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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
紫の龍
24/32

不死を弔う者

「木の陰から洸兌様をめっちゃ見てました!」


「マジで!?」


「うそ!?」


洸兌様と隗兌君の兄弟の似たような反応を受けて、神龍王は眉根を寄せた。


「危険だな…。霞夜…蝋慧王子は榛葉に妄執しておった…何せ僻地まで追いかけて、腹を刺して無理心中したそうだしな…」


「ぎゃ…」


空守公子殿下が小さく叫んだ。


「兎に角、洸兌も隗兌も一人にはならないように…よいな」


「ぎょ…御意」


栢祁羅帝(はくぎらてい)はそうお声掛けして、涼炎様と神龍王と栢祁羅帝と皇子様方が退席された。後に残った私は隗兌君に、この間描きあげた渾身の術式をあげることにした。


「隗兌君、もし生首おじさんが現れたら、この術札使って。これね霊物理防御と反射術って言って、相手から姿を隠せる術も描いてる術札なの。これでコソコソと逃げれるから、この臭い消しと音消しもついでにあげる」


「わあっ凛華!助かるよ~そんなおっさんに遭遇したくないけど助かる!…なあそのおっさんって漢岱少尉みたいな…趣味なの?」


隗兌君が声を潜めて聞いてきた。


「漢莉お姉様は好き好きとは言うけど、相手が嫌がってるのを無理やり…じゃないでしょ?あの生首は無理やりらしいわ…その榛葉って人、奥さんも子供さんもいるのに狙われたらしいわ」


「こえーっこえーっ…やばいよ」


「大丈夫よ。隗兌君の貞操の危機は私の術札で完璧に防御してあげるから」


と胸をドンと叩いた時にその手をクイッと上に持ち上げられた。


「おいチビ、お前のその術札、俺にも寄越せ」


洸兌様だった。なんでまた洸兌様が術札欲しいの?自分で対処出来ると思うけど…。


「前、その榛葉ってヤツが狙われた時に家族が狙われたって言ってただろ?だから美蘭に…」


おお?おおっ!?家族?美蘭さん?もしかして…。すると隗兌君が結構大きめの声で


「何、兄ちゃん…もしかしてとうとう…マジで!?やべぇ…紀にぃに連絡…」


と叫んだのだが一瞬で洸兌様に羽交い絞めにされていた。しかも術札を奪われていた…。


「なんだよぉ!凛華に貰った術札なのにさっ可愛い弟が狙われたらどーしてくれんだよ!」


札を取られてプリッと怒った隗兌君に空守殿下と緋劉の二人が近づいて肩を叩いている。


「隗兌、大丈夫私が特別に護衛してやるからな」


「移動する時は4人で行動するようにしよう。幸いにも術に強い凛華と空守様もいるし、俺ら体術はいけるしな。怖くないさ。な、凛華?」


空守殿下と緋劉がそう言いながら私を見たので、私はドンと胸を叩いた。


「任せといて!それに霞夜は元臣下でしょう?ものすごい剣の達人でもあるまいし怖くない、怖くない」


「あ、そうか、不死の者って強くて怖いって思ってたけど、よく考えたら俺達が戦ってたのって不死の軍人だもんな」


緋劉がそう言うと空守殿下が、あっ!と声を上げた。


「そうか、てっきり不死の者は身体能力も上がるのかと思っていたよ」


「それはないですよ~本当に不死になるだけで、運動神経の鈍い人が不死になっても鈍いままですよ」


私達はそう言いながら広間を出て遊撃隊の詰所に戻った。


台所を覗いたけど美蘭さんはいない。おや、おほほ…。


と思っていたら洸兌様と美蘭が戻って来た。おほほ…。童四人がチラチラと見ていると洸兌様は


「見てんじゃねえよ!」


と威嚇してきていた。美蘭さんは少し顔を赤らめている。まあ、おほほ。


その日の夜


神龍王は皇宮に泊って行かれるようで、お城内はその準備に結構忙しそうだった。


「凛華、緋劉…ちょっといいかい?」


涼炎様にそう声をかけられて、皇宮の客間で涼炎様と神龍王と向き合う。


「実はね、こちらの生活が落ち着いて来た後で、紫龍国の現状を確認しに行ってみようかと思ってね。今は神龍王が結界を張っていらっしゃるけど大事がなければ…見てみたいのだ。そしていずれは…一人でもいいので住みたいのだ」


