王都特別警察 3
「いいか、お前ら!」
「「「はい!!!」」」
そこに広がる光景は、一種異様なものであった。
200人を数える筋骨隆々の男たちを、たった一人の老人が厳しく叱咤しているのだから。老人はとっくの昔に現役を退き、既に70歳という超高齢といえる年齢であった。しかし、その声には年齢を感じさせない強い力がこもり、目は往年の輝きを放っていた。
老人の名前はドラム。儀典長官を務め、この度の第三王子の結婚式の最高責任者である。
ハイビッシャー侯爵から、王家の権勢を貶める悪漢の情報を入手し、元部下である王国騎士団団長から最精鋭の供回りを借り受け、ドラム直々の地獄ような再調練を実施して王国最強の部隊と育て上げた。
騎士団は戦場において、馬による機動力と個人の武力による突破力が求められる。また、その二つが複合的にかみ合い戦場にて大きな威力を発揮する部隊であるが、ドラムが望む王都での働きに馬は不要であった。
フルプレートを着こみ一日中走り込み、ロングソードやランスを相手に戦うのではなく、短剣やメイス、長柄を相手にいかに相手を圧倒するかを叩きこまれる。投石や対魔術戦闘なども対等な位置からではなく、障害物を用いたより実践的な形での訓練を中心に行う。連携を重視し、数的に優位な状態を作り出し、市街戦、屋内戦の戦い方を徐々に身に着けていった。
そして、最後の訓練が終わり。ドラムは全員前にして訓示を口にする。
「さあ、悪魔どもを一掃するぞ!」
「「「「はい!!!!」」」」
王都特別警察隊は、この日、3つに分かれて物価高騰に喘ぎ不満を募らせていた王都民の集会所を襲撃した。ここで、襲われたグループの一部が王都の中央教会に駆け込み、更に騒動が大きくなる。
イダンソ・ハイビッシャー侯爵の視点
「、はい?」
「はい?ではありません!大変です。王都で大規模な武力衝突が発生しました。バッチ子爵が手勢を率いて、鎮圧していますが、どうにも情報が入らず、詳細は不明です」
「・・・、はぁ?」
イダンソは混乱している。
続々とやってくる王国各地の貴族との会食やお祝いの品、手紙に対して、それ相応の返礼の品や文面を考えなくてはならず、ドラムほどではなくてもなかなかに忙しい日々を送っていた。だから、朝一番に家令が持ってきた特大の爆弾の意味を咀嚼することに時間がかかった。
―武力衝突?王都で?何でいま?
―バッチ子爵が手勢を率いて?バッチって結婚式の準備してるんだよな?
―てぜい?手勢が王都で鎮圧している?王都で?
―はい?
イダンソが混乱するのは仕方がない、王都は王国の誕生は別にして、ここ100年以上一度も戦火に見舞われたことがない場所であった。
「バッチ子爵が相手している敵とは誰だ!」
「分かりません。ただ、集会所をいくつか焼き払ったと報告が上がっております」
「何だと?分からん?いい、王宮に向かう!」
「お待ちください。今、動かれるの危険です。もう少し、お待ちください」
「ならん。私兵をまとめて王宮に向かうぞ!」
王都中央教会にて
「お助けを!」「どうか!お助け下さい!」「押すな!」「いたい!」「おかーさん!どこー!おかーさーん!」「誰か、手を貸してくれ!」「ああ、神よ、神様!」「息子を、誰か知りませんか!だれか!」
教会には多くの人が押し寄せていた。
不安な噂が広がる王都にて、人々は神様に、教会に救いを求めていた。悪魔の噂が囁かれ、日々の生活もどんどん困窮する王都において、教義に救済を抱える教会は持てる力をふり絞って使って答えていた。
不安を訴える人には共に祈りを、困窮を訴える人には日々の糧を分けるなど、限りある手のうちから何とか答えていた。
しかし、昨日の深夜から今日の朝方にかけて、いきなり状況は変化した。
兵士が集会所を襲撃したのだ。同時に何か所も、急に襲い掛かってきた。
そこでは、困窮した人々が良からぬことを企ていると噂されていたが、教会から何人かの助祭や司祭が赴き懸命に説得を重ねていた場所であった。何人かの人々は、説得に応じるそぶり見せ始めていたところだった。
それなのに、今朝方、事態の急を告げる一方が入る。
そういった集会所が軒並み、襲撃を受けて焼き払われたのだ。何の事前報告もなく急なことであった。
民はいきなり黒煙が上がる集会所に完全なパニックになる。そして、救いを求めて、教会に殺到してきたのであった。
中央教会の対応力では、賄えないほどの大混乱の様相を呈してきた。しまいには、ここから、人々があふれ出し王都中で打ちこわしなり暴動なりが発生する寸前の渦ができ始めた。王都の民数千人が一斉に暴れだせば、これを完全に抑えることはできない。
ドラムは完全に悪手を打ったのだ。今にも、零れ落ちていきそうな、溢れんばかりの人々の激動が少しづつ落ち着いてくる。教会に押し寄せる人々の塊がゆっくりと裂け、完全に分断すると一本の道が通る。
そこに、完全武装の50人ばかりの集団が馬に乗りながらゆっくりと進んできた。
白い色を基調とした鎧に一切の曇りがなく、戦うことを目的としているはずなのにどこか美しさを感じるその集団に、集まる人々は涙を流し、歓迎の声を、歓声を上げる。
集団は一切それに反応を返さずに、ゆっくりと中央教会に門にたどり着い。
大聖堂府から、リョーエン司教を連れてくるように命じられた聖堂騎士団50人が混乱する王都に到着した。




