのだから、当たり前といえば当たり前だが、勝負にならなかった。
50人近い聖堂騎士団が一斉に飛び出して、ドラム配下の特別警察隊の前に無傷で来れたものは10人もいなかった。その10人もドラムの厳しい訓練でほぼ最強と言える力量を誇る者たちに歯が立たず、マース以下ほとんどの聖堂騎士は捉えられた。
唯一、残ったライドンも全員が捕まったと聞いてすぐにドラムに下る。
だが、ただで下るほどライドンは甘くなかった。
中央教会を頼り集まる人々への乱暴をしないことを条件とした。これにより、全員がほぼ無抵抗で捕まるという不名誉は避けることができ、何とか面目を守られた。
後に多くの歌劇や詩にうたわれる中央教会の攻防は、実際は1時間もしないうちに決着がついた戦いである。
王国側、ドラムは外国からの要人を国内の暴漢どもから守ったと主張し、聖堂騎士団は弾圧される教徒たちを身を挺して守ったと主張している。
どちらの主張が正しかったのか、互いに譲らず多くの詩人、芸術家に互いの主張を主題にした作品をつくらせた結果、多くの名作として世界に残ることになった。
3章終了です。
次からは、また、ノイエたちの話に戻ります。
なんだか、変な天気が続きますが、皆さま体調だけはお気を付けください。




