32.謝って回ることに!
フレアを狙い花組生徒たちを襲った犯人はカッタルだった。それが判明し、フレアは、言い表しようのない達成感に満たされる。リカルドが怪しまれ始めてからずっと抱いていたもやもやは消え去り、今やもう欠片も存在しない。
その後、フレアは、被害者に謝って回ることにした。
知らなかったことだとはいえ、物騒なことが起こる原因を間接的に作ってしまったのは自分だと、そう思ったから。
「ごめんね、カステラ。迷惑かけちゃって」
「ふぇ!? どうして謝るのですかーっ!?」
フレアに謝罪されたことに驚き、カステラは片付けかけていた筆箱やらノートやらを床に散乱させてしまう。皆が振り返るような凄まじい音が響いた。
「……あっ、す、すみません!」
謝られただけでも驚き落ち着きを欠いていたカステラだが、物を落としてしまったことによってさらに慌ててしまう。
「大丈夫よ。落ち着いて落ち着いて」
「は、はいぃ……」
「で、迷惑かけて悪かったわね。ごめんなさい」
「そんな! そんなそんなっ。カステラがただドジだっただけですぅっ!」
落としてしまった物を拾いつつ、カステラは首を左右に振った。
そのタイミングで、フレアは改めて「これからも仲良くしてくれる?」と尋ねる。するとカステラは、頭が飛んでいきそうな勢いで頷きを繰り返す。脳震盪を起こさないか心配になるくらいの頷きぶりだった。
その後、フレアはハインのところへ向かう。
明るさを意識した声で「ちょっと良いかしら」と声をかけてみる。その声によって、女性の水着本を熟読していたハインは面を持ち上げた。
「改めて、迷惑かけてごめんなさい」
「否。罪は無い」
ハインははっきりと言いきった。
「ありがとう。また水着について教えてちょうだいね」
「もちろん」
「あ。あと、この前は一緒に逃げてくれてありがとう」
「当然のこと」
ハインは口数の多い人間ではなかった。が、フレアのことは嫌っていない。躊躇いなく水着話をできる仲だからだ。フレアと会話する時の彼の表情は柔らかい。
そして次。
フレアはミルフィに顔を向け、じっと見つめる。
「フレアちゃん? ……どうしたの? そんなに見つめて」
唐突に凝視されたミルフィは困惑したような笑みを浮かべる。
「襲撃させちゃってごめんなさい」
「え! ……い、いきなりね。どうしたの?」
ミルフィは謝罪されるとは想定していなかったようだ、華やかな目を見開いて驚きを露わにしていた。
「迷惑をかけてしまったから、謝ろうと思って……」
フレアは改めて謝罪の理由を説明する。
「そ、そう。そういうことだったのね」
「ごめんなさいミルフィ。変だった?」
「変じゃないわよ。可愛いわよ! フレアちゃん!」
いきなり「可愛い」などと言い出すミルフィを見て、フレアは「相変わらずだな」と密かに思う。けれどもフレアは、ミルフィのそういうところが嫌いではない。王女という身分である自分を温かくを迎え入れてくれた、その良い記憶があるからだ。
数日後、フレアはコザクラに会いに行った。
そして、カッタルが犯人であった可能性が高いことやフレアの事情を打ち明け、巻き込んでしまったことを謝る。
「そういうことだったのですね……色々判明したようで、安心しました」
食堂でイチゴプリンを食べつつ、フレアとコザクラは言葉を交わす。
「迷惑かけてごめんなさい」
「い、いえ。謝らないで下さい。……親しくなれて、嬉しかったのです」
フレアは銀の小さなスプーンを手に取り、桃色のイチゴプリンに狙いを定める。それからスプーンを丁寧に動かして、プリンをすくった。すくわれたプリンは、スプーンの上でふるふると微かに揺れる。指でつんと触りたくなるような揺れ方だ。
「あのね、これからも仲良くしてほしいの。受け入れてくれる?」
「はい。……もちろん、です」
コザクラは喋っているときでさえ静かだが、微笑むと愛らしい。彼女の笑顔は、品のある魅力に満ちていた。ただし、お淑やかな愛らしさなので、男子生徒たちが気軽に寄り付けるような愛らしさではないかもしれないけれど。
「ありがとう! じゃあ、今日のプリン代は私が払うわね!」
「え……。そんな。申し訳ないです」
「固いこと言わないで。私、こう見えてもお金はあるの!」
フレアはお茶目に小さくガッツポーズをしながら、そんなことを言う。
それに対し、コザクラは、口もとを手で隠しながらクスクスと笑った。
「そ、それはそう……ですよね……!」
コザクラは肩を揺らしつつ笑う。
その様は、まるで小動物のよう。柔らかくて、繊細で、自然と護りたくなるような雰囲気をまとっている。
後日、フレアとリカルドはイノアから謝罪を受けた。
イノアは一連の事件の犯人を一番にリカルドではないかと疑い始めた人物。
「ごめんなさい。謝っておくよ」
珍しくイノアの方から声をかけてきて、驚いていたら、疑惑を口にしてしまったことへの謝罪で。フレアは少々対応に困ってしまっている。
「いいの! 気にしないで。リカルドは悪くないって、分かってくれたならそれでいいのよ!」
フレアはイノアを責めようとは思わなかった。
これで向こうが謝る気ゼロなのなら、話は少し違っていたかもしれない。けれども、イノアは反省している様子。フレアは、既に反省している者を責め続けるほど心ない人間ではない。
「そうよね! リカルド!」
「……あぁ。べつに責める気はない」
疑われた当人であるリカルドも、イノアを責めようとは考えていないようだった。どうでもいい、というような、冷めた顔つきをしている。
「ほらね! リカルドもこう言ってるわ!」
「悪かったと思ってるよ」
「ううん。大丈夫。それより、これからも仲良くしてね!」
フレアに満面の笑みを向けられたイノアは、心なしか恥ずかしそうな表情をする。顔面も若干赤らんでいるかもしれない。捻くれ気味のイノアだが、王女の笑顔には勝てなかったようだ。




