いざ周防王救出へ
紫の龍の章はここで終了です。
涼炎様は神龍王を見た。神龍王も珍しく顔を強張らせている。
「あの雷慈の鱗を使って詠唱していた術は…永久の婚姻の術式だ。古代術式の今は龍の一族しか知らない術だ。あれは…霞夜は元は苅莫羽牟の第二王子。その目の前でその婚姻の術を私が榛葉と蝋慧王子にかけていたのを見ていたから知っていたのだろう。そして…鱗の霊力を使って泯典と婚姻の術を行おうとしたが、まさかの泯典が霊術防御を張っていて呪詛返しが起こった…結論から言うと永久の婚姻の術をかける際にそれを防ごうなどと思うものは今までいなかった。本来なら双方の合意の元、望んで行われる術式だからな」
「そうか、術を跳ね返そうなどと思うのは想定外ということですね」
翠泉大将の言葉に神龍王も涼炎様も頷かれた。
「こればかりは推測の域を出ないが、呪詛返しが起こって呪いを受けてしまったが、私達ではどんな呪いを受けたか分からない」
涼炎様の言葉にきりちゃんが手を挙げた。
「返ってきた呪詛は分かっている。不死の呪いの未完成版だ。名前があるとするなら異形の呪いだ。」
皆が息を飲んだ。今まで黒龍王の鱗を使って狙って不死になろうとしていた…と思われていた霞夜…生首だが、実際は呪詛返しを受けて、うっかりと…本当にうっかりと異形の呪いを受けてしまったということなのだ。
「完全なる不死の呪いとは違って、霞夜が口から吐いていた黒いもの…呪いの塊のようなものが媒体となって人々や獣に憑りついている…となればすべての辻褄が合いますね」
雪翔様、せっちゃんの淡々とした説明に、本当にすべての合点がいく。
「では霞夜太保は今もって雷慈王の鱗を所持している…。これも奪取しましょうか?」
星笙元帥閣下が取って来ましょうか~みたいな軽い感じで洸兌様とせっちゃんに聞いてきたので二人共若干あたふたして漢莉お姉様に目線を向けた。漢莉お姉様は二人の目線を受けて頷かれた。
「もし…良ければですけど、紫龍国の皆様全員『第壱特殊遊撃隊』に所属という形を取って、鱗の回収…そして周防王の安否確認、涼炎紫龍国の復興…私達と一緒に行いません?」
漢莉お姉様が悪戯っぽく微笑まれた。それを聞いて思わず笑顔になって緋劉を見て紫龍国の皆を見た。
「そ…それは願っても無いことであるが…良いのだろうか?」
星笙閣下が泣き笑いの顔をされると他の方も嬉し泣きをされている。そして翠泉大将も頬を染めながら、漢莉お姉様に微笑まれた。
「ありがとう、漢莉少尉、身に余る光栄であります」
「きゃあああ♡翠泉様の為に頑張って慶琉夏王と愁釉王を締め上げ…説得してきまぁすぅ!」
あれ?もしかして翠泉大将とちょっとでも長くいたい為にこんなこと思いついたのではないよね?違うよね?
