#2 トキコトバ
――ドサッッ……。
私の手元から本が滑り落ちる。仕事の疲れで少しうとうとしてたのかも知れない。その拍子に背表紙がはずれその中から小さく折り畳まれた紙が出てきた。なんだろうと思い私はその年月が立ちすっかり色褪せた紙切れを広げる。これ、ずっと紙と紙の間にうまいこと挟まってたんだ。読んでた時は全然気がつかなかったのに。なんで今更気がついてしまったんだろう。
「あれ、何これ? 住所?」
そこには小さな文字で住所のようなものが書かれていた。この住所、私には見覚えがある。これは私の地元にある小さな図書館の住所だ。子どもの頃、私は本が好きでよくここへ借りに行ってた。なんで東藤君がこの本にメモを挟めたのかはまるでわからない。でも、図書館に彼に関する手がかりがもしかしたらあるのかもしれない。
「このまま借りたままってのもなんだか悪いよね。ちゃんと彼に返してお礼言わないと」
もちろん彼が私のことを覚えてるかなんてわからない。長い長い人生を流れる時間からすれば私との会話なんてほんの一瞬のことだったろう。でも……。いや、だからこそこの本を返したかった。そう思った私の気持ちのままに行動したかった。
「今週の土日は仕事休みだから久しぶりに実家に帰ろうかな」
冷蔵庫に張り付けたスケジュール表を確認しながら私はそうつぶやいた。家に帰るのは本当に何年ぶりだろう。お母さん、お父さん驚くだろうな。そんなことを考えるとなんだか少し楽しくなった。