33.冬が迫る!
十二月、ガーベラ学院がある辺りにも冬の色が滲んできた。
澄んだ空気は冷たく、吸い込むと体の奥まで冷えきりそう。雪は降りはしないものの、厚めの服を着なくては寒くて仕方がないくらいまで温度は下がってきている。
植物が生い茂る季節は終わった。
つい一ヶ月ほど前までは根強く残っていた緑も、今はもうほとんど枯れた。
氷のように冷たい空気の中、授業は行われ続けている。
担任のカッタルが逃走したため、今はタルタルが担任のような役目を果たしている。学院長が担任になったので、皆、最初は驚いていた。だが、気さくなタルタルはすぐに花組に馴染み、今ではそこまで遠巻きに見られてはいない。
「怪我人の治療の際に気をつけなくてはならないこトゥ! 下手に動かさない、まずは意識を確認するトカ! ……それが書かれているのが二行目から四行目。どうだイ?」
座学の時間はだらけている生徒も多い。
最近は特に、慣れもあってか、ややだれた空気が流れがちだ。
ただ、勉学に励むことに関しては真面目なフレアは、タルタルの話すことをきちんと聞いて学習に取り組んでいる。それは今でも変わらない事実だ。彼女の授業態度の良さは、ガーベラ学院内でも有名なくらい。
しかし、すべての生徒がそのような良い態度で授業を受けているわけではない。
ミルフィはやたらと居眠り。リカルドは着席したまま剣の手入れ。カステラは別の勉強。ハインは一生懸命水着の美女漁り。
座学の時間、花組は実に奇妙なことになってしまっている。
そんなクラスの様子を見る時、フレアは少しばかり不安になる。全員卒業できるのか、と考えると、もはや心配しかないのだ。
フレアとて優等生ではない。勉強が非常に良くできるというわけでもない。ただ、だからこそ取り組みくらいはきちんとしようと考え、授業を受けるよう心がけている。そんなフレアからすれば、周囲の不真面目さには戸惑いしかない。
「オゥ!? ……き、聞いてるカイ? そこの水着本見てるボーイとか、ヤバいヨゥ!?」
特に、ハインの水着本熟読には、タルタルもさすがに注意していた。
フレアもそれには「同感だ」と思う。言いたいくらいだったが、口にはしなかった。ただ、タルタルと同じ心境であることは間違いない。
「いくらナイスバディでも没収するヨゥ!?」
変に純粋なところのあるフレアは、男子が女性の水着の本をがっつり読んでいることへの嫌悪感はたいして抱いていない。可愛い水着もあるし、おしゃれな水着もあるから、そういったものを見ることは悪いことではないと思っている。
だが、授業中に熟読はさすがにまずいだろう、とは思うこともある。
「ちょーいちょイ! 聞いてルゥ!?」
「……水着とは、神である」
「ンァ!? ちょ、それは何!? 本気で言ってるとしたら、かなりヤバいヨゥ!!」
放課後、フレアはミルフィに話しかけられる。
「フレアちゃーん! ノート貸してもらえないかしら?」
妙に明るい声で話しかけてきたと思ったらこれだ。フレアもさすがに呆れずにはいられない。とはいえ、ミルフィがノートを借りようとするのはこれが初めてのことではない。それゆえ、フレアはそんなに驚かない。ただ、呆れることは呆れる。何回目でも、呆れることに変わりはない。
「良いわよ。写すのね」
「うふふ。フレアちゃんたら、よく分かってるわね!」
フレアは時折呆れる時がある。だが断ることはしない。ミルフィは大切な友人だからだ。ノートを貸すくらいお安い御用、といった感じである。
「それで、どれを貸せば良いの?」
「治療学習、国語、古代文、歴史、戦争史」
「多っ!」
「駄目だったかしら……」
「う、ううん! 駄目じゃない! ちょっとびっくりしただけ!」
十二月も半ばに近づいてきた頃、朝の会でタルタルが『聖夜祭』について述べた。
その『聖夜祭』なるイベントは、ガーベラ学院では毎年行われている催し物の一つだそうだ。秋の恵みパーティーや球技大会などの仲間のようなものなのだろう。元々は宗教行事だった聖夜を祝うという行為をパーティー風に変えたものが、この『聖夜祭』らしい。
「その日も授業はないヨゥ! その代わり、パーティーは全員出席すること! 決まってルゥ!」
聖夜祭はあくまで楽しむためのイベントである。交流のための場であって、厳密には学習の場ではない。そのため、欠席しても許されそうなものなのだが、ガーベラ学院では原則全員参加が義務付けられている。皆が参加することに意味がある、ということでの決まりだ。
「ロマンチックですぅー」
普段通り魔術関連の本を読んでいたカステラは、聖夜祭の話を聞くと、急にうっとりし始めた。片手の手のひらを丸い頬に当て、遠くを眺めるような目つきをする。
「うふふ。ロマンチックに憧れるカステラちゃんったら、可愛いわねぇ」
うっとりした顔をするカステラを見て、ミルフィは感想を述べた。
「ミルフィさん……! 言わないで下さいっ……!」
カステラは、ミルフィに発言されたことで正気を取り戻したようだ。
顔を赤くして恥じらっている。
「あら、どうして? あたし、何か悪いこと言ったかしら。あたしはただ、可愛いと褒めただけよ?」
「で、でもでもっ……。恥ずかしいですよぅーっ」
「いいじゃない、カステラちゃん。褒められているのだから喜んでちょうだい?」
「うぅー……」
聖夜祭の話だけでこんなに話が広がるなんて、と、フレアは少々感心する。
「ちなみヌィ! ……ここだけの話、聖夜祭の時は告白とかが多いヨゥ」
タルタルは、いきなり、思春期の者が好きそうな話をぶち込んできた。
教室内の空気が一気に変わる。
「ま、若さだから良いけどネ。過激になりすぎないよう気をつけてネ!」
刹那、アダルベルトが口を開く。
「先生!」
はきはきした声をかけられたタルタルは一瞬戸惑ったような顔。しかしアダルベルトは、タルタルの様子は微塵も視野に入れない。躊躇いなく問いを放つ。
「過激に、とは、具体的にどのような内容でしょうか!?」
ミルフィは「うえー」とでも言いたげに顔をしかめる。
「……それを聞くなヨゥ」
「具体的を挙げていただいた方が理解しやすいのですが!」
「取り敢えず落ち着いてくれィ」




