44.ついに解放の時が来た!
「ふぁうぅぅぅーっ! 美味しいですぅーっ!!」
今日のスイーツだったオレンジジェラートを口に含むや否や、カステラは甲高い声を発した。手を頬に当て、スイーツの美味しさに歓喜する。
食堂には、毎日、日替わりのスイーツがある。それは『今日のスイーツ』と呼ばれていて、日頃よりお手頃価格で注文することができるのだ。当日になってみないと『今日のスイーツ』が何かは分からない。そのためくじ引きのようなところはあるのだが、好きなものが当たった日は最高の気分になれる。
「カステラちゃん、嬉しそうねぇ」
「オレンジジェラート! 最高ですぅーっ!!」
透明なグラスに入った、オレンジ色の丸いジェラート。
ミントのような爽やかな香りとオレンジの酸味が、魅惑的な世界を作り出している。
フレアもこのメニューは好きだった。以前一度口にしたことがあったのだが、その時とても美味しくて、一気に惚れ込んでしまったのだ。口にした回数は少ないが、思い出のスイーツの一つである。
「美味しいわよね! リカルド」
「……はぁ」
ミルフィとカステラが話しているのを邪魔しないため、フレアはリカルドに話を振ってみた。しかし思ったような言葉が返ってこない。リカルドはただ溜め息を漏らすだけだ。
「どうしたの? 好みに合わない?」
「いや」
「じゃあ何? どうして溜め息なんてつくのよ」
「……女子会は暇だ」
一言で男子と言っても、色々な性格の者がいる。女子の中に入って盛り上がるのが好きな者もいれば、女子とはあまり関わりたくないという者もいるのだ。そして、リカルドは後者だった。女子の中に一人入れられるというのは、彼にとって嬉しいことではなかったのだ。
「退屈ーってこと?」
「……あぁ。そういうこった」
試験期間中だからだろうか、食堂にいる生徒の数は少ない。
日頃なら友達同士で集まって喋っている者もそこそこ見かけるのだが。
「じゃあどうしてついてきたの?」
フレアは純粋な疑問を口から出す。
「王女に何かあったらまずいから、だろ」
リカルドにはフレアを護る義務がある。そのためフレアを放置し続けるわけにはいかない。ただ、女子会くらいは嫌なら同席しないことも可能だろう。四六時中フレアの横にいなければならないわけではないのだし。
「ふぅーん。でも一緒に来ない時もあるじゃない」
「あれは、やむを得ん用事があった時だ」
「へぇー? それ、本気で言ってるのー?」
フレアに同行することを選択しているのは、結局のところリカルド自身だ。
誰も彼に絶対的な命令を下してはない。それゆえ、心の底から嫌なのであれば、リカルドはフレアの傍にいないことだってできる。一時より危険度が下がった今なら、なおさら。
「……何が言いたい」
「ううん、何でもない! ただ、リカルドは優しいなーって。そう思ってただけなの!」
刹那、リカルドは拍子抜けしたような顔になった。
そんな彼の顔面を、フレアは真っ直ぐに見つめる。純粋な色の丸い瞳で、フレアはリカルドを数秒じっと見た。そして、やがて、ふふっと軽やかな笑みをこぼす。
フレアの純粋な笑みに、リカルドはやられた。
リカルドはらしくなく顔を赤らめ、片手で額を押さえる。フレアに視線を向けることはできない。
「ったく、何だよそれは。……調子が狂う」
卒業試験も残り一日。
あと二つの試験を終わらせれば、卒業が見えてくる。
厳密な日数的には、卒業まではまだ時間がある。今は二月で、卒業は三月。ほぼ一カ月以上あると言っても過言ではない。が、乗り切らねばならない山という意味では、今が一番厳しい時だ。
卒業試験最終日は意外にもあっという間に終わった。
これにて試験はすべて終了だ。
「皆お疲れ様ァ! 出来はどんな感じダィ!?」
解散の前に、タルタルが教室の一番前で話す。
「これで卒業試験の内容は全部終わったネ! ちょいホッとしたかナ?」
タルタルの声は教室の後ろ寄りの席にまできちんと届く。最初の女性教師よりも、カッタルよりも、タルタルの声が一番大きく質も良い。
「ちょこっと感想聞いてみよーかナァ? じゃ、アダール」
「はい!」
フレアは正直早く帰りたい。数多の試験から解放された自由な時間を過ごしたいのだ。だが、そんな日に限って、タルタルの話がいつもより長い。なかなか解散にならないのが、フレアにとっては苦痛でしかなかった。
「試験の出来はドゥ?」
「大体できたと思います! 努力はしましたし!」
「さすがアダール。やるネ」
「ありがとうございます! 先生」
退屈過ぎて辛いフレアは、そっと後ろを向いてみる。すると、机に突っ伏して居眠りしているミルフィと魔術の分厚い本を熟読しているカステラが視界に入った。いつも通りだなぁ、と思いつつ、フレアは視線を前へと戻す。
「イノアくんはどうダィ!?」
「そういうくだらない質問に興味はないんですけど」
先ほどのアダルベルトとは対照的。
イノアは呆れ果てたような顔をしている。
「早く解散にして下さい。やらなくちゃならない勉強が他にあるんで」
フレアは内心ガッツポーズ。今はイノアに感謝の気持ちしかない。というのも、彼はフレアの気持ちを見事に代弁してくれていたのだ。
よく言った、と、褒めたい気分。
言いにくいことを平気で言ってのけるイノアのことを、フレアは尊敬した。
「自主勉があるんだナァ!? 偉い! 生徒の鏡だゼィ!!」
「もう終わりにしませんか」
「そうだナァ! じゃ、優秀な生徒に合わせて。本日はこれにて解散ッ!!」
フレアは内心歓喜する。
試験も終わったし、何をしようかワクワクして仕方ない。
荷物をまとめ教室を出た瞬間、フレアの視界に見覚えのある顔が入った。
「コザクラ! ……どうしてここに?」
特に何も約束はしていなかった。それなのに、花組の教室を出てすぐのところにコザクラが立っていた。フレアはなぜ彼女がいるのか理解できない。
「あの……フレアさん。もし良ければ、食堂に……行きませんか?」
「え。もしかして誘いに来てくれたの」
「は、はい。そうです。試験も終わりましたし……」
コザクラの顔の肌は今日も滑らかだ。毛穴の一つさえ見えない。
「いいわね! お菓子食べる?」
「は、はい……」
「ミルフィも一緒で大丈夫?」
「それは、もちろんです。ミルフィさんにも、お世話になって……いるので」