漢莉お姉様はすごい勢いで部屋を出て行かれた。慶琉夏王と愁釉王を締め上げ…もとい説得して何なら、栢祁羅帝をも脅して成果を勝ち取ってくるに違いない。
「漢莉少尉は頼りになりますね~」
にっこりと微笑まれて饅頭を食べる翠泉大将…あれ?もしかしてワザと漢莉お姉様を…?まさか…。
そして暫くして漢莉お姉様に脅されたのか、顔色の悪い慶琉夏王と愁釉王が揃って詰所に現れて勅書を持って私達の前で宣下された。
「勅である。本日をもって紫龍国軍に籍を置く以下十名を我が白弦国、第壱特殊遊撃隊所属とする。行動等一応報告の義務はあるが基本各自適切に動いてくれとのことである。頼りにしておるよ、龍の戦士よ」
「ははっ御拝命賜りましてございます!」
紫龍軍の皆様は叩頭されて勅を受けられた。
「さてと、という訳でまずは優先順位の高い案件から片付けていこうと思うのだが…」
慶琉夏王はそう言って涼炎様と神龍王を見た。
「今、紫龍国の島の周りと白龍国周辺には神龍王が特殊結界を張っておられるのですよね?」
「うむ、島の中の不死の者が外に漏れ出さないように遮断している。今は不死の者はいないと見るが念の為だ。特に白龍国は山を挟んでいるとはいえ、人間の国と地続きだしな」
慶琉夏王はうむ…と顎に手を当てられた。
「それは物理結界…とはまた違うのでしょうか?」
愁釉王が涼炎様に聞かれた。涼炎様が立ち上がって…では、私がご説明を…といきなりの涼炎師範の講義が始まった。
「この遮断結界は神龍王が編み出された特殊結界です。不死の者を遮断するのと反射の術…つまり外から見えないように目隠しをするのが目的です」
「目隠し…じゃあ雷慈黒龍国が現れたり消えたりしていたのは…」
声を上げた愁釉王に涼炎様は何度も頷かれた。
「雷慈が弱りかけていたので張った結界が緩んだのだろう」
そうか…それで。島が見えたり見えなかったりしたのか…。
「不死の者は結界に阻まれて出入りは出来ぬが…存在するものを見えなくしているだけで…その場所に入れば…結界を潜りさえすれば…普通の人間なら入れるのだ」
「因みに今、その特殊結界を解いているのは黒龍国のみで、他の四ヶ国は…」
「烈騨と鏡玄は自らで張っておるな。お、なんだ?星笙申してみろ」
神龍王が促すと手を挙げていた星笙閣下は立ち上がった。
「実は鱗の行方を追ってはいたのですが、先程おっしゃっていた結界がある国には不死の我々は入り込めませんでした。つまりは我々と同じ条件下で鱗を持っている者は必然的に結界の無い他の国に潜伏していると思われます」
そうか…鱗を持った不死の者か…。
「うん、よし。鱗は広範囲に調べなければならんから取り敢えずは、まず周防王をお助けしよう。え~とこれには界渡りをする危険があり…」
「はいはいはいっ!行きます!」
まだ、慶琉夏王が喋っているのに手を挙げて叫ぶ童が三人…緋劉と空守殿下と隗兌君だ。
慶琉夏王は、一瞬言葉を詰まらせたが何事もなかったかのように話を続けた。
「界渡りについては涼炎様と神龍王が推挙される隊員で構成するように、以上」
すげえ童達をガン無視で話を収めていった。
「えぇ推挙なの?界渡りしてみたいのにぃ!」
「異世界ってどんな所なのかな?未知の術とかあるのか?」
「すげぇ魔物とかいるのかな?」
私は童三人の前に仁王立ちになった。
「あんた達、童の分際で厚かましいわよっ!危険な所かもしれないのに経験も実績もない童が偉そうに参加しようとしてんじゃないわよ!」
「こらこら凛華、一応空守殿下もいらっしゃるから不敬だからな」
愁釉王に制されて、取り敢えずは引き下がったが盛大に舌打ちをしてやった。
「そうですね、まずは界渡りを行った場所に行かねばなりませんね。異界のどこに繋がったのか…異界への穴が見つからないことには界渡りが出来ませんので…」
なんだか分からないけど、界渡りって難しいのかな…。
神龍王がではな…と言ったので皆が神龍王に注目した。
「特殊遊撃隊の者全員と…後は自由参加だな…」
「ええ?それでいいのですか?」
愁釉王がびっくりして涼炎様と神龍王を交互に見ている。
「弱った周防が界渡りをして無事に過ごせている世界だ…恐らく安全な場所だということだ。明日にでもまずは…白龍国に行くか?」
神龍王がそう言った瞬間、童三人がガバッと立ち上がったが、洸兌様に隗兌君だけ、腕を掴んで座らされていた。どうした?どうした?
「お前は明後日の入隊試験の勉強がある」
「!」
明後日ー!?おお~それはざんねーん!チラチラと隗兌君を見ると、何故か私を睨んでいて
「覚えてろよ!」
と捨て台詞を吐いていました。何故また私?
