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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
白き龍
29/32

霞夜の成れの果て

更新滞りまして申し訳ありません。

まったりとですが続きを掲載していく予定です。

宜しくお願いします。

若干グロ表現がありますので、ご注意下さいませ


私達、白弦国の軍人に見守られながら食事を終えた周防王は


「もう大丈夫です」


そう言って立ち上がるとニコッと微笑んだ。それを見た涼炎様が周防王の背に手を当てた。


「では、周防を連れて戻りましょうか?周防、一度白弦国に参りましょうね。私も星笙達も皆、おりますからね」


周防王は一度、周りを見てからコクコクと頷かれた。


「ええ?もう異世界から出るんですか?」


「もう少し見ていたい!」


緋劉と空守殿下がほぼ同時に叫んだ。


おい…冒険者野郎共…童のくせに大人の言うことを聞きなさいよ。


「いてもいいけど…ここの生き物…皆、巨大だよ?君たちじゃ踏みつけられてぺちゃんこだ」


「ギャアアアア…!」


「!」


と、周防王が小首を傾げながら言った後に、何かの大きな生き物の鳴き声が森に木霊した。


「ああ、アレ、ものすごい大きな鳥で…」


と更に言いかけた後に、すごい突風が吹いてきて周りが暗くなってきた。


緋劉と空守殿下は悲鳴を上げながら、ものすごい勢いで私を突き飛ばして走って逃げた。


「ばっバカ!乙女を突き飛ばすなんて何するのよ!頭からかじられちゃえ!」


私は急いでこの辺り一帯に霊物理防御結界を張った。


「ふんっ!ささっ…周防様帰りましょう」


当然、童2人は結界の外だ。ものすごく大きな鳥?のような全長が龍の時の神龍王より大きなソレは動き回る緋劉達に気が付いて、ものすごい雄叫びをあげている。


「り、凛華ぁ!」


二人が大慌てで結界の外から手を振っている。


仕方ないね…。本当に仕方なく結界の中へ招き入れてあげた。


緋劉がしょぼんとして結界に入って来て、ごめんなさい…と謝ってきた。


まあいいでしょう…。


とか何とか言いながら元の世界、白龍国に戻って来てまた一瞬で白弦国に戻って来たら、時間は深夜になっていた。ところが深夜にも関わらず。詰所の裏庭に煌々と明かりが焚かれ、禁軍のお兄様達がウロウロしている。どうしたんだろうか?


「皆様、ご無事で」


「何かあったのか?」


螻 雪翔(けらせっしょう)、せっちゃんが声をかけてくれた禁軍のお兄様方に尋ねるとお兄様方は表情を引き締めた。


「実は…数刻前に洸兌様が例の黒龍国の雷慈王の臣下、霞夜(かよ)と言う者を捕縛しておりまして」


か…霞夜…?んん?


「な、生首ぃぃぃ!?」


「生首のおじさん!嘘だろ?」


「神龍王!?」


皆が叫んだ後に一斉に神龍王に目を向けた。神龍王は深く一度頷いた後に


「雷慈には連絡したかの?」


とお兄様方に聞いた。お兄様方は頷かれた。


「今、伝達術を使いまして…。送らせて頂いております」


「まどろっこしいな、わしが話す。雷慈……ああ、夜更けにすまんの。今、白弦に霞夜が現れて捕まえたそうだ。うん…うん…そうか。分かった」


神龍王は皆を見た。


「十数分刻で身支度を整えて飛んで来るそうだ」


「す、数分で来られるのですか?」


思わず凱 霧矛、きりちゃんが影の中から話しかけている。因みに今、きりちゃんは緋劉の影の中にいる。


「先ほど使っていた徐 翠泉(じょすいせん)と同じ術だ。どれ、雷慈が来るまでに蝋慧(ろうけい)と話してみるかの」


神龍王がそう言って移動し始めたので、皆も恐々、後をついて行った。


念願の?生首との対面である。緋劉なんてさっきから完全に私の後ろに隠れている。


「宮の地下牢に投獄してあります。何せ不死の者であるとのことで、術師が総出で結界を張って警戒しておりまして…」


「うむ、あの不死の者は特殊だからな、もしかすると、わしとて知らぬ術を操るかもしれん」


神龍王、皆ビビっちゃったよ。そんな怖いこと言わないで下さい…。


「ああ、緋劉!凛華!」


私達が詰所の裏庭から王宮に移動しかけると、詰所の窓から隗兌君が顔を出した。


おや、深夜にも関わらず李 隗兌君(十四才)が起きているね。明日試験じゃないの?大丈夫?