「!」


緋劉も私も息を飲んだ。涼炎様は深く何度も頷いた。


「もう二百六十年近く経っているから…風化して何も残っていないだろうけど…最後まで戦ってくれた三鶴花達…軍の子達を弔いたい」


緋劉が下を向いて肩を震わせた。私は緋劉の手を握った。緋劉が握り返してくれた。うん、気持ちは一つだ。


「勿論、私達も参りますよ。決して涼炎様を一人ぼっちにはしませんから」


涼炎様は顔を覆って泣き出された。私達は涼炎様に抱き付いた。優しい霊力が私達を包む。今も昔も私達のもう一人の父はこの龍だ。


さて


童達で洸兌君を守護しよう会を結成したので、本日は皆で遊撃隊の詰所に泊まり込みをする予定だった。詰所に向かうと、隗兌君と空守殿下と凱 霧矛こと、きりちゃんが詰所の長椅子に気だるげに座っていた。


きりちゃんは考え事している(実は半分ボーッとしている)仕草は本当に格好良いんだけどね。


「きりちゃんどうしたの?」


「生首を持った変質者に狙われてる?とかで…護衛」


なんだ?その情報は。霞夜→生首を持っているおじさんかも?→生首おじさん…からこの表現に行きついたか…。まあきりちゃんが護衛なら最強に頼もしいけどね。


「すみません~今日の工事終わりましたので失礼します」


詰所の横に建設中の寮の工事に来てくれている職人のおじさん達が声をかけてきた。いつも会っているので最近じゃ顔馴染みになっている。今日は知らないおじさんも数人いるみたいだ。


「はーい。ご苦労様でした」


「おお、凛華ちゃんまたな~」


「ご苦労様です!」


隗兌君が少し年若い職人さんのお兄さんに笑顔で何か話しかけて笑っている。


ん?何か一瞬臭ったな…。クンクンと自分の服を匂う。違うな…何だろう。


職人さん達がゾロゾロと帰宅して行き、私達も寝ようかと広間に茣蓙を引いて敷布を引いていると、きりちゃんが急に立ち上がった。


「異質な霊質を感じる…」


皆に緊張感が走った。私は隗兌君の手を引いて広間の中央の茣蓙の上に座らせると布団を被せて、反射の術をかけた。


「皆も障壁に入って」


きりちゃんも皆も反射の術の中に入って来た。空守殿下が霊物理防御障壁を張り、きりちゃんが臭い消しと音消しの術を使ってくれて万全の守りの体勢になった。


皆が息を詰める。


ピタ…ピタ…。何かが廊下を歩いている。布団にくるまれた隗兌君が小さい声で「こえぇこえぇ…」と呟いている。


その時、黒い押し潰されそうな霊質を感じて「あっ!」と叫んでしまった。


「ぎゃっ」


空守殿下が叫んだ。


「脅かすなよ、凛華」


緋劉もビビったのか声が上ずっている。きりちゃんが私を顧みている。


「この黒い霊質の感じ…不死の者に似ています」


「ええ!?」


「俺視えないんだよな…」


緋劉が残念そうに廊下の先を見詰めていると、ヌッ…とそれは廊下から現れた。


「でたーーーっ!」


隗兌君が絶叫した。きりちゃんが「静かに」とたしなめた。まあ声は遮断されているからいいんじゃない?


