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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
紫の龍
25/32

紫龍の兵と周防王


泯典は驚きで固まっていた。


「勿論私と臣下の証の術をした場合、良い面も悪い面もあるよ。不老長寿になるし、龍の能力を付与されるから身体能力も上がる。その反面私の眷属になってしまうから私が死した場合は共に倒れてしまう。周防の鱗を探すのに、呪いの体じゃ不便だろう?どうだろうか…」


「それでは、丈夫な体躯を私達に授けて下さるだけで、鱗探しをしても構わないとおっしゃるのですか?それでは臣下の証の意味はないのでは…」


涼炎王は苦笑いを泯典に向けた。


「お前達国民を苦しめて何が王なものか。もう王ではない。私にあげられるものはこの霊力くらいしかないしね」


泯典はまた叩頭した。


「涼炎王っ…お待ちください…まだお話していないこともあります。我々は長きの時に迷い…失望して、道を誤った者もおりまする。今、残っている仲間を呼びます…お願い致します。その時に沙汰を…我々に取るべき道を指し示して下さいませ!」


泯典はすぐに術で仲間の元に書簡を届けた。術式の文鳥が四方八方に飛翔して行く。


「仲間と言っても最初は五十人以上不死の状態で生き残っていたのです。残りの半分ほどは鱗を取り返す時に殺されたり、不死の体を嘆いて自ら火に飛び込んだり…自死した者もいました」


童達は寝なさい…と涼炎様に言われたので、その日は眠ることにした。


明け方…周りがバタバタしだしたので起き出すと美蘭さんが小声で


「紫龍国の軍人さん、全員集まったみたいよ」


と教えてくれた。緋劉を起こして身支度を整えると大広間に走って行った。


そこには不死になったとはいえ、私達には懐かしい上官や同僚の姿十人ばかりが集まっていた。


椥 星笙(なぎせいしょう)閣下がいるよ!」


「本当だっ!やっぱ隻眼が格好良いよな!」


おい…緋劉さんよ、見た目から入るなとあれほど…。


その隻眼で片目に眼帯をつけた黒髪の美丈夫は私達を見ると目を細めた。


「ん?お前ら…三鶴花と翔緋か?こりゃまた…」


懐かしーー!声も渋いんだよなー!不死の者でも格好良さが損なわれないっていいな!


星笙元帥閣下の横に参謀の徐 翠泉(じょすいせん)大将がいるー!黒と白の対みたいなお二人で格好いいの二倍だ。


「三鶴花さんも翔緋さんも、永久の婚姻は上手くいったようですね」


翠泉大将の優しい笑顔に涙がぶわっと込み上げる。翠泉大将は私の頭と緋劉の頭も撫でながら


「何やら苦労されたようですね、今は大丈夫なのですかね?」


と聞かれた。私も緋劉も涙ながらに答えた。


「はいっはい!」


あっと言う間に元紫龍国軍の同僚に囲まれた。


「三鶴花~お前また、チビッ子になっちゃって~」


「翔緋は頭巾被ってないじゃん!どうしたの?」


とか皆に小突かれた。泣けて泣けて仕方ない。緋劉も翔緋の時に仲の良かった夏 獏南(かばくなん)を見つけて二人で抱き合って泣いていた。


やがて、広間に涼炎(りょうか)様と神龍王、栢祁羅帝(はくぎらてい)、慶琉夏王と愁釉王…皆様が入って来られた。


閣下達は口々に「涼炎王!」「ご無事で…」「良かった…」と叫びながら叩頭されていた。私達も皆と並んで叩頭した。


「皆、久しぶりだね。私が倒れている間に本当に迷惑をかけ辛い思いをさせてしまったね。泯典から聞いてはいるが改めて話を聞いてもいいかな?椥 星笙」


「はっ。僭越ながら私がさせて頂きます」


その後、星笙閣下の話は大体が昨日泯典から聞いたことと同じような内容だった。そして新たな話としては生き残った二十名ほどの軍人の、更に半分が現在行方不明なのだそうだ。


「実は…お恥ずかしながら現在、行方不明になっている者共が周防王の鱗を持って逃亡しているのではないかと思われるのです」


徐 翠泉大将が「僭越ながら…」と口火を切られた。


「あってはならないことでありますが、逃亡しておる者達も、長きに渡り不死として人の道から外れ…心身ともに疲弊しておりますことも事実。どうか寛大な沙汰をお願いしたいと思います」