すると隗兌君は窓から飛び降りて走って来ると、なんと私に抱きついてきた。


「怖かったよぉ~マジ怖かったんだよ!もう死ぬかと思った!」


「え?え…何?何かあったの?」


緋劉が隗兌君を私から引き剥がした。すると隗兌君は今度は緋劉に抱きついた。


「緋劉~ヤバかったんだよっ…マジで…」


半泣きの隗兌君から話を聞くと…


「ええっ!?生首に追いかけられた!?」


「そうなんだよぉ…そこの資材置き場にいてさ、飛び出してきて捕まったらやべぇと思って…凛華の術札のお陰で助かったよ!」


緋劉と二人で隗兌君の背中を撫でる。すると泯典と涼炎様も隗兌君の頭を撫でてくれた。


「良く逃げ切ったよ。怖かったな…」


「幼気な子供に向かって何てことだろう…」


そうか、泯典も追いかけられたっていうか、迫られてたよね?


やがて、皇宮の地下牢に移動すると、洸兌様と伶 秦我中将がと術師と共に一つの牢の前に屯っていた。


「よぉ…聞いた?隗兌アレに追いかけられたんだって」


洸兌様が指差す先に…アレ、つまり蝋慧元殿下で霞夜…の慣れの果て、不死の者になりそこないが居た。


「榛葉ぁぁ…ここから出してくれぇ…!」


牢の中からこちらに向かって手を差し出している中年の男がいた。


「こわっ!」


「これは恐ろしい…」


霞夜は改めて見ても普通のおじさんだった。何をもって普通、と言うのかは個々の基準で違うだろうけど、私が見る限り大衆に紛れてしまうと判別がつかなくなってしまうと感じる印象の顔立ちだった。しかし霊質が酷く澱んでいる…体の中は真っ黒だ。怖い…。


「榛葉ぁ…助けてくれぇ…」


「榛葉はいません」


涼炎様が凛とした声で言い切った。牢の中の生首はギロッと涼炎様を睨みつけた。


「榛葉はそこにいる!」


「しっかりと眼を開けて見ろ。お前が榛葉だと呼ぶものはここにいるか?」


神龍王が一歩前へ出て生首…霞夜を見据えた。


「お前が生まれ変わった榛葉を見て、これは榛葉ではないと申したな?だから榛葉はもう榛葉としては生まれては来ない。榛葉自身にも拒否されている…分かるか?蝋慧よ、この永久の婚姻は思いあってこそ意味のある術式だ。片恋を強引に繋ぎ止めるものではない」


「違う違う!榛葉と私は思いあっていた…!」


「真実に目を向けよ!皆が皆、好き合える訳ではない!巡り合えなくて苦しむものも沢山おる!お前は榛葉という入れ物を好いていただけであろう?」


霞夜は目を見開いた。そして洸兌様と可哀そうに…隗兌君まで指差して


「あそこに榛葉はいる!」


と名指しされてしまった。お気の毒…。隗兌君はぎゃあ!と叫んで、せっちゃんの後ろに逃げ込んだ。大きくて一番隠れやすいもんね。洸兌様は汚いものを見るような顔で生首を見詰めた。


「あ~そう。そしたらなんであんたの榛葉は二人もいるのかな~?因みに涼炎様や翠泉大将も榛葉かもしれねぇよ?」


ぎゃっ!よりにもよって涼炎様と笑顔の裏に黒いモノをチラつかせた翠泉大将を名指ししたよ!


「洸兌…やめなさい」


涼炎様は渋い顔をしている。一方、翠泉大将は、綺麗な笑顔を洸兌様に見せながら


「後で覚えていなさい」


と呪いの言葉?を発していた。


生首の霞夜は…洸兌様を見たり涼炎様を見たりしている。翠泉大将はそんな霞夜に見られたくないのか、姿隠しの術を使って自身の姿を見えなくしていた。とんでもなくどうでもいいことにすごく高度な術を使っている…気がする。


「はる…ば?」


「そうだぜ~ここにはあんたの榛葉がいっぱいいるぜ?さあどれだよ?」


ちょっと洸兌様やめてあげてよ?生首に視線を向けられた若者たちから、悲鳴が上がっているから…。


そこへ大きな霊圧の主が現れた。


「待たせたの」


雷慈女王だった。後ろに息子の淵慈様がいる。


雷慈女王はゆっくりと元臣下の霞夜の前に立たれた。霞夜は急に静かになった。雷慈王は困ったような顔をされていた。


「お前は真面目な奴だった。お前の立案してくれる法案はとても素晴らしいものばかりだった。それは蝋慧の時に得た知識だろう?素晴らしかった…だからこそ、私は信頼したし…鱗も授けた。共に国を導いてくれると信じていたのだが、全ては己の偏愛を成就する為の画策だったのだな?」