「霞夜…じゃないね」


「ホントだね。おじさんはおじさんだけど、知らないおじさんだわ」


何だか不思議な感じだ。それは恐ろしい不死の者…だけれど私達の術のお蔭で、不死の者からはこちらは一切見えないようだ。ズルズルと部屋の中に入って来た。


「しかし臭いな…これが死臭というのか?」


空守殿下が鼻を押さえている。あのおじさんに臭い消しの術をかけたいけど、かけたら私達が潜んでいるのがバレるからここから動けない。


「どうしよう、きりちゃん?」


「泳がして尾行するか…今悩み中」


そうか…。捕まえても何もしゃべってくれない気もするし…。


「凛華…あの悪戯した時に閉じ込めるあの術…あいつに投げてくれ。不死の者なら自害は出来ないから逆に捕まえ易い」


きりちゃんにそう言われて術を練り始める。そして…まだ室内をうろつく不死のおじさんにバーンと投げつけた。


「!」


「よしっ!」


きりちゃんが素早く外に出た。私達も障壁を解いて私の術にかかっている不死のおじさんに近づいた。


うわっ臭い。すると空守殿下が臭い消しの術を使った。殿下は私を見てニヤリと笑った。


「…」


きりちゃんはじーっとおじさんを見た後に


「捕まったぞ、どうする?」


と、言った。何故そのことを聞くの?すると捕まった不死のおじさんは、グッと屈みこんだ。


「舌を切った!?」


自害!?…と一瞬思い、一歩前に動いてきりちゃんに制されて、気が付いた。


「凛華、大丈夫だよ。この人不死だから…」


緋劉の言葉通り、暫く転んでいたおじさんはゆっくりと起き上ると床に座り込んでいた。


「死んで逃げれないから、困るね」


きりちゃんはボソッと呟いた。すると、不死のおじさんは目を見開いてきりちゃんを見上げた。


「死なないって…そんなに楽しくないんじゃない?こうやって捕まっちゃうし…」


きりちゃんの言葉は不死のおじさんの心を抉ったようだ。不死のおじさんは床に突っ伏すと泣き出した。緋劉が禁軍の詰所に不死の者を捕まえた。と連絡をしに行くと慶琉夏王や愁様、四天王や禁軍のお兄様達も総出で駈けつけてくれた。


きりちゃんは、沢山の人にびびったのか、今は私の影の中に入ってしまった。


皆、不死の者を遠巻きにして様子を見ている。その時に涼炎様が一歩前へ出られた。


「私は涼炎…以前は紫龍国を導いていた者だ。お前は不死の呪いを受けているね?自分で望んでなったのかい?」


その言葉を聞いて不死の者は勢いよく顔を上げた。そして驚愕の表情で涼炎様を見詰めている。


「涼炎王!?ああ…ああ…生きておられて…」


また頭を下げて泣き出した不死の者の顔を見て、涼炎様は眉根を寄せると不死の者に近づいた。


「お前…暗部に居た泯典(みんでん)かい?」


ん?泯典!?あのぽっちゃり泯典?え?えー?


「うそーっぽっちゃり泯典!?」


「泯典が不死になっちゃってんのか!?」


私も緋劉も不死の者…泯典?に近づいた。泯典?は涼炎様と私達を交互に見ている。確かにおじさん…といっても20代半ばぐらいで、あの丸々した顔よりは少し細くはなっているが…よく見れば面影がある。


「泯典泯典、私、三鶴花よっ!あんたに男前の術をしてあげた。三鶴花」


「泯典久しぶり~俺いつも頭巾を被ってた翔緋だよ」


不死の者、泯典は目を見開いた。


「三鶴花…翔緋?…お前ら、もしかして永久の婚姻したって聞いたけど…。本当に?」


「そうそう。そのおかげで今も翔緋とつるんでるのよ」


泯典(不死の者)はクシャと顔を歪めた。そしてまた大号泣を始めた。


「やれやれなんだか分からんが、不死の者でも凶悪な者ではないのか?」


慶琉夏王が拍子抜けしたのか、詰所の長椅子に腰を落として座った。


涼炎様は泯典の体を摩りながら愁様と神龍王を顧みた。


「泯典は紫龍国で三鶴花達と同僚で暗部に籍を置いていた者です。昔から心の根の優しい子で…決して害意のある者ではありません。な、泯典?」


泯典は益々号泣している。不死の者になっちゃっている泯典…何があったんだろう。


やがて拘束を解いて…落ち着いてきた泯典がポツリポツリと話し始めた。


「白龍国が紫龍国に攻め込んで来た時に、俺、潜入捜査で黒龍国にいたんだ。基本、暗部の上官の指示が無いと動いちゃダメなんだけど、不死の者が押し寄せているし個人的にちょっと怖くて…黒龍国から早く出ようとしていたんだ」


