番外編 隗兌の受難
白き龍の章スタートです。
章の初めなのに脇役の隗兌君の番外編からですみません。
宜しくお願いします^^
「ここ、答え間違ってますよ」
眼鏡の伶 秦我中将に指摘されて、問題を見直した。
「筆記試験は明日、まずは筆記に受からなければ実技を受ける事さえ叶いませんからね?」
くそう…洸兄ちゃんが夜勤の見回りとかで、いなくなったと思ったらこの眼鏡の中将が替わり来るなんてさ…サボれないじゃん。いやサボったらヤバいんだけどね。
「隗くん、もう少ししたら休憩する?」
と、美蘭姉が台所から声をかけてくれるけれど、眼鏡の中将が鋭い目で睨んでくる。ちぇ…。
「あの…手洗いに行ってきていいですか?」
俺がそう言うと眼鏡の中将はまた鋭い目をしてみてきたが、急いで席を立って廊下に出た。
「寒っ…」
廊下は人気が無くて薄暗い。夜は詰所も俺達以外はいない。ちょっとサボりたくて便所を理由に外へ出たけど、寒さで尿意を感じてしまう。取り敢えず本当に用を足してから廊下に出た。寒いけど…ちょっと気が向いてそのまま外に出て、まだ建設中の学舎寮まで近づいて寮を見上げてみた。
「さ、寒っ…。?あれ?」
もう寒いし戻ろうかと…踵を返すと、建設中の資材置き場からゆっくり誰かが歩いて来る。足を止めてその人をよく見てみた。
工事のおっちゃんかな?
雲が切れて歩いて来る工事のおっちゃんらしき人を月明りが照らし出した。
やっぱ工事のおっちゃんかな?どっかで見たことあるし…。でもおっちゃんにしては様子が…。
するとそのおっちゃんは急に走って来た?な、何だ?強烈に嫌な予感がする。そのおっちゃんは俺に向かって手を伸ばした。
反射的におっちゃんに背を向けて走り出した。
「榛葉ぁぁぁ…見つけたっぁ…!」
「…っひ!やべぇやべぇ…!」
な、なな…!あれっ!?生首おっさんじゃねええかあああ!?やべぇ、やべぇ!
俺が必死に走ると生首おじさんはついてこれなくなったみたいで、声も気配も遠ざかった。俺は物陰に急いで隠れると、腰の鞄の中をまさぐった。凛華に貰った術札…どれだ?どこだ?早くしろっっ。
「榛葉ぁぁ…」
げえぇぇ…やべぇ近づいてくる…早くっ。手が震えて術札を上手く触れない…。
生首おっさんの、はぁはぁ…という荒い息遣いが近づいて来る。焦って手が滑る。この術札だ!
「よしっ!」
俺は術札に霊力を流し込んだ。術札が光輝いた。
「どうしよう…」
俺は膝を抱えた。どうしてこうなった?顔を上げたくない。だってまだ外に生首おっさんが居て榛葉、榛葉と叫んでいる。本当にどうしてこうなった。
「術を間違えちゃったよ…」
そう…俺は反射の術と音消しと臭い消しの術札を発動したはずなんだ。なのになんで俺自身がこんな丸い檻に閉じ込められているんだ?おまけに助けを呼ぼうと伝達の術を使おうとしたら、術は発動しないし…この透明な障壁は叩いても割れないし。いやそもそも叩こうとしたら、生首おっさんが近づいてくるからあのキモイおっさんと至近距離で見つめあうとかマジで無理だし。
いや待てよ?逆にこの障壁の中にはおっさんも入れないみたいだし、俺が身動き取れなくなっただけで結果的には防御出来てるのか?
「榛葉ぁぁ…愛しい榛葉ぁ…ここから出ておいで…」
キモ過ぎる…全然防御出来てないし…。
「うるせーよっおっさん!キモイから向こう行けよ!」
俺がさっきから怒鳴っているんだけど、生首おっさんには俺の声、全然聞こえていないみたいだ。ヤバいマズイ。誰か助けてよ…。美蘭姉…。ああダメだ、こんなキモおっさんの前に美蘭姉が現れたら何をされるか…。仕方ない、俺的には頼りたくないけど…。目一杯息を吸い込んだ。
げぇぇぇ…めっちゃ臭い…。
これ不死の者の臭いか?そういえば泯典さんも最初こんな臭いしてたよな…。
ゴホゴホッ…と咳き込んでいると、生首おっさんがニヤーッと笑いながら俺を見ているのが視界に入った。キモイ!もう耐えられねぇ!
「こっ…洸兄ちゃんっっ助けて!」
俺が叫んだ後、生首おっさんが横に吹っ飛んだ。
「てめぇこの野郎!うちの隗兌になにしやがんだぁぁ!」
「兄ちゃん!」
神々しい霊質を纏って洸兌兄ちゃんが立っていた。兄ちゃんの後ろには眼鏡の中将と美蘭姉がいる。
「隗くんっ無事⁈変な事されてない?」
「姉ちゃぁん…こえぇこえぇ…よぉ。」
「これでも食らいなさい!」
眼鏡の中将は何かの術を生首おっさんに投げつけた。おっさんはその光に包まれながら、黒い鱗を取り出してきた。
「させるか!」
洸兄ちゃんが更に何かの術を生首おっさんに投げつけた。
「は…榛葉ぁぁまた私を…裏切るのか…!?」
「お前何か知らねぇのに裏切るも何もねぇだろうが!くそ野郎!」
兄ちゃん口悪い…。生首おっさんは俺と同じ丸い檻に入っていた。なるほど、本来は捕まえる為のものなのか!…自分から入っちゃって、俺ってどんくさ過ぎ…。
「お前何やってんだ?自分から捕縛檻に入ってよ?」
と、洸兄ちゃんがわざわざ指摘してきたので、恥ずかしくてつい逆ギレしてしまう。
「分かってるよ!間違えて違う術札使っちゃったんだよ!」
「もう洸ちゃんいいじゃない…ちゃんと身を守れたのよね?偉いわよ、隗くん」
檻の術を兄ちゃんが解いてくれて外に出た俺は、美蘭姉の後ろに隠れると洸兄ちゃんを睨んだ。
「しかし、やれやれですね。これで長きに渡る神龍王と黒龍王の心痛も無くなりますね」
眼鏡の中将はそう言って、まだ檻の中でキモイ事を叫んでいる生首おっさんに冷たい目を向けていた。
騒ぎを聞きつけて走ってきた警邏の人に、洸兄ちゃんは色々と指示を出している。ちぇ…やっぱ恰好いいな。俺も早く軍に入って更に禁軍に入って…兄ちゃんと同じ位置に行きたい…。よし頑張るか!




