42.試験二日目も混沌としてる!
「初日! 無事終了ね!」
卒業試験一日目、二つの試験は無事に終わった。
フレアはさっぱりした気持ちで寮に向かって歩く。
吸い込む空気はまだ冷たい。けれども、この世を見下ろしている澄んだ空の美しさに、なぜか温かな気分になってくる。気温と心情が一致しない、不思議な季節だ。
「終わったわねぇ」
「何だか他人事みたいね?ミルフィ」
「あら? そうかしら。そんなつもりはなかったのよー?」
フレアの隣を歩くのはミルフィだ。
同室の二人は、今日も変わらず仲良しのまま、道を歩く。
「あ! 見て!」
歩いている最中、フレアが何かに気づいた。彼女は一目散に駆けていく。ミルフィは戸惑ったような顔をしながら、フレアの後を追う。そして、十秒ほど追い続けた後、フレアが何を見ようとしていたのかに気づく。
「もうすぐ咲きそうなお花発見!」
フレアが駆け寄ったのは花壇だった。
ガーベラ学院の敷地内にはいくつもの花壇がある。それらの花壇には、秋頃までは花が咲いていた。季節に合わせて変化していく花たちが、そこを埋め尽くしていたのだ。しかし冬が来て、植物は一旦枯れてしまって。寒い間、花壇には彩りがなかった。
けれども、今日ついに、つぼみが発見された。
「まぁ。可愛いつぼみねぇ」
ミルフィは、嬉しそうなフレアの背を温かな眼差しで見つめる。
まるで仲良しな姉妹のよう。
「凄いわね! お花!」
「えぇ、今年もまた咲き始めるのよね。きっと」
花開くにはまだ寒い日々だが、そんな中でも、植物は確かに春の支度を始めている。いつか訪れる暖かな日を夢見て、つぼみは徐々に膨らむのだろう。
「一番乗りはっけん! ついてたわ!」
「ふふ。フレアちゃんったら、すっごく嬉しそうねぇ」
花壇のつぼみとにらめっこしながら子どものような無邪気な笑みを浮かべるフレアを見て、ミルフィは一人うっとりしていた。
翌日は座学の試験ではなかった。
魔術実技と体力作りである。
朝、花組の生徒たちは魔術実習室へと直行する。なぜなら、そこで試験が行われるからである。
広々としていて空気は乾いている魔術実習室。そこは一種の肝試しエリアとも言えよう。教室内のありとあらゆるところに怪しい物体が置かれていて、絵本の世界に入り込んでしまったかのようだ。
フレアも、今ではすっかり慣れたが、最初に来た時は若干怖さを感じた。
「カステラの見せ場ーっ! ですよぅーっ!」
朝一番からカステラは大声を発している。やる気満々だ。
「凄いやる気ね、カステラ」
「え? は、はい! その通りですよぅー!」
戦争史の試験が上手くいかなかったようで、昨日は少し弱っていたカステラ。しかしながら、今日は恐ろしい元気さで試験に取りかかろうとしている。昨日号泣していた生徒と同一人物とはとても思えない。
「お互い頑張りましょうーっ!」
「えぇ。ありがとう、カステラ」
魔術関連の知識だけは異様に持っているカステラ。実技だってお手の物だ。
他のことに関してはかなりのドジっ子だが、魔術に関わらせればナンバーワン。ある意味最強である。
「今から体力作りの試験を行うヨゥ!」
フレアは何とか魔術実技の試験を乗り越えた。
試験内容は炎魔法で枯れ木を燃やすというものだったのだが、取り敢えず火を点けるところまでは成功。美しい炎のシルエットを作るのは難しくあまり成功しなかったが、何とか及第点には乗ったはず——というのが、フレアの見解である。
「一種目目! 上体起こし! 三十秒以内に何回できたかで成績がつくゾゥ!!」
体力作りという授業の試験は、決して難解なものではない。
基本的な運動能力を測るものであって、超人的な身体能力が求められる試験ではなかった。
「よーい……開始ィ!」
リカルドの上体起こしは異様に早い。残像が見えるくらいの早さ、と言うべきだろうか。とにかくスピードがある。脚を固定する役の者が動揺するくらいの、凄まじい上体起こしだった。
ちなみに、フレアの記録は二十回。
まぁまぁである。
ただし、フレアにしては多くできた方である。
というのも、彼女は学院に入学するまで、上体起こしなんて挑戦したことがなかったのだ。
そのため、授業で初めてやってみることになった時には、定番のやり方すら分からない状態だった。右も左も分からないところからのスタートだったのである。
それでも、練習を重ねているうちに、ここまではできるようになった。
「二種目目! 50m走! とにかく走ってもらうヨゥ!」
続く種目はシンプルに走るだけのもの。
二人ずつ順に時間を測っていくのだが、一人、とんでもないことになっている生徒がいた——そう、カステラだ。
カステラは走り出す前、地面に手をつく完璧な姿勢で構えていた。しかし、合図がなって走り出すであろう瞬間に、いきなり前向けに転倒。下手な前転でもしたかのように転がってしまっていた。それでも、カステラは挫けない。何とか立ち上がると、懸命に足を動かす。が、10mに一度くらいつまづいてしまって。結局、五回以上転倒することとなった。
この時ばかりは、さすがのリカルドも驚いたような顔になっていた。
だがそれも無理はない。連続で五六回も転倒している人を見て驚かないなんて、ほぼ不可能に近いことだから。
「三種目目! 反復横跳び! きちんと線を踏むか越えるかするよう二ィ!!」
細やかな動きが求められるこの競技、花組で一番上手かったのは意外にもハインだった。
他の生徒が足のコントロールに苦心する中、ハインは容易く美しい横跳びを披露する。水着姿の女性が載った本を開いて両手で持ち、写真をじっくりと堪能しながら、彼は華麗に反復横跳びを行い続けた。
普通は跳んだ勢いのせいで足裏が滑り時間をロスしたりしてしまいがちだが、ハインはそんなこともなく、一歩一歩確実に位置取りしていて。とにかく無駄がなかった。
「す、凄いのね……!」
ハインの美しい反復横跳びに感動したフレアは、思わず話しかけてしまう。
「うむ。慣れ、か」
「ええっ。慣れるなんて……!」
「自室ではいつも、こんな風にして読んでいる」
「反復横跳びしながら!?」
「うむ。その通り」