「その時か…確かに黒龍国内で周防に通ずる不審な動きが無ければ、紫龍国の国民を安全に逃がせる段取りを組みやすくするために…と暗部を放ってはいたな」


涼炎様は頷かれた。


「個人的に怖いって何かあったの?」


わたしがそう聞くと泯典はうろうろと視線を彷徨わせた後に呟いた。


「黒龍国の政務補佐官の霞夜太保…って人が、その…気持ち悪かったんだ」


「ぎゃあ!」


童達全員が悲鳴をあげた。小さく洸兌様も悲鳴を上げたのを聞き逃しはしなかった。


「ちょっとっ泯典あんた大丈夫だったの?何かされた?まさかのぽっちゃりも好みの範囲だったとは…」


「てっきり洸兌様系列の美形を狙っていると思ってたよ、意外…」


泯典はプリッと怒った。


「お前ら昔も大概ズバズバ言う方だったけど相変わらずだな!悪かったな、ぽっちゃりで!ほら、三鶴花のくれた変化の術を潜入の時は使ってたんだよ。だけど逆にそのせいで、あんなおっさんにつけ狙われたんだけど…」


「変化の術…え?ちょっと待ってよ?確か…神龍王に霞夜が会いに来て榛葉を見つけたとか言ってましたよね?あれ確か…」


神龍王は私に頷いて見せた。


「そうだな、白龍国が紫龍に攻め込んだ少し後だな…」


緋劉と顔を見合わせてから泯典を見た。もしかして変化の術で変化した泯典に懸想をした…。てことは!


「翔緋も狙われてたの!?」


「怖いこと言うなよっ!俺は直接会ってないしっ!」


泯典がポカンとして叫んだ私と緋劉を見ているので説明してあげた。


「いや~ごめんね、泯典。まさか変質者に狙われやすい顔をあんたに与えてしまうとはさ」


「狙われやすい顔って何だよ!人聞きが悪いぞ!」


緋劉が横で叫んでいるけど無視無視。


「実は、変化の術って顔を想像しながら術を作らないと完成しない術なのよ。でね、泯典にあげた術は翔緋の顔を元に作ったの」


と言って私は隣の緋劉を指差した。緋劉はむぅ…と口をとがらせている。


「え…お前、頭巾の中はあんな美形だったの?勿体ない…なんで顔隠してたの?」


泯典は当時の私が聞きたいことを全部聞いてきた。緋劉は眉間に皺を寄せている。


「あんな顔だからさ、それこそ変なおじさんとかおばさんにもつけ回されるし…貞操の危機も一度や二度じゃないよ…」


「こえええぇ…」


後で隗兌君の声が聞こえる。


「そういう訳でね、頭巾で顔を隠してて…無口で変わったヤツだったでしょう?色々あったのよ。とにかくね、そんな美形君の顔を泯典にあげちゃったから、その霞夜にも狙われたのよね?」


私に泯典は何度も頷き、緋劉に心配そうな顔を向けている。


「あの霞夜太保…ちょっと怖いどころじゃなかったよ。異常だよ…。えっとな、確か、俺の事ハルバ?とかずっと呼んでたよ」


「やっぱり…」


「恐ろしい」


皆のざわめきに泯典も何かあったのだと気づき


「霞夜太保が何かしたのか?」


と聞いてきた。私は軽く霞夜…蝋慧王子殿下のことを泯典に話した。泯典は顔を歪めた。


「なんだそれ?その永久の…の廻りが霞夜太保なの?そりゃいかんわ…。それで翔緋が狙われたのか…」


「俺じゃないだろ!泯典だ!」


「よせよっ俺の正体はぽっちゃりだ…。実はさ黒龍国は逃げ出せたんだけど、その逃げた日にさ、霞夜太保とふたりきりにさせられちゃって…何かヤバい術をかけられそうになったんだよ」


「何!?どんな術だった?」


涼炎様と私に詰め寄られて泯典は首を捻った。


「俺、術は視るの苦手だったから分かりません。兎に角、詠唱が長いのとすごい霊力を感じたから、ヤバいと思って。太保も詠唱中は隙だらけだったから咄嗟に反射の術と無臭音の術を使って部屋の家具の後ろに隠れたんだ」


話を聞いている周りの皆から、おおー!と感嘆の声が上がる。


「そしたら、霞夜太保さ俺のこと見えなくなったみたいで…探し回って暴れてさ。なんとか隙を見て逃げたって訳。でね、そのまま紫龍国に帰ったんだけど…不死の兵士に囲まれちゃって…何とか戦ったんだけどね。ずっと戦ってたらね、自分がおかしいことに気が付き始めたんだ。さっき切られたはずなのに傷が無いって…。俺さいつの間にか不死になってたの。多分、返り血浴びちゃったからかな…ははは」


私も緋劉も息を飲んだ。そうだ、何も自分で望んで不死になる人ばかりじゃない。不死の者の血肉を食べると呪いにかかる…あれ?ちょっと待てよ?おかしくない?


