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イチ
「ヒーローは居ると思うか」
無表情のまま、男が声を落とした。こちらに向けたもの、と思うのが自惚れに感じてしまうくらい、それは小さく、そして無機質だった。
彼の瞳を見つめ、首を振った。
「ヒーローなんて、居ないよ」
夕暮れの公園で、あたりに人は居ない。ベンチに座る僕を見下ろす形で、男が前に立っている。傍から見れば、親子はおろか、いっそ誘拐の類いだと勘違いされそうだ。彼の、ボロキレのようなロングコートも、見るからに胡散臭い。髪には白色が入り混じり、口元は皺だらけである。
「では、ヒーローは、要ると思うか」
鷲鼻をひくつかせ、笑っているようだった。顔面が痙攣しているような、不器用な笑みだが、笑みだと思えるだけ、ましだろう。
「ヒーローは、要る」
開店時間を迎えた商店のように、グッパと口を開き、相変わらず、色のない声で、今度ははっきりそれとわかるように大きく笑う。
空が、橙から青紫に変わって、
「よかろう、君にこの力を授ける。君が、ヒーローになるのだ」
男は僕の頭を、掴むようにして撫でた。