さて、次の日
洸兌様と隗兌君は明日の試験に備えて勉強をするらしい。
と言う訳で紫龍軍十名と三天王、三童と禁軍のお兄様十名と涼炎様と神龍王で周防白龍国に向かうことになった。
「じゃあ纏めて行きましょうか?」
キラッとした笑顔で翠泉大将に言われた後に、視界が急に暗くなった…と思ったら
「着きましたよ~」
という呑気な声がして顔を上げると…なんだか荒れ果てた…廃墟の前に立っていた。
「荒れ果ててますね、あ、ここが白龍国の特殊結界の前になります」
「ええええ!」
白弦国の住民は皆、絶叫していた。一瞬で来れるの?すごいね…紫龍国の軍人さん。
「龍の眷属になったからかね?格段に霊力が上がってるな~あはっ」
爽やかに星笙閣下も笑っている。本当にすごいですね、紫龍国軍は…。
「界渡りした時は周防はどこにいたの?」
涼炎様が結界を触りながら星笙閣下に聞いた。
「近くの洞窟の中です」
星笙閣下はそう言って部下の方々をみた。皆さん何度も頷かれている。
「結界の外で途方に暮れていた時に…周防王が外へ出て来られたのです。その時…不死の者に追いかけられていらっしゃいました」
「ひどい…」
思わず声を上げてしまった。
「瀕死の周防王をその大きな洞窟の中に匿って…水や食料などを差し入れました。我々の素性をお話しし不死を解いてもらおうとしましたが…先日お話した通り無理でした。と言う訳で交替で王のお世話をしながら鱗の奪取を試みました。幸いにも白龍国の周辺を鱗を持ってウロウロしている輩も多かったもので、視える目を持っている者を中心に集めた鱗を周防王に渡していきました。時間はかかりましたが三分の一ほど戻ってきたところで、結界外に居た不死の者が我々のことに感づき始めて、また周防王の鱗を狙ってきたのです」
一旦言葉を切ると星笙閣下は空を見上げた。
「周防王に結界の中に戻るよう勧めました。鱗が見つかりましたらこの洞窟まで持ってきますと言いましたが、周防王は洞窟で我々と過ごすほうがいいとおっしゃいました。恐らく怯えていらしたのでしょう…。ですがまた狙われ始めて怯えた周防王は疲弊されていましたし…このままではと王を説得して界渡りをして頂いた…と言う訳です」
「ではその洞窟へ行ってみよう」
神龍王の言葉に皆で頷くと草むらを移動した。
「なあ、何がいるのかな~異界の魔獣かな?」
「まず洞窟ですよ…!何か出て来るかなぁ」
さっきから煩いな…おい。何か出て来て真っ先に騒ぐのは童のお前達だろうが!?
特に緋劉っあんたが生首に遭遇した時に叫んだせいで私がとばっちり受けて、黒龍城の外周を走らされた恨みは忘れてないからね!
私に睨まれているとも知らずに、緋劉は空守殿下とそこらに落ちていた木の枝を拾って振り回してキャッキャッ騒いでいる。
「あそこの洞窟です」
泯典が指し示した所にはこんもりと蔦が絡まった大きな大木…しかないが?泯典は蔦を押しあげると大木に手を置いた。何か術が動く。
「私が封印しておりました。周防王がここにいらっしゃる時は不用心ですの防御していました。それにここは私達の根城でもあるのですよ」
翠泉大将が手招きされたので恐々木の根元まで近づいた。大きな洞があって、中で泯典が明かりを灯しているのが見える。洞の中は洞窟に繋がっているようだ。
「うわっすげ!」
「これは楽しみですね!」
ドンッ…ドドンッ…緋劉と空守殿下が私を押し退けて洞の中に入って行った。
ちょっと、私あなたの恋人じゃなかったっけ?永久の婚姻の相手じゃなかったっけ!?
