43.疲れた時こそ!
卒業試験三日目。
今日は、行われる試験三つのうち、三つともが座学だ。
そのため、前日の夜から忙しかった。そして、今朝もまた、とても忙しい。ノートを見直したり、どのような問題が出るかを予想したり、やるべきことが盛りだくさん。試験開始の直前まで、準備は終わらない。
「ど、ど、どうしましょーっ! ミルフィさんカステラ、不安しかないですよぅーっ!」
「あらあら。朝から元気ねぇ」
「元気ねぇ……じゃないんですぅーっ! このままじゃ不合格になっちゃいますよーっ!」
カステラは朝から騒々しい。
合格点を取る自信がなくて騒いでいるようだ。
フレアが個人的に思ったのは、「取れそうにないなら取れそうなくらいまで勉強すれば良いのに」ということ。自信がないからこそ準備をきちんと行うべきではないか、というのが、フレアの考えだ。ただ、それを直接言ってしまうと傷つけることになりかねないので、フレアは黙っておいた。
「まぁまぁ落ち着いて。カステラちゃん、慌てることはないのよ?」
「ふぇ……? そ、そうなのですか……?」
「えぇ! だーってほら、あたしも自信ないもの!」
それでいいのか? と内心思うフレア。
「そ、そうなんですねーっ! ミルフィさんも一緒なんですね!!」
カステラはカステラで、なぜそれをすんなり受け入れるのか。
フレアからすると謎で仕方がない。
——そんな時。
「ちょっと。朝からうるさいよ」
はっきりした発言が飛んでくる。その声の主はイノアだった。
勉強家な彼は、今も試験のための勉強を継続している。日頃から復習を欠かしていないが、それでも、試験前にはさらに復習を行っているようである。地味にかなりの勉強量だろう。
「……は?」
いきなり嫌み混じりに注意され、ミルフィは不快そうな顔をする。
「試験の朝ぐらい静かにしたらどう。馬鹿じゃないならさ」
「どうしてそんなことを言われなくちゃならないのか、意味不明なんですけど?」
机の上のノートを閉じつつ、イノアは静かにするよう言い放つ。
しかし、それに素直に従うミルフィではなかった。
もしこの注意したのが女子であったなら、ミルフィの対応はもう少し良いものになっていたかもしれない。相手が嫌いなイノアでなければ、きっと、少しは聞く耳を持っていたことだろう。
「勉強してる人もいるんだよ。ギャーギャー騒がれたら迷惑」
「はぁ偉そうに何を。騒がしいのが嫌なら、そちらが出ていくというのはどうですかー?」
イノアとミルフィの激突が始まる。
止まらない。終わらない。
「そう思ってる人は多分他にもいると思うよ。もっと周囲を見たらどうかな」
「偉そうに! よくそんなことが言えますねぇ。何様のつもりかしら」
「知ってる? 勉強っていうのは、静かに行うものなんだよ。小さい頃に習わなかったのかな」
フレアはつい狼狽えてしまう。
どう反応すれば良いのかが分からないからだ。
イノアの言い方が相手をイラつかせるようなものであることは確か。だが、言っていること自体は正論のようにも思える。つまり、内容より言い方に問題があるということだ。
「放っておいてちょうだい! 貴方には関係ありませんから」
「……ふん。あっそ。ま、静かにするなら何でもいいよ」
朝から教室内が殺伐とした空気になってしまった。
三つめの試験が終了し、解答用紙の回収が終わるや否や、カステラは巨大な溜め息を漏らす。
あどけなさの残る愛らしい顔に濃く浮かんでいるのは心労の色。
フレアは、今日の試験も何とかクリアできたような気がしている。手応えは確かにあるのだ。全部満点ということはないだろうが、不合格ではないはず。そう思えるくらいには解答できた。
「大丈夫? カステラ。何だか疲れているみたいだけど」
「は、はいー……大丈夫……ですぅー……」
見るからに弱っているカステラを心配してフレアが声をかけると、カステラは大丈夫だと述べた。が、その言い方には明らかに元気がなくて。とても大丈夫そうには見えない。
「テストが上手くできなかったの?」
「い、いえ……何とか……」
「良かったじゃない! だったらもっと元気出して!」
フレアは敢えて明るい声を作って、励ましの言葉をかける。
だがカステラは元気を取り戻せない。
「疲れてるわねぇ、カステラちゃん」
とうに荷物をまとめ帰る気満々のミルフィが、フレアとカステラの会話に入ってくる。
「ふぇ!? ミルフィさん!?」
「あらあら。そんなにびっくりしなくていいのよ。あたしが話に参加してくるのはよくあることじゃない?ふふ」
イノアやハインは試験が終わるなり教室から出ていった。荷物をまとめ退室するまでが異様に早い。その素早さは、フレアにはとても真似できそうになかった。
「カステラちゃん、今からちょっと食堂にでも行かなーい?」
「え? ええっ!?」
「お菓子食べるの。スイーツをね。そしたらきっと元気になれるわよ?」
ミルフィは意外な提案をする。
そのような案、フレアは欠片ほども考えてみなかった。
けれども、それを耳にした時、フレアは密かにハッとした。そういう切り替え方もあるのだ、と気づいて。
「スイーツは好きですぅ……でも……」
疲れた時には甘いもの。
そういう意味では、ミルフィが出した案もあながち間違ってはいないのだろう。
「試験中ですぅ……」
カステラの思考はどちらかというとフレア寄りだった。彼女もまた、試験中だからといって、楽しいことから自身を遠ざけてしまっていたのだ。
「べつにいいじゃない? 試験中に美味しいもの食べたって!」
けれども、ミルフィは、今が試験期間中であることなど全然気にしていない。それどころか、そんなことは関係ないとでも言いたげだ。
「そ、そうなんですかぁ……?」
「そーよ! 疲れた時こそ甘くて美味しいものを食べなくちゃ!」
こうして、ミルフィとカステラは食堂へ直行することに。もちろんフレアもそこに参加した。一人寮に帰るのは寂しいから、である。そして、フレアの参加が決まったので、リカルドもどさくさに紛れて参加することに。結局四人で食堂へ行くこととなったのだった。