霞夜はジッと雷慈王を見詰めていた。雷慈王は手を挙げた。すると雷慈王の手の平の上に黒い鱗が現れた。


「!」


「鱗っ…鱗を返せ…。それは俺のものだぁぁ!それで榛葉と永久にぃぃ…」


霞夜は牢屋の格子にしがみつくと、鱗の持ち主である雷慈王に唾を飛ばさんばかりに罵声を浴びせた。


雷慈王は臆することなく


「臣下の任を解く。鱗は返して貰う」


と呟いた後に掌の鱗を胸元に当てた。鱗が消えていく。雷慈王の霊力が増えた…鱗の力が戻ったのだろう。


霞夜はその様子を見て何かを喚きながら、鉄格子に頭をガンガン打ち付けていた。


雷慈王は顔をしかめると神龍王を見た。


「ひとつ聞かせてくれ、蝋慧」


涼炎様が一歩前へ出た。蝋慧はねっとりとした目を涼炎様に向けた。


「紫龍の鱗を持っていたがどこで手に入れたのだ?」


蝋慧は目をウロウロとさせた後に小さい声で呟いた。


「白龍国の不死の軍が紫龍国に攻め込んだと聞いた…そこに行けば龍の鱗が手に入ると思った。金を払って船を出した。鱗を複数手に入れることが出来れば、術具としても使える…。紫龍国には沢山の死骸があったが、鱗を探して歩いていた時にたまたま…大きな木の洞の中の死骸の首に鱗がかかっていた。男女の死骸だった。その鱗を持ち帰った」


「!」


「まさか…三鶴花と翔緋…?」


緋劉が私を見た。


「死んだ翔緋を抱えて…大きな木の根元に逃げたわ…そこで気を失った…ていうか死んだと思う」


私がそう答えると涼炎様は大きく息を吐き出した。


「恐ろしい偶然だが…運命とは恐ろしいな…」


「てか、死骸の翔緋の顔見られてなかったのかな?見られてたらやばかったな…」


「泯典っ怖いこと言うなよ!」


緋劉が泯典を睨んでいる。もし死骸が翔緋の生前の美しさを保っていたら…。思わず緋劉の手を握ったら握り返してくれた。


神龍王が一歩前に出ると蝋慧を見上げた。


「蝋慧…長い間、すまんかったの。私がもっと早くにお前を解放してやるべきだったかもしれん」


霞夜…蝋慧の足元から輝きながら、術が使われていく。呪いを祓っていく。輝きに包まれていく蝋慧は、死にたくない!助けてくれ!と叫んでいる。


矛盾している。不死になった時に、人としては死んでいるのに…。まだ死にたくないと思うのか。


やがて光に包まれて牢の中にいた蝋慧の黒い霊質は消えた。牢の中には霊力の欠片も持っていない初老の男がいる。命は助かったというが、霊質のすべてが消えていた。


あっけない。こんな普通の男が…?