と翠泉大将は更に低く叩頭された。


鱗を持って逃走…。


涼炎様は話を聞き終ると一つ息を吐かれてから叩頭している皆に話しかけられた。


「私には逃亡したもの達を責めることは出来ないよ。私の力不足で臣下であるお前達を失望させ、行き場を失わせた。私の責任だ」


皆のすすり泣きが広間に響く。


「それでだが、泯典にも話したのだが…もしよければだが、私の鱗の力を貰ってはくれないか?」


叩頭していた軍の皆はバッと顔を上げた。


「臣下の証の儀式をした場合は私の眷属になってしまうが格段に身体能力も上がるし、不老長寿になれる。私が寿命で身罷る時は共に朽ちてしまうのが難点だが、それ以外はその力を使って自由にしてもらって良い。勿論、体に取り込まずに鱗の霊力を他のことに使ってもらってもいい」


椥 星笙閣下はワナワナと震えている。


「それはどういう意味でしょうか?」


涼炎様は辛そうな笑みを浮かべていた。


「私のあげられるものと言ったら、この鱗くらいしかないしな。今まで苦しめてきた分好きに使ってくれて構わない。もし不死から逃れたいと思うものがいるのならば、すぐに呪いを解いてあげよう」


「涼炎王っ…私達は長きに渡りこんな姿に身を落としてまでも耐え忍んで来たのは、すべて紫龍国を再興するためです!鱗とは龍の命の欠片…命を削ってまでそれが欲しいわけではありません!一言命じて下されば良いのです。私共は死せる時まで、涼炎王の臣下でありまする」


椥 星笙閣下の慟哭のような言葉に、他の紫龍国の皆、床に頭を擦りつけて懇願していた。皆号泣していた。涼炎様から困ったような、オロオロしたような霊質を感じた。


「ど、どうしたらいいんだろう…」


オロオロする涼炎様珍しい…。


「のう、涼炎」


神龍王の声が広間に響いた。


「こんなに懇願しているんだ、皆纏めて臣下に…お前の臣下にしてやれよ。皆お前の可愛い子供なのだろう?」


涼炎様の息を飲む声が聞こえた。やがて涼炎様は何とか声を絞り出した。


「また…私と…共に生きてくれるかい?」


「御意!」


皆の声が揃った。涼炎様はまた長衣で顔を隠されて泣いていた。


「翔緋もしっかりして大人になったと思ったけど…皆も大人になってるよぉぉっ…ぐすん」


「最初からしっかりした大人でしたよ!」


緋劉が真っ赤になって反論している。また一人で出来るもん!かい?


