王都特別警察 4
「騎士さま―!」「あぁ!神よ!」「どうか!お救いを!」
聖堂騎士団は王都に到着すると凄まじい歓迎を受けた。
普段は、大聖堂府がある大教国領の警備や治安の維持が主要な任となり、日々、任務や訓練に勤め、極希に魔物討伐に駆り出される毎日を過ごす。彼ら聖堂騎士団はどちらかと言えば、日影の存在でありこのような王都の民の歓迎になにも反応を返せなかった。何せ、ただ歩くだけで涙を流して拝まれるのだから、下手に何かすれば、どうなるかわからない雰囲気がある。
しかし、この騎士団の困惑にすら王都の民は歴戦の戦士の持つ武骨で、生死の狭間を生きる男の姿と受け止められた。聖堂騎士団は何が何だかわからないまま中央教会に向けて、とにかく歩を進めた。
彼らが受けた指示は簡単な内容である。
リョーエン司教を大聖堂府に連れて戻ることだけである。だから、正直、なぜこんなに歓迎されるのかさっぱりわからない。
事の起こりは二週間ほど前に遡る。大聖堂府に一羽の緊急用の伝書バトが急報を伝えた。
王都にてヒノク司教が行方知れずになり、リョーエン司教が犯人と疑われているという内容に大聖堂の上層部はすぐさま事の次第を確かめるために、リョーエン司教の緊急の召還を決める旨の返信を書いて王都の中央教会に送る。すると今度は、王都内において一部の若い学士が騎士団の詰め所を襲ったと報告が入る。何か王都にて重大なことが起きているのかもしれないと、上層部は実行部隊である聖堂騎士団を派遣すると決める。
聖堂騎士団団長は、上層部からの指示を受けてすぐさま2人の人間を呼び出した。
若手の有望株であるマース・ゼンマンと経験豊かなライドン・ワーズの2人が騎士団長の執務室に呼ばれる。そこで直々に指令を下される団長にはマース、副団長にライドンと決まり、2人はよく相談して、部隊を若手中心で編成した。
リョーエン司教を王都より無事に大聖堂府へと連れてくるというあまり難しくない任務である。
大聖堂府から王都までの片道は一人で向かうのであれば、五日前後であるが、軍勢を率いるとなるとおよそ一週間から十日前後かかる。途中に大きな町が幾つかあり糧食などは途中で補給できる。また、街道は整備されているので、危ない魔物などの襲撃などの心配も少ないことから簡単に遠征、行軍の経験を積むことができた。
道中は、特に問題なく進む。
糧食などが当初の計画よりも安く購入でき、多めに仕入れを行ったマースをライドンはやんわりと注意した。マースは反省し、経験豊富ライドンの言葉に従う。次代を担う者たちに経験を積ませることで、次の失敗を起こさないようにするという騎士団長の目論見は王都に到着するまでは成功していた。
王都に近づくにつれて空気がおかしくなっているのに初めに気づいたのはやはり経験豊かなライドンであった。街道に多くの商人の荷馬車が止められていた。
「ライドン殿、この行列はいったい?」
「団長、この先に臨検所、関所があります。」
「先日通ったような場所か?」
「はい。ただ、私が記憶している限り、ここに関所はなかったはずですが、」
「記憶にない?」
「おそらく、結婚式を前に警戒しているのでしょ。何かあれば国の大事ですからね。」
「なるほど、しかし、我らは急ぎ進まねばならないぞ?」
「はい。分かっております。先に向かい、事情を話してきます。」
ライドンが言う通り、街道の先には関所が作られていた。関所の責任者にすぐさま話をつけて、先を急ぐ聖堂騎士団一行を行商人たちは羨ましく、また、恨めしく眺めていた
彼ら商人は長いもので2日も足を止めていたので、ほとほと困っていた。マースはその様子に、何かできればと自身の財布から行軍に使える糧食なり、資材なりを購入して、またライドンからお叱りを受けた。
王都に到着したのは、当初の計画より2日遅れて14日目の事だった。
そして、到着した彼ら騎士団が見たのは救いを求める人の塊であった。黒煙があちらこちらから上がり、荒廃した様子の王都の姿に経験豊かなライドンですら絶句した。マースを筆頭に若い騎士団員はさらに大きく衝撃を受けた。
「皆!落ち着け!中央教会に向かう!目を合わせるな!言葉を交わすな!足を止めるな!馬から降りて、二人で組みになって進め!」
とにかく事情を知るために、ライドンは中央教会に向かうことを命令する。
マース達はライドンからの指示にただただ頷き、従った。ライドンはかつてこのような光景を何度か見ていたので、衝撃を受けつつもまだ冷静に思考ができた。
ようやく、中央教会にたどり着き、詳しい話を聞くが、どうにも要領を得なかった。
情報が入ってこないので、中央教会も混乱していた。ライドンは状況を理解することをあきらめて、自分たちの目的であるリョーエン司教のことについて尋ねる。
「リョーエン司教はどちらに?」
「?」
「ですから、リョーエン司教は?」
「リョーエン司教は、すでにここにいませんよ?」
「はい?」
「リョーエン司教は、十日は前に大聖堂府に向かわれましたが?」
「はぁ?」
ここにきて、ライドンは今まで出したことのないような声を上げる。
ドッと疲労が押し寄せるが、倒れこむのはかろうじてこらえる。後ろに控えるマースなどは完全に動揺しているのだから、自分まで慌ててしまっては大変なことになる。
「騎士様、どうかお助けを!」「見捨てないでください!」「騎士様!」「我らをお救いください!」
―お答えください!神よ!どうか何か知恵をお授けください!
ライドンは祈るしかできなった。
只今、中央教会はその歴史上、初めて完全なる包囲殲滅作戦を受けている。相手は、助けを求める同門の宗徒達である。何も分からないまま聖堂騎士団50人は取り囲まれた。