あんなに何代にも渡り色んな時代の方に厄災を振り撒いておきながら、あまりにも…。


「術者の霊力が消えたので、霞夜が使った呪術はすべて解術された」


雷慈王の声にこの場に居た皆様は自然と息を詰めていたのだろう。ドッと息を吐き出す声や唸り声などが聞こえる。


皆、動き出した。蝋慧は黒龍王に狼藉を働き、国を傾かせた重罪を償ってもらわねばならない。私特製の檻に入れて星笙閣下と翠泉大将が黒龍国に連行していった。


私も緋劉と隗兌君と一緒に詰所に戻った。隗兌君はまだ試験問題集(伶 秦我中将作成)とにらめっこするつもりのようだ。


「生首に追いかけられた時に覚えてた事、恐怖のせいで全部忘れちゃった気がする」


隗兌君はまだ顔を引き攣らせていた。


「そ、そう?だったらほら、緋劉が勉強見てあげれば?あんた筆記満点でしょう?」


という訳で緋劉は隗兌君の勉強をほぼ徹夜で見てあげていたらしい。私爆睡しちゃっててすみませんね…。朝起きてきたら、若干顔色の悪い緋劉に嫌味を言われたよ。


隗兌君は何とか筆記試験に合格したようだ。次は実技試験だ。実技は10日後だ。


その日の夕方、隗兌君の筆記試験合格のお祝い会の準備をしていたら、星笙閣下と翠泉大将は蝋慧から有力な情報を聞き出して黒龍国から帰って来た。


帰られた星笙閣下と翠泉大将にお茶をお出ししている時にそう言えば…と気になっていたことを聞いてみた。


「あのずっと疑問だったのですが、霞夜はなんで生首を持ってウロウロしていていたのでしょうか?」


星笙閣下はお茶を一口飲んでからずっとお茶に目を落としていたがゆっくりと口を開いた。


「以前、不死の状態では食べ物の味が感じないと言っていたな?」


「はい」


「しかし食せば唯一、味のするものがあるらしい…それが人肉だ」


「…っ!」


「白龍王の鱗を探している時に不死の者が村を襲っていると部下が知らせてきてな、俺達が村に踏み込んだ時…白龍国の不死の者はその村の住人を食べていたんだよ。捕まえて問いただせば…何を食べても不味くて仕方ないのに人間の血肉が美味しいことに気が付いたと…血だらけの口で笑っていた…。不死とは本当に人でなくなるのだな。自分もそうだったが心底恐ろしかった。恐らく霞夜も人肉を食していたんだろう」


ひぇえええ…それは恐ろしい。この事は緋劉と隗兌君には黙っておこう。恐怖でひきつけをおこすかもしれないしね。


そして愁釉王と漢羅少尉と伶 秦我中将が詰所に来たので緊急会議が行われた。


「何だって?生首は苅中羽牟に潜伏していただと?」


愁釉王は星笙閣下の報告を受けて、眉間に皺を寄せていた。


「不死の者と言っても…我々もそうでしたが、見た目は普通の人間です。ただ体から腐臭がしますのでそれさえ消しておけば人間の中に紛れ込むのは簡単です。ただ、霞夜の申している潜伏は…どうやら国の後ろ盾で動いている節があります」


「と、言うと何か確証が出たのか?」


漢羅大尉が聞くと、今度は徐 翠泉大将が話しを続けられた。


「霞夜は紫龍国で手に入れた鱗の内、一つを使って黒龍王を閉じ込めようとしましたが、黒龍王の霊力は強く、とても鱗一つでは抑えきれない。それで致し方なく手に入れた二つの鱗を使って部屋に閉じ込めたそうです」


うんうん、成程。


「それで邪魔をしそうな黒龍王を一時的にでも閉じ込めておいて、見初めた泯典と…今度は黒龍王の鱗を使って婚姻をしようとしたが…」


「見初めたなんて言わないで下さい!気持ち悪いっ!あれは見た目は翔緋ですっ俺じゃありませんっ!」


「よせよっ泯典っ!俺でもないぃっ!」


泯典と緋劉がお互いに俺じゃないっ俺じゃないっと擦り付け合いをしている。どっちでもいいじゃないか…。


「話が進まん、静かにしろ」


椥 星笙閣下がジロッと泯典と緋劉を睨んだので二人は慌てて口を噤んだ。そうだ、静かにしろ。


咳払いをしてから翠泉大将はこう切り出した。


「泯典は霞夜に迫られて逃げ出した後、どうしましたか?」


「迫っ…もういいですけど、え~とその足で俺が黒龍国に居た痕跡を消して、紫龍国に帰ろうと思いました。もう白龍国の不死の兵と戦闘になってましたけど…俺どうしても皆の所に帰りたくて…。紫龍国から逃げて来た人の船を借りて帰りました。俺が軍人で戦いに戻ることを知っても…皆で頑張れって送り出してくれた」


ぐすん…紫龍国の皆…。


「実はな、霞夜は泯典を追いかけて紫龍国まで向かったらしい」


ひえええっ!泯典っ!?


「知らなかった…怖っ!」


「霞夜がこう証言しているのだよ。自分が泯典を探しに紫龍国に出向いた時、島の周りに苅中羽牟の船が停泊していて、彷徨い出て来た白龍国や紫龍国の生き残りの軍人を片っ端から捕らえて首を刎ねていたと…。泯典は見なかったか?」


「ええっ!」


「何だそれ!?」


皆が一斉に声を上げた。泯典は真っ青になって首を振った。翠泉大将は何度か頷いてから美麗な顔を曇らせている。


「恐ろしい所業ですが、理由はあったそうです。不死か不死の者でないか確認していたと、首を切っても死ななかった者は船に詰め込まれていた…と」


「そしてここからが重要だ」


星笙閣下が片目をぎらつかせて私達をグルリと見回した。


「霞夜も苅中羽牟の者に捕まった、そして殺されると思っていたが…どうやら違ったらしい」


「どういうことだ?」


愁釉王が問うと星笙閣下は益々目をぎらつかせた。怖いよ、星笙閣下…!


「不死の者の血肉を王族や貴族が欲しがったらしい。つまり捕まった者は王族や貴族の餌になったのだと…」


衝撃で皆、固まっていた…。


どういうことなのそれ?


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