第三十八話 待ってくれない
「やー、捜すのに結構手間取りましたよ」
辺りを見回しながらメイサは言った。今のところ自分以外の守護者の姿はない。どうやら一番乗りを誰かに取られることはなかったようだ。
「何故居場所が分かった?」
鋭い眼光を一ミリもそらすことなく双葉未來理が、否、双葉未來理の姿をした双葉未來理でないソレが言う。
「あなたが知っているか分かりませんが、かなりの人数があなたを捜しています。警察の情報を参考に、文字通り血眼になって。それなのに私から逃げて以来一向に姿すら確認できない。それが逆にヒントになりました」
「ヒント?」
「はい、こちらに来て日の浅いあなたより土地勘のある守護者達がそれだけ捜しても見つからないなら、もうこの街にいないのと同じです。ですが、有能な守護者達は街から出るルートも封鎖しています」
この街から出ずにこの街ではない場所、そこから導き出される答えは一つ。皮肉なことに、最もそこに精通している者達が見落としていたのだから笑ってしまう。
メイサはもう一度周囲を、まだちらほら子供がいてもおかしくない夕方の、人っ子一人いない公園内を見回して言った。
「よって、あなたが身を隠すことができるのは――結界の中だけです」
どの結界にいるのかは賭けだった。この世界に侵入してきたルートが分かればおおよその予想もできたのだが。
レイダーに動揺はなかった。それどころか片頰を吊り上げ不敵に笑う余裕まである。その表情の作り方は普段の未來理とは明らかにかけ離れており、未來理の中に違う何かが居座っていることを実感させた。
「ふん、だからといってお前に何ができる? この間のことを忘れたか。お前ではこの身体に傷一つ付けられまい」
「この前はそうでしたが、今は少し違います。双葉さんを傷付けることなく、あなたを倒します」
メイサの言葉に、レイダーが嘲るような目を向けてくる。
「世迷い言を、そんなことができるならどうしてあの時しなかった? ほらを吹くな」
「まあまあ、そう慌てないでくださいよ。少し待ってくれれば私の仲間があなたを倒す手段を持ってきてくれます」
レイダーの表情に少しの緊張が走る。それはメイサの声に自信を見て取ったからか、それとも背後から現れた第二の来訪者に気付いたからか。
「あらあら、随分な大所帯ですね。局員さん?」
一瞬黒崎恭哉であることを期待したのは勘違いだと思いたい。今の時間なら、恭哉はまだ西園寺の屋敷について間もないだろうに。
「西園寺メイサ、今すぐそのレイダーを引き渡せ」
結界内に現れたのは八人の守護者だった。そのうち黒を基調とした制服とマントを羽織った者達が六人、これは局員の一個小隊だ。そして我が鶴島高校の制服を着た者が二人、これは冬堂香苗と梅園伊織であった。
「こそこそと私の後ろをついてきて、何です? サインでも欲しいんですか?」
「聞いていなかったのか、今すぐレイダーを引き渡せ!」
おちゃらけるメイサに局員が一層声を荒げて言った。自らが正義で意に沿わないことは全て悪であると言わんばかりだ。もう何度聞いたか分からない、局員特有の気持ちの悪い性質。
「まあ待って下さい。何とかする人が来るので」
相も変わらず呑気に話すメイサが気に食わないのか、局員の激昂は止まらない。
「なんだそれは!具体的な説明を――」
「冬堂さんと梅園さんもしばしお待ちを」
「貴様っ! こちらの話に答えろ!」
無視されすっかり怒りが頂点に達している局員に気遣わしげに目をやり、伊織が口を開いた。
「それは、何とかする当てがあるということか?」
「そうです」
「……黒崎か?」
少しの沈黙の後、伊織が尋ねた。
「ご名答」
その凛とした顔を驚き表情に変え二人の会話に割って入ってきたのは香苗だった。
「黒崎と共に行動しているのか?」
「ええ、そうです。協力をお願いしました」
恭哉にしたのは、本当にただのお願いだった。駆け引きも条件も何もない、粗く稚拙な懇願。それに二つ返事で了承した恭哉は器が大きいのか変わっているのか。
「まったく……君達は何てことを……」
呆れることを通り越して頭痛でもしたのか、香苗がこめかみを押さえて呻く。
「くくっ、お前達は何を言っている? その黒崎とやらが何者か知らんがそいつ一人にどうにかできるなら、局員が駆り出される状況になってないだろう」
心底馬鹿にするような口調でそう言った先程から話している小隊のリーダらしき男が、以前双葉未來理の姿をしたレイダーと対峙しているところを見られた局員であることにメイサは漸く気付いた。
「では、『私達でどうにかするのでお引き取りください局員様』と言えばお帰り頂けるのですか?」
「そんなことできるはずがないだろう。お前達局員でもないものに任せられるか」
メイサ達を見下すことで余裕を取り戻したのか、嫌味を含んだ言葉に憤慨することはなかった。まあ、その余裕もすぐに崩れ去ってしまうのだが。
「あははは、嘘を言ってはいけません。あなたはただ私とレイダーを逃がした汚名をそそぎたいだけでしょう」
名誉、名声、功績、局員が固執するのはそんなものばかりなのだ。それが危機に瀕するとなれば躍起にもなる。ご多分に漏れずこの局員も同じようで、顔に青筋が浮かべた。
「そんなことはない!いいから、それを寄越せ!」
怒鳴りながらそう言うと、腰に差した長剣を構える。リーダーの動きに反応し他の隊員もそれぞれのエスパーダを構える。
「嫌だと言ったら?」
「力尽くにでも奪う。正義はこちらにあるからなあ!」
顔を歪め放ったリーダーの言葉を皮切りに、小隊が一斉に動き始めた。