皆の笑い声が広間に響いた。


「では、鱗を使って臣下の儀をおこなうが異論はないかな?」


「御意!」


と言う訳で、私と緋劉はもう少し成長してからということで、儀式は見学させてもらうことにした。


「そうか、お前達まだ十四と十三か…まだ伸び盛りだな」


椥 星笙閣下がそう言って緋劉の頭をワシャワシャと撫でた。そして私の全身をチラチラと見た後に


「女の子ってまだ伸びるのか?」


とか結構失礼なことをおっしゃった。


「何をおっしゃいますやらっまだまだ伸びますよ!全身色々と伸びますよ!」


と私が反撃すると、星笙閣下の耳元に翠泉大将が何か囁いている。閣下は大きく頷いた。


「そうか、うん。十八才くらいまでは何とかなるかな?翔緋も手伝ってやれ、な」


星笙閣下がそう言うと禁軍のお兄様や洸兌様がゲラゲラと大笑いをされた。


な、なに?なんのこと?え?緋劉を見るとまた茹蛸みたいに真っ赤な顔になっていた。


「緋劉、なんのこと?」


「り、凛華にはまだ早い!あ、…あ…後で教えてあげるからっ!」


「後だって~」


「エロ緋劉~」


なんだろ?ものすごい野次が飛ぶ。


さてさて、大きな紫龍に戻られた涼炎様は鱗を痛そうだが、千切ると鱗に術をかけている。まずは椥 星笙閣下からだ。


「鱗を手に取って胸元に抱えて」


「御意」


何だか緊張するな…。じっと見守っていると胸に抱えた途端、閣下の体が白く輝いた。


「わっ!」


「大丈夫なのかな…」


すると光が収まると体の中の黒い霊質が消えてすごく顔色が良くなり、不死の者ではなくなった…椥 星笙元帥閣下が立っていた。


「おお…これは体が軽い。涼炎王、この身に有り余る有難き幸せに存じます」


明らかに閣下が別の者に生まれ変わったのが分かった。ここにいる皆にも分かったようだ。


「何か痛みがあるのかと身構えていたが、何もなかったな」


「へぇ~」


痛くない…と聞いた途端皆、楽しそうにソワソワし出した。


十人全員の臣下の儀が終わると流石に涼炎様は疲れたのか


「今日は訓練は休みだ、そうだ体術と霊術なら星笙と翠泉から学べ。二人は紫龍国の一番手だからな」


と言って人型に戻られると自室に戻られてしまった。


紫龍軍の一番手と聞いたからか、隗兌君と空守殿下がすっ飛んで来て閣下と大将に手合せをせがんでいる。


「ほお~坊主は白弦国の軍の採用試験を受けるのか」


と言う訳で、まずは紫龍国の剣術の一番手、星笙閣下の指南が行われた。


「そうだった…ぶっちゃけ不死の者になっているとはいえ、二百六十年間修行していたと同じことだよね」


緋劉の呟きに私も現実を見て驚愕していた。


隗兌君の剣と空守殿下の剣を片手、しかも素手で受けている星笙閣下。素手だよ?閣下の手どうなってるの?二人同時に相手をしても全然笑ってるし息も乱れてない。


「済みません、後で私も手合せを…」


「私もお願いします!」


四天王の雪翔…雪様と禁軍のお兄様まで手合せお願いしているわ。あれはすごいよね。


「いいな…俺も頼もうかな…」


「ちょっとー!脅かさないでよっきりちゃん!?いつの間に影に入っているのよ!」


「おや?面白い術ですね。どれ?」


なんと、いつの間にかきりちゃんが私の影に潜んでいた。そんな私の影に翠泉大将は片手を突っ込むと何かをゴソゴソした後にきりちゃんをプラン…と吊り下げて引っ張り出してきた。


あーそれ見た事あるー漢羅少尉もしてたよー。


「三鶴…じゃなかった凛華。この影…すでに亜空間と繋ぎ合わされていたので防腐と停止の術を施しましたので、食品とか腐りそうな物の保管庫に使って下さいね。取り出す時は、取り出す物の姿を思い出すこと」


ペラペラと翠泉大将に言われてポカンとしていると、洸兌様と空守殿下がまたすっ飛んできて私の影をガン見している。


「術式、複雑過ぎて読めん。影の中の保管庫ですか!?やべぇ俺も欲しい!」


洸兌様が目を細めて視ている横で空守殿下がまた発作を起こしてブツブツ言いながら術式を描き殴っている。


「視えますか?これですよ」


そう言って翠泉大将は術式を空中に描いてみせた。すげぇ…私でも分からない箇所がある。


何だか色々とすごいね。紫龍国の軍人は。


ちょうどいい時間になりそうなので、美蘭さんと一緒に昼食の準備を始めた。ここでまたびっくりする事実が明かされた。


「ええ!?最後に食事をしたのは、不死になる前!?てことは二百六十年前くらい?」


洸兌様がすっかり仲良くなった翠泉大将とお茶を飲みながら話している。


「お茶を頂くのも二百六十年ぶりくらいかな…美味しいね」


翠泉大将は色白のお肌を輝かせて目を潤ませている。


「不死になると欲がなくなる…っていうんですかね、腹も減らないし眠くならないんですよ。まあ死んでるからなんでしょうけど」


と、泯典が説明すると禁軍のお兄様達がへぇ~と声を上げた。


そして約二百六十年ぶりの食事にありついた紫龍軍の皆はまた泣いていた。


「美味い、味がある!前試しに飯巻き食べたけど砂みたいな味だったんだよ!甘い~辛い~味を感じる!」


と、夏 獏南(かばくなん)が肉饅頭十個目を食べている。逆に食べ過ぎでお腹壊さないかな?


少し離れた卓では洸兌様と雪様が星笙閣下と翠泉大将と周防王の鱗と苅莫羽牟の動向の情報を互いに確認していた。


「確かに残り僅かとはいえ、周防王の鱗を悪用しようとすれば苅莫羽牟と手を組んでもおかしくないな…」


星笙閣下はそう言って顎を摩っている。翠泉大将が「でしたら…」と切り出した。


「今は神龍王も谷から出て来ていらっしゃいますし、周防王の容体を一度確認してみるのは如何でしょう?幸いにも涼炎王もおられるし周防王が弱られていても何か手だてが見つかるかもしれませんし…」


