【Night 21】再起
「……会うのはもう無理だよ。諦めて」
ヨウタは無情にそう告げた後、ナギに背中を向けてしまった。そしてそのまま、ショッピングモールの中に入っていく。建物の中から漏れる暖気を浴びながら、ナギは考え込んでいた。
───そりゃあ無理だ。諦めな。
ヒカリに初めて会ったとき、放った言葉。
皮肉にも、自分に返ってくるとは。
(現実を知らされる……あの時のヒカリも、こんな気持ちだったのかもな)
「……どうしたの?」
流石に心配になったのか、ヨウタが開いた自動ドアの向こうから呼んできた。自動ドアは2人を認識し、中の暖房を流出し続けている。電力の無駄だな、とどうでもいいことを考えてしまった。そうでもしなければ、気が狂ってしまいそうだ。
「……いや、すまん」
そう言って、ナギは自動ドアの方向に歩いていった。ドアを抜け中に入ると、意外な返答で驚いているのか固まっているヨウタとのすれ違いざまにこう言った。
「……お前のおかげでちょっと冷静になれたわ。ありがと」
「………」
「おい、どーしたんだよ? 生き延びるためになんかするんじゃねーのか?」
「……あ……うん」
2人は建物の中に戻っていった。
自動ドアが、待ちくたびれたように閉まった。
「……さて……ここからどうしようか……」
2人は、事の発端であるハンバーガーショップに戻っていた。ヨウタはナギがぶつかり乱れたままの椅子を見ながら、なぜか感慨深く言った。
生き延びるための方法と言っても、今のところ思い当たることはなかった。ただこうやって毎日を過ごすだけでも大変だというのに。
「はぁ~ぁ、オレたちマジでどうすればいーんだよ……このスマホもロック開かねぇし……」
そう言ってナギは四角く硬いスマホを取り出し、電源ボタンを押した。ヨウタにパスワードがわからないということを示すためだ。
しかし。
「あれ? くそっ、つかねぇ……壊れちまったのか?」
いくら電源ボタンを連打しても、そのプラスチック質の音が響くだけで、液晶は光を出そうともしなかった。
すると、ヨウタがスマホに目を落とした。
「……充電が切れてるみたいだね」
「なんだ、切れてるだけか……」
「……とりあえず、充電しないと」
そう言うと、ヨウタはナギからスマホをひったくり、ハンバーガーショップの出口に走っていった。
「ちょっと待てよ! 充電っていっても、どうやって充電すんだよ」
「……充電器なんて雑貨屋にあるでしょ」
「それはそうだけどよ、コンセントだよ! コンセントなんてショッピングモールにはそうそうねぇだろ!?」
すると、ヨウタは少しにやけた。何が面白いのか、今のナギにはわからなかった。
「……まさかこんなに恵まれているなんて。やっぱり僕たちにもまだ勝機はあるよ……! ナギ、来て」
そう言って、ヨウタはナギを呼んだ。
「お前、聞いてんのか? コンセントはどこに───」
「……今から行くところにある」
そうして2人は建物の奥まで歩いた。
そして、エレベーターの前に到着した。
「……よし。これでOK」
充電器にスマホを接続するヨウタの手は、どこか熟練のような雰囲気があった。この空間だと、なぜかヨウタが何かしらの上級者のように見える。
ずっと黙っておくのも癪だったナギは、感心したかのように言った。なるべくわざとらしく。
「……なるほどな。確かにここだと、コンセントあるよな」
「……うん。あとはこれで、しばらく待つだけ」
ヨウタはスマホを軽く撫でるような素振りを見せると、近くの車輪付きの椅子に座り込んだ。ドサ、と重い音がして、椅子が少し動いた。
「……しかし良かったよ」
椅子に座り、放心状態となったヨウタは、やけに大きな声で呟いた。
「このショッピングモールにパソコン教室があって」
そう。ここはショッピングモールに小さく佇むパソコン教室だった。2人が雑貨屋から調達した充電器を、パソコンのプラグが刺さっていたコンセントに刺したことで、無事、スマホは電気にありつけたのだ。
「しかしお前、よく覚えてたよな」
「……あまり効果はなかったかもしれないけど、寝る前の記憶は定着しやすい。このショッピングモールの地図を見た後、すぐ寝ることで、いざというときに思い出そうとしたんだ」
ヨウタは興味なさそうに言った。しかし、口が少しつり上がっていたのを、ナギは見逃さなかった。
「まったくよー、お前、ヒマなのかよ!」
ナギは彼の背中に回り込むと、背中を思い切り殴った。ヨウタを乗せた椅子はその衝撃で前に進み、壁に激突した。
「……何するのさ」
ヨウタは振り向き、ナギに言った。
しかしナギは、ははははは、と笑っているだけだった。あまりにもおかしそうに笑うので、思わずヨウタも微笑んだ。さっきよりも大きく。
「……ところで」
ナギが一通り笑い終えたのを見計らって、ヨウタはナギに近づいた。
「……あの絵本、持ってる?」
「あの絵本?」
「……ほら、テリカの名前があるやつ」
「あー、忘れちまった」
ナギは軽く言った。
「……まあしょうがないか」
「あ、でも、すぐ隣の本屋に同じやつあったと思うぜ」
「……じゃあ取ってきてくれる?」
「しゃーねーな。忘れたもんな」
そう言ってナギは走っていった。
「……そういや、ナギの言ってることが本当なら……なんでテリカは影が〈特定の人物以外はすり抜ける〉ことを……? 予想にしては断定的すぎる……まあいいか」
ナギが戻ってくるのには1分も要しなかった。
「これだよな?」
ナギが右手に掲げているその薄い本には、確かに「わたしのともだち」と書かれていた。
「……うん。どんな話だったか、覚えてる?」
「……いや、知らねぇ。最初の1ページしか見てねぇし」
「……そうか。じゃあ、読もう。ナギにとってはちょっと苦しいかもしれないけど」
そうして、絵本を机に置き、ヨウタはページをめくった。
ナギの心臓は、今までに無いほど激しく、運動を続けていた。




