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酒場と言えば、新たな出会い(ただし酔っ払い)

 二人して着替えると、食事をしに酒場におりた。


 夜遅く、今からが本番とばかりに先客たちは酒を浴びる様に飲んでいる。

 しかし、聞こえてくるのは後ろ向きな話題ばかり。


 あいているカウンター席に着くと、レティシアが肉料理とワインを店主に頼んだ。

 ラヴィーナ王国には飲酒の制限年齢は無いが、俺は初めての酒に少しドキドキする。


 すぐに注文の品が来ると、試しにワインを一口ふくむ。

 ……甘味は無く、渋さと苦さが口に広がり、アルコールと果実酒の香りが鼻に抜ける。

 正直、まったく何が良いのか分からない。

 一口では酔うと言う感覚も無く、まったく美味しくない。

 それが安酒だからかなのかも、俺は比べる経験が無いので判断できないし、レオンも酒を飲む習慣は無かったので分からない。


「御口に合いませんか?」


 店主が俺を睨んだ。


「いや、美味しいよ」


 そう言って誤魔化して、肉を口に入れた。

 肉の味は悪く無い。

 ただ、道中食べていた保存食に比べればである。


 俺は口に香草焼きにされた肉を次々と頬張りながら、壁にかかる地図を見て、どうやって沼を超えたものかとぼんやりと思った。

 俺が地図の右から回り込む事を考えていると、レオンは左から回り込む事を同時に考えているのが分かる。

 しかも、思考が混ざらずに常に同期されるので地味に便利である。

 マルチタスクをある意味で完璧にこなせている。

 あれ、これって、地味に凄い?




「旅の方、これからどちらへ?」


 酒場の主人が木のジョッキを拭きながら話しかけてきた。

 強面だが、口調はフランクで意外と話しやすい。

 俺は沼越えの策をレオンに任せて返事をする。


「ガリスタファドル王国に行きたいんだが」


「沼には行って見たかい?」


「それで一度戻ってきた所だよ」


「悪い事は言わない。あの沼はどんな船もすぐに穴開けちまうし、沼の上は鳥も飛びやしない。噂じゃ、王子様を食い殺したヒドラが作った沼だって言われてるんだ。今も沼は少しずつ広がっててな、ほら、あの席の連中は、沼に家も畑も飲まれて避難してきた奴らさ。この店もいつまで開けてられるか……」


 レオンは、民の為にどうにか出来ないか俺に聞いてくるが、虎の子のシェルが上手く使えなかったから、今ここにいるのだ。

 俺だって出来ればどうにかしてやりたいさ。


 毒沼を迂回してガリスタファドルに行けたとしても、王獣を手にしてまた迂回するとなると時間がかかるし、その頃にはこの町は毒沼に飲まれていると見て間違いない。


 アラネアに連絡でも出来れば、即解決してくれそうだが、当たり前だが電話なんて無い。

 手持ちの駒でやり繰りするしか無いが、どうしたものか……




「なあ、あんた、このご時世、恋人と二人で旅だなんて、もうラヴィーナから逃げるのかい? 王獣だけじゃなく、王子まで死んじまって、まったく懸命だね。この国は、もう終わりだよ、へへへ」


 カウンターの端で飲んでいた、マントの女に話しかけられた。

 小汚い恰好をし、見るからに落ちぶれていて、相当酔っている様だ。


「あなた、この方を誰だと!」


 レティシアが恋人のワードに照れつつ、毅然とした態度で手を構えた。

 この国で王族への侮辱は確かに重罪だが、俺は慌てて手を下げさせる。

 石床が沈むようなシェルを人に使うとどうなるかは、俺でも想像できるし、威力を知らない人間に向けても脅しにならない。


 王子の正確な顔など、写真の無いこの世界では王都の人間しか把握していない。

 王都の人間は逆に、裸までバッチリ見てるんだけど、それはもう忘れたい。


 だから、この町の人々が旅人を王子と思わない事は当たり前だし、移動が危険な今、王子が生き返ったなんて情報が届いていなくても不思議はない。

 なので、王子だと名乗って便利な時もあるだろうが、その逆も然りなので一々王子だと名乗らない様にしていた。


 俺は酔っ払いとか、面倒だし怖いから関わりたくないと思った。

 しかし、今度はレオンの方がちゃんと説明する様に訴えてきた。

 民が希望を失っているのに、救いの手を差し伸べないのは主義に反すると言うのだ。


 いらないトラブルは避けたいが、ここはレオンに任せようと俺は酔っ払いの相手を始めた。




「私は国を救う為にガリスタファドルを目指している」


「ああぁ? てめえみたいなのが行って何が出来る? 王子みたいに王獣でも貰いに行くのか? そんな事出来る訳ねぇよな」


「いいや、それしかラヴィーナには道が無い」


 酔っ払いは「ハハハッ」と大笑いすると、ジョッキの中身を飲み干して俺の顔を見た。

 それから、首を左右にブルブルと振ると、もう一度ジッと見つめる。


「オレぁ……今日はちょいと飲み過ぎたらしい」


「そのようだな」


「オヤジ、つけておいてくれ。王子が見えるようになっちゃ、これ以上は飲めねぇよ」


 酔っ払いは、カウンターの椅子から飛び降りるとバランスを崩して倒れた。


「私を知っているのか?」


「あぁ? 知ってるも何も、オレが王子を殺したんだぜ? そりゃ、恨むよなぁ……へへへ」


 レティシアはそれを聞いてギョッとするが、俺が店主を見ると、店主は何のこっちゃと肩をすくめた。

 酔っ払いは、なんとか立ち上がると千鳥足で階段をのぼろうとするが、足もとがおぼつかない。

 手すりも無いので、座りながら少しずつのぼっていく。


 俺はレオンに酔っ払いを知っているか聞くが、記憶に無いと言う。

 そうしていると、酔っ払いは階段からズルズルとずり落ち、そのまま力尽きたのか大きないびきをかいて眠ってしまった。


 レオンを殺したとか、気になる事を言っていた。

 さて、どうやって話を聞いたものか。


 俺が悩んでいると、店主がカウンター越しに大きなバケツに水を汲んで持って来てくれた。

 店主の思わぬ気の利き方に俺の中で勝手に好感度が爆上がりする。

 これがギャップ萌えか……ありがとうオヤジさん。


 店主からバケツを受け取ると、その場で酔っ払いに水をぶっかけた。


「なにしやがる!」


 酔っ払いは酔いが抜けきらぬまま、反射的に抗議してきた。


「オレを……誰だと思ってやがるぅ……元ブリッツの騎士様だぜぇ……ひっく……」

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