「きゃあ♡そうですよねっ私も手伝いますわぁ!」


漢莉お姉様が翠泉大将の横に居座って…野太い声を上げていた。


そうだった…。漢莉お姉様、もとい漢岱少尉って線の細い美形が好きだったんだ。翠泉大将も色白の線の細い綺麗系だもんね…。でもさ、これ言っちゃあ一緒にするな!と怒られそうだけど男の好みは、あの生首と似ているね。


昼食の後片付けをしていると、涼炎様がこちらに来られたので、星笙閣下と四天王の皆様は周防王の今後の事と苅莫羽牟の事についてご相談を持ち掛けていた。涼炎様は聞きながら何でも頷いていた。


「周防の容体か…。それに関しては神龍王と私が界渡りをして周防を治療しておこう。恐らくだが、周防は界渡りをするのにも、膨大な霊力を使っているはずだ。かなり衰弱しているかもしれない。神龍王と話していたのだが龍とて万能ではない。弱れば死ぬし、食べなければ死ぬ。悲しいかな先程までは不死としてお前達が()()()()()ことが周防の存命の証しになっていた訳だが…。どうだろう?お前達に再び茨の道を歩ませることになるやもしれんが、周防の鱗の奪取を任せても大丈夫だろうか?」


星笙閣下と翠泉大将は叩頭した。


「元よりそう願い申し上げるつもりでありました。心ならずとも不死になり、周防王にお会いすれば王は鱗を剥がれ全身血だらけでありました。不死になりますと自身の霊術が一切使えず周防王の治療さえも出来ませんでした。周防王は自分が死ぬまで待て…と。辛い思いをさせて済まなかったと詫びられました。あんなお優しい龍王を見殺しには出来ません」


涼炎様は目を潤ませていた。


「周防は優しすぎるんだよね。白龍国は元々周防の父君が統治していたのだよ。父君が身罷られて跡を継いだのが周防で…まだ継いで十年も経ってなかったかな…鱗の事件が起こったのは…」


そうだったんだ…。私達がまだ隊に入りたてくらいか。


「ちょっといいっすか?」


と、洸兌様が手を挙げて涼炎様に声をかけた。


「その不死の状態の時なんですけど…今、星笙閣下がおっしゃったみたいに霊術が使えないってことは自分の霊力が無くなっているってことですか?」


星笙閣下の目線を受けて翠泉大将が代わりに答えた。


「体が死んでいる状態ですので、霊力も体内で生成されないのです。故に治療や回復術もかけても効かない。まあ不死の者は傷はすぐ治りますし、体を塵にでもされない限りは元に戻りましたが、それがどうかしましたか?」


洸兌様は首を捻ってから後ろに居る禁軍のお兄さんに聞いている。


「お前も見たよな、あの生首のおっさん…何か術を使っていたよな?」


「そうですね。あれは不死の者には違いないのですよね?」


と答えている。生首の変質者…霞夜のこと?ん?術…。


すると、ああ…と声を上げて翠泉大将が声を上げた。


「不死の者でも自身の霊力が無くとも術を使う方法はありますよ、コレです。」


と言って翠泉大将が懐から綺麗な白銀色…鱗を取り出した。これ、もしかして!


「はい、周防王の鱗です。実は百五十年ほど前に鱗を集めて周防王に渡していた時に周防王から、不死の者は術を自身で編み出せないので、これを媒体にするがいいと言われて頂いたのです。私達全員持っているのです。先程も言いましたが残りの行方不明の兵が鱗を持っているのでは…という理由はこれです」


洸兌様が唸っている。


「じゃああのおっさんが鱗を持ってて、それを媒体にして術を使ってたってことだよな」


「失礼、先程から言っておられる生首…とは何だろうか?」


と星笙閣下が聞かれたので、身の毛もよだつ蝋慧王子殿下から霞夜の代までの怖~いお話させて頂いた。(語り部:涼炎様)


紫龍軍の歴々のお兄様達も皆、顔色を悪くされていた。


「危なかったな…泯典。翔緋も頭巾の中の顔を知られなくて良かった」


星笙閣下は泯典と緋劉に気遣わしげな目を向けている。


「永久の婚姻か…しかし例え廻ったとて、片恋ならどうにもならんだろう?長く会っている間に振り向かせるつもりだったのかな?」


翠泉大将はそう言って唸っている。今日はいませんが伶 秦我中将と気が合いそうですね。


そういえば翠泉大将って分析や洞察して熟考が好きな方でしたね?こんな恐ろしい事案は分析しなくて結構ですよ…。しかし翠泉大将はまだ考え込んでいるようだ。変態の考えは凡人には分かりませんって…。