「あんた達が未知なる生き物に頭をかじられてても、助けてあげないからねっ!」
私達は洞窟の中に入った。そこは茣蓙が引いてあるだけでこれと言った生活用品ほぼなかった。
「我々は寝ることも食べることも必要ありませんでしたからね…。さあ、この奥が周防王が普段おられた場所です」
そう言って星笙閣下が案内してくれた、洞窟の奥は大きな寝台っぽいものと食卓のようなものがある広めの空間だった。
「ん?ここだな、間違いない異界の穴がある」
「え?どこ?」
神龍王が指差す方を見るけど何も見えない…。龍には見えているのかな涼炎様が近づかれて寝台の端っこを見ている。
「ああ、ありますね。じゃあ行ってきましょうか?」
「ええ!?もう?」
もう少し心の準備が欲しい~とか思っているのは私だけか?童は兎も角、皆もう行く気満々なのか?
「では開けるぞ」
何だと!?という疑問を口にはさむ間もなく神龍王が手を何かに突っ込むとそこから光が差し込んできて、眩しさに目を瞑っていたら
「わーっ!」
と歓声が上がったので目を開けるとそこは異世界だった。……多分?
「緑も空気も…あ、水もありますね。水!美味しいよ、凛華も飲んでみる?」
「こ…こらーーっ!確かめもしないで生水を飲む馬鹿はどこのどいつだ!」
とビシッビシッと指差すと空守殿下が飛び上って直立していた。緋劉の馬鹿は知らん…腹でも壊しておけ…。
涼炎様はキョロキョロと辺りを見ている。神龍王は少し目を瞑った後
「周防、どこだ?」
と声をかけた。あ、心話だ!すると…
「うむ、分かった。待っていろ」
と言うとズンズンと小川の方へ歩いて行ってしまう。皆で後を追いかけると滝があって…神龍王は滝の裏側に入って行った。そこには…白銀色の鱗を持つ龍が横たわっていた!
「周防王!ご無事で…」
「良かった!」
涼炎様と神龍王が治療霊術をかけている。白龍はゆっくりと目を開いた。瞳も綺麗な白銀色だ。
『皆…呪いが解けたの?』
と少年くらいの声が龍から聞えてきた。私は水筒を口元に差し入れると
「甘湯です」
と周防王に語り掛けた。周防王は目を細めて(多分微笑んだ)ゆっくりと飲みほしていった。
「周防王、我々は不死の呪いを解いて涼炎王の眷属になりましたので、この鱗をお返しします。今まで守って下さって感謝致します」
星笙閣下と翠泉大将は横たわる周防王の首を優しく撫でている。あ、霊力も渡している。
『僕こそ…ありがとう。皆がいなかったらとっくに死んでいたよ…』
紫龍軍の皆は体の鱗が剥がれている所に鱗を張り付けて行く。すると、周防王の霊力が増えて行くのが視える。おおっ!凄い!
すると白龍がホワーッ明るい光に包まれて光が消えると、私と同じくらいの年頃の男の子になっていた。人化だ!
「ふぅ…霊力が戻ったから人型になれた。涼炎王、神龍王ご無沙汰しています。助かりました」
私は自身の影から(保管庫ね)熱々の卵粥を取り出すと、周防王にお出しした。
「御粥です」
「うわ…すごいね。ありがとう」
これは可愛い…と龍王に言っちゃいけないかもだけど、可愛い。ハフハフしながら御粥を食べて満面の笑みの周防王だ。
「あ~まともな食事は百年ぶりくらいかな~。美味しい!」
龍って本当に丈夫なのね。龍も弱れば死ぬよ~とか前言ってたけど少なくとも三百年くらいは飲まず食わずでも大丈夫っぽいよね。
「ねえ?もっと食べ物ない?」
流石、龍はよく食べますね!緋劉が麻袋から、天女特製の桃饅頭を取り出して渡している。
「わあ、饅頭だぁ!」
すると紫龍軍の皆様やきりちゃんまでもが、周防王にお菓子やら飯巻きなどを差し入れていた。
そうやって無事だった周防王とほんわかしている時に
白弦国の李兄弟がとんでもない恐怖にさらされていたなんて
その時は知る由もなかったのだった…。
番外編を挟んで次は白き龍の章になります
宜しくお願いします。




