【Night 22】わたしのともだち
″てりか″が踊っているシーンの次のページからの内容はこんな感じだった。
てりかという少女には、友達が1人もいなかった。彼女の複雑な家庭事情が影響していたのだ。
そんな彼女は、友達代わりに、自分の影に毎日話しかけていた。ある時は学校の話をして、ある時は踊って、リンクする影を見て楽しんでいた。
そんなある日、いつものようにてりかが踊ると、なんと影が地面から剥がれていった。そしててりかの前に立った。
てりか「……かげさん?」
影「いつもはなしかけてくれてありがとう。きょうからわたしが、きみのともだちだよ」
こうして、影はてりかのただ1人の友達となった。学校でも、家でも、どこでも一緒だった。
しかし、そんな2人をよしとしない者たちがいた。
クラスメイトや近所の人たちだった。
彼らは、真っ黒な影のことを気味が悪いと言った。
クラスメイトは、石を投げた。
近所の人たちは、罵声を浴びせた。
てりかの精神は徐々に蝕まれていった。やがて、影とも遊ばなくなっていった。
影は非常に心を痛めた。自分のせいで、てりかは塞ぎ込んでしまった。その責任を痛感していた。
やがて、ある決断をする。
ある日、てりかが石をぶつけられた頭を抑えながら帰宅すると、とある異変に気がついた。
影の姿がなかった。
てりかはあちこちを探した。よくままごとをした自室、頭を抱えながら一緒に宿題を解いたリビング、そしてよく踊っていた庭まで。
すると、庭の端、木の裏に、隠れるように1枚の紙が置かれていた。
てりかはそっと拾い上げた。土を払いのけてみると、こんな風に書かれていた。
てりかちゃんへ
とつぜん いなくなって ごめんね。
びっくりしたかな?
てりかちゃん、さいきん ずっと げんきなかった。
でも、わたしの せいだって わかったんだ。
いくら なかよくしてても、いくら にんげんのように うごいても、やっぱり てりかちゃんの まわりは ゆるしてくれないよ。
だから、わたしは もうかえるね。
てりかちゃんなら だいじょうぶ。
きっとまた、いいともだちができるよ。
じゃあ、ね。
いっしょに あそんでくれて、ありがとう。
たのしかったよ。
震える字で、こう書かれていた。影が必死に手を動かして書いたのだとわかった。
てりかはしばらくその紙を眺めていた。そして実感がわいてくるにつれ、目の奥から何やら熱いものが溢れ出てきた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
てりかは意志を持っているわけでもない紙に、謝り続けた。
そこからしばらく経って、影がいなくなったことで友達になりたいという人が現れた。近所の人からも、かわいがってもらえるようになった。
でも、てりかは影のことを忘れることはない。
いつもいつも、大きくなっても、庭でずっと踊ってる。
てりか「わたしのともだちに……ともだちになってくれて、ありがとう」
「……なかなか深い話だね」
ヨウタは感慨深く言った。やけにわざとらしいように感じた。
「……ナギはどう思った?」
ヨウタはナギの方を向き、答えを求めた。
「え~」
ナギは突然のことに戸惑った。
「……まあ、なんか今の状況に似てね? ってだけだな。いや、確かに友達とか気にしてるくらいヤワな世界じゃねーけどよ」
バン。
突然、何かがぶつかるがした。それも、かなり近くから。
「はっ?」
ナギはまたしても戸惑うしかなかった。もしかして、影の襲来か。
「……そうだよ。それだよ」
!?
(何が!?)
どうやら先程の音はヨウタが机に手を打ちつける音だったようだ。影の襲来ではないとわかったが、それにしてもいきなりこんなことをするとは。
「……この絵本の作者はヒカリの父親だったよね? だから、父親が何か知ってるかもしれないんだ。もしかしたら、ただの偶然かもしれないけど……」
(……確かに)
ナギは先程とは一転、納得により落ちついた。確かに今回現れている影と絵本の影は一致している。
それに何より、その娘であるヒカリと出会っている。
(偶然にしては、できすぎている……)
ナギ自身も、自分がこんなに考察というものができるのかと驚いていた。
すると、ヨウタは机に置いていたスマホに目を落とした。存在をすっかり忘れていた。
「……もう充電が済んだみたいだ」
「おお、ついにか」
ナギは言ってみた。しかしすぐに、思っていたことを言った。
「でもよ、スマホを充電できたからって、何ができるんだよ? ロック閉まってて何もできねーぞ?」
「……だからだよ」
「は?」
するとヨウタは座っている椅子を机まで動かし、パソコンの前まで辿り着いた。
「……ありがとう、部長。まさかこんな所で役に立つとは」
「え?」
「……スマホの簡単なロックなら開けられる」
そうしてヨウタは、パソコンの電源をつけた。
ファンの音が大きくなり、画面が光を獲得していく。
閉ざされたパスワードが、開かれようとしていた。