「不死の呪いなら…あの泯典の呪いはおかしくないですか?だって周防王の呪い、鱗ですよね?周防王はもう亡くなってますよね…」


すると泯典が、ああ…と言って周りを見た。


「そうか周防様は周りに言っていないのか…。今ね周防様、異世界に逃げてるんだよ」


「な、何だってぇ!?」


突然の泯典の発言に皆は仰天して声を上げた。


泯典は苦笑いを浮かべていた。


「白龍国を紫龍国に誘い込むようにして不死の者を一か所に集めただろ?そして涼炎王が炎で不死の者を島ごと焼き払った…。その後に討伐の為に紫龍国軍が残った。俺もだけど…。そしてねその中には望まずとも不死になってしまって行き場の無くなった紫龍国の軍人も沢山いたんだよ。俺達さ、白龍国の不死の者を殲滅させてから…迷ったんだよ。自害も出来ない。このまま留まることも出来ない。それで白龍国の周防王に会いに行ったんだ。不死を解いて下さいってね…」


なんてこと…私達は死んでしまったけど…中には生き長らえて…まさに生き長らえてしまった軍人も沢山いたんだ。


「痛ましいな…」


愁釉王が唸るように言った。周りの方々も同じような感情の霊質を体から出している。


「島を皆で出て…周防王になんとかお会い出来たけれど、周防王も瀕死だった。体中の鱗をすべてむしられていた」


「いやっ…」


「ええっ」


「周防…」


神龍王と涼炎王が同時に呟かれた。


「周防王は鱗をすべて奪われて、俺達の不死を解く霊力も残っていない、と仰られた。いずれ自分は霊力を奪われて朽ちる。しばらく辛抱していたら死ぬからそうすれば不死が解けるから待っていてくれ…と言われたんだ。どう言う事だよ…人間の欲望のせいで鱗を奪われて自分が死ぬのを心待ちにしろなんて…誰かが死ぬのを…早く死ねばいいなんて…俺はとてもじゃないが祈れなかった」


泯典はニヤリと笑った。


「皆志は一つだった。周防王の鱗を見つけ出そう。そしてすべての鱗を見つけて晴れて不死から解放してもらおうと…俺達は動き出した。幸いにも不死の者と戦って残れるほどの腕前のやつらばかりだからな。白龍国にいる、不死の者から鱗を回収して回った」


「じゃあ、周防は無事なんだね」


涼炎様に泯典は頷き返した。


「そうか…それで白龍国にも紫龍国にも不死の者がいないのか…お前達が弔ってくれたのだな。周防の遺体が見つからないのはおかしいと思っていた。そういうことか、流石に私でも異世界までは気配を探るのを失念していたわ」


神龍王はそう言って泯典を見た。泯典は頷いた。


「白龍国に居るとまた鱗を取られかねないので、隠れる為にも異世界…に逃げておられます」


「では今、泯典が動いているのは周防の鱗を探しているのか?」


「実は白弦国にも鱗があるって苅莫羽牟に潜入した時に聞いたから、調べに来たんだ」


神龍王に話している泯典の説明にアレ?となった。 ん?おい待てよ先日の鱗の強奪事件…


「ちょっとまさか、私の胸を弄ったのあんたなの!?」


泯典ははぁ?と言いながら私の体をジロジロと見た。


「そんな棒っきれみたいな体のどこを触るんだよ?」


「ちょーーーっと!あんたぁ!?今全世界の細身女子を敵に回したわよ!」


「こらこら、落ち着け。あの犯人は苅莫羽牟だと調べはついている」


慶琉夏王がそういいながら間に入ってくれた。涼炎様は泯典の側に膝を突いた。


「本当に良くやってくれたね、周防も助かったと思う。泯典…お前の不死は私が解いてやれる。どうしたい?」


涼炎様が優しく問いかけると泯典は目を見開き目に涙を溜めると深く叩頭した。


「我儘を承知でお願い致します。周防王の鱗をすべて王にお返し出来るまでどうかこのままで…」


涼炎様は暫く思案していたが、叩頭した泯典の頭をポンと軽く叩くとこう言った。


「じゃあどうだろう。私と臣下の契りをかわしてみるかい?」



風呂敷が広がってまいりました。

しっかり畳めるか心配になっています(笑)

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