「泯典、お前その霞夜太保から詠唱の長い術をかけられそうになった…と言ったけど、その術は成功していたのかは分かるか?」


泯典は翠泉大将に聞かれて、う~んと頭を捻っている。


「術自体は…神龍術語霊術…でもないもっと複雑なものだったので私には判読は無理でした。攻撃系の術かも分かりません。術は成功っていうか、俺に向かって術が放たれたっていうか、かけられたんですが…霊物理防御障壁してたんで防げました」


「術を跳ね返した?すごいな泯典」


「そうか、それで無事だったんだ。やるなぁ」


皆が思わず笑って泯典を褒めた。


「その術は跳ね返って…失敗したのだよね。反動はあったかい?つまり霧散したか、どこかに当たったか…または呪詛返しがあったか」


皆の笑い声がピタッとやんだ。呪詛返し…。普通の攻撃霊術は障壁に弾かれると、霧散するか、または跳ね返ってどこかに当たる。


ところが暗黒霊術や呪術系統は障壁に当たって跳ね返されると…術者に返る…呪いが術者を襲うのだ。


「霞夜太保の詠唱していた術が攻撃系か暗黒か呪術か直接見ていないので我々には判別は出来ませんが、もし呪術系だとしたら、呪詛返しを受けた霞夜太保はどうなったのでしょうね」


これ…もしかして…結構重要なことじゃない?


涼炎様がポン!と手を叩いた。


「ああ、良い手がありますよ。神龍王の水晶をお借りしましょう。泯典が見たものを水晶を通して我々で見て判断すればいいのですよ」


「それだ!」


皆の声が重なった。


と言う訳で「もう帰ろうかと思ったのに…」


とブツブツ言うおじいちゃ…じゃない神龍王にお願いして水晶で泯典の見た場面を映し出すことにした。


「泯典の見た光景を思い出すのだ。相手が何か言っていたことも聞いたままを思い出すように」


泯典は水晶に手を置いた。水晶に霞夜、あの生首を持っていたおじさんが映っている。


「見えてきた…」


「間違いないな、生首のおっさんだ」


「ああっ!手に何かあれ、黒い鱗!黒龍王の…」


「ホントだ…あれ?こらっ箪笥の影で見えないぞ!」


いやいや?星笙閣下、無茶をお言いでないよ…過去の泯典は今、必死で物陰に隠れているところなんだし。


「…!ちょっと静かにっ」


涼炎様が制させて皆が口を噤んだ。水晶の中から詠唱が聞こえてくる…。どこかで聞いたことある?…未来…廻…流転…五元世界…。思わず口の中で復唱してしまう。


やがて映像では箪笥の側面しか映っていないけど、何か術が飛んで来たんだろう…ピカッと光り、泯典が小さく『ひぃ…』と叫んだ声が入っていた。


「んがああ…ああ…!おぃ…おう、くそっ、目が…ふあるばぁぁぁ…はるば…どこだぁ…うぐっ」


突然生首おじさんの絶叫が聞こえた。怖い…どうしたんだろう?


箪笥の影から泯典がゆっくりと顔を出して確認しようとしている動きと一緒になって、水晶を見ている私達も緊張しながら覗き込もうと前のめりになった。


「もがいて倒れているね…」


「これ呪詛返しにあったんじゃねーか?」


泯典がソロリソロリと箪笥の影から出て来て、壁伝いに移動する。ちょいちょい視線は扉の方に向けられている。泯典、退路を確保中だ。


そしてうめき声が一層ひどくなって泯典が生首を見た時だった。


「口から黒いの吐いてる!?」


「何アレ?」


「泯典逃げろっ!」


思わず手汗が出る。泯典はその口から何かを出しながら、はるばぁぁ、はるばぁ…と叫んでいる生首おじさんの後ろに回って扉の方へ何とか移動出来ていた。そして扉を開けた。


「急げっ!」


「早くしろ!」


過去の映像なのに皆の熱がすごい。後ろを振り向き後方を確認しながら逃げる泯典。はるばぁぁ…という雄たけびと霞夜の手が部屋から伸びている所で映像が消えた。


皆がドッと疲れて息を吐いた。


「恐ろしいな。」


「逃げられると分かってても怖すぎた。」


「あれは怖いよ、泯典よく逃げた!」


と言って私が泯典の肩を叩くと泯典は苦笑いをしていた。


「俺、覚えてなかったけど、何か口から吐いてたな?」


「呪詛返しの影響です」


涼炎様は静かに、そう答えられた。



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