22.相談してみておいた!
フレアはミルフィに連れられてリカルドの部屋へと向かった。
不気味な紙のことについて伝えるために、である。
「ちょーっといーかしら?」
リカルドの部屋の扉をノックしたのはミルフィ。だがそれに深い意味はない。ミルフィがノックした理由は、彼女が前を歩いていたから、ただそれだけである。
「……珍しいな」
ノックに応じて扉を開けたリカルドは、すぐそこにミルフィが立っているのを見て驚いた顔をした。
「フレアちゃんのことで話があるんですけど」
「男は嫌いなんじゃなかったのか」
「えぇ! そうですよ! ……でも、今はそんなことを言ってられないんです」
リカルドに嫌み混じりなことを言われてもミルフィは動じない。
話さなくてはならないことがあるから。
「何だ急用か?」
「えぇ。取り敢えず部屋に入れて下さるかしら」
ミルフィに意外なことを言われたリカルドは、顔面に驚きの色を滲ませる。それから数秒が経つと、今度はミルフィを怪しむような顔つきになった。が、ミルフィの後ろに不安げな表情のフレアがいることに気づくと、「王女も一緒ならいい」とリカルドはミルフィらを招き入れた。
「で、話とは何だ」
フレアとミルフィを室内へ招き入れると、リカルドは改めて尋ねる。
「実はね、フレアちゃんがこんな紙を貰っていたみたいで」
ミルフィは、まず、不安げな顔をしているフレアをベッド上に座らせた。それから『次はお前だ、王女』と書かれた紙をリカルドに差し出す。
「……これは?」
「フレアちゃんのベッドに置いてあったんですって」
「イタズラか何かか?」
「あたしもよく分からないのよ。でも、フレアちゃんは不安になってるみたいなの」
リカルドは「……ったく、くだらんことをしやがって」と誰に対してでもなく不満を漏らす。
ミルフィもそれには同意していた。
「明日カッタル先生にも伝えておこうと思うんですけど」
「あの男に言うのか?」
「あら? どういうことかしら。駄目だと言いたいんですかー?」
そこまでは意見が揃っているようだったリカルドとミルフィ。しかし、ここに来てずれが出てきた。ミルフィは担任にも伝えようと考えているのだが、リカルドはそれに賛成していない様子。
「しばらく黙っておいた方が良いんじゃないか」
「あらら? それはどういうことです?」
担任にはまだ言わない方が良いのではという意見を持ったリカルド。それとは逆の意見を持っているミルフィ。二人が言葉を交わしているのを聞きながら、フレアは周囲を見回す。よく考えてみたらリカルドの部屋に入ったのは初めてかもしれないな、などと考えながら。とはいえ、リカルドの部屋も構造自体はフレアたちの部屋とさほど変わらないものだった。ベッドの数が一つであること以外に大きな違いはない。
「もしかして、犯人は貴方だったりするのかしら」
「……馬鹿言うな。んなわけないだろ」
「そうよねー、当然よねー。でも、だったらどうして、先生には言わない方が良いと考えるのかしらね? 不思議で仕方ないですねぇ」
ミルフィはじっとりとした目つきでリカルドを見る。
リカルドが紙を置いた犯人、と疑っているかのような目つきである。
「待ってミルフィ! リカルドはそんなことしないわ」
「フレアちゃん?」
「リカルドは昔からの友達なの。だから分かるわ。こんな悪質なイタズラをする人ではないって」
フレアの発言を耳にしたミルフィは、「冗談よ、冗談」と言って笑う。それから数秒間を経ち、「あたしだって、本気で彼を疑ってるわけじゃないわ」と目を細めた。長い睫毛が優雅に揺れる。
「何にせよ、決めるのは本人よね。フレアちゃん、先生に伝えるか伝えないか、どっちにする?」
ミルフィは片手を差し出す動作をしつつ問いかける。
フレアはすぐに答えることはできない。が、暫しの思考の後、小さめの声で「そう、ね……一応言っておこうかしら」と答えを発したのだった。
翌朝、フレアはミルフィに付き添ってもらいながら担任のところへ行った。
「カッタル先生、少し良いでしょうか」
教室の前側に立ちつつも、無言で書類を熱心に読んでいた花組担任のカッタルに、ミルフィは躊躇いなく話しかける。
「……あぁ。何だ」
「すこーし相談したいことかあるのですけど」
「構わないが、どうした?」
「見て下さい、この紙」
ミルフィは問題の紙を差し出し、カッタルに見せる。
毒々しい言葉が書かれた紙をいきなり見せられても、カッタルはちっとも動揺していなかった。
「イタズラか何かか」
「そうなんです。フレアちゃんのベッドにいつの間にか置かれていたみたいで。困りますよねぇ」
フレアへのイタズラについて話す時、ミルフィは相手が男性であっても困ってはいなかった。それを見て、フレアは「男性が苦手なわけではないのだな」と理解した。ミルフィは男嫌いだが、男性が苦手とか男性とまともに関われないとかではないようだ。
「怪しい輩がうろうろしていないか、確認しておいてほしいんですけどー」
「そうか。分かった」
こうして、不気味な手紙の件をカッタルに伝えることができた。
フレアは安堵する。大人に知っておいてもらえたら少しは安全になるかもしれない、と考えたから。教師もいるところで暗殺が起こることはさすがにないだろう、とフレアは思っている。
「ありがとう、ミルフィ。助かったわ」
「いいのいいの! たいしたことしてないわよ!」
用事を済ませ、フレアとミルフィは着席する。
リカルドは不機嫌そうに二人を見ていた。
「もう何も起こらないと良いけど……」
席に座るや否や、フレアは呟く。
「大丈夫よ、フレアちゃん。あたしがついてるわ」
「そ、そうね。ありがとう。安心だわ」
フレアの心にはまだ不安の欠片が残っている。一度こびりついた不安というのは、そんな簡単に消え去ってくれるものではないのだ。ただ、悩みを他者に打ち明けられたことは大きい。一人で抱え込み続けているより心が楽になったことは確かだ。




