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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍
16/32

黒龍王の告白


その部屋は大きな吹き抜けの大広間だった。その部屋には大きな大きな…龍がいた…色は黒…!


「黒龍王!」


黒龍王は皆が叫ぶと大きな目を少し開けた。


『水をくれ…もうダメだ…』


きりちゃんがすごい跳躍をして黒龍王の口元に竹筒を差し入れた。そして更に術を使うと大きな水術で黒龍王の口元に水の塊をぶつけていた。


大丈夫かな…水をぶつけたりして…。


黒龍王は暫く水を舐めたりしていたが、大きく息を吐き出した。


『すまんの…もう霊力も気力も尽きかけて…動けんわ。何か食う物持っておらんか…腹が減って動けん』


「食べ物…緋劉!」


慶琉夏王の呼びかけに緋劉は麻袋を慌てて探り桃饅頭を出してきた。


「桃饅頭ならありますが…っ」


『饅頭…くれ…』


緋劉が駆け寄ったので私も一緒についていった。すると洸兌様や空守様も一緒についてきた。


「空守殿下、治療術を!」


「承知した!」


緋劉が黒龍王の口元に饅頭を差し出すと、長い舌がベロンと出て来て饅頭を巻き取って、ゆっくり咀嚼されている。


『おおっ…。美味いのぉ…実に久しぶりだ…。すまん…童』


黒龍王の体に霊力を洸兌様と空守様が流し込んでいるので、私も一緒にお手伝いする。緋劉と禁軍のお兄様達が麻袋の中から簡易食品ではあるが、干し肉や干し芋など出してきて黒龍王に渡している。


やがて…食べ物を咀嚼していた黒龍王は身じろぎすると


『すまんの皆…ようやっと動けるわ…』


と首を少し動かさせれた。


「良かった…!」


皆がドッと安堵の息を吐き出した。そして大公陛下が代表して黒龍王に向き合った。


「雷慈黒龍王、お初にお目通り致します。明歌南公国、大公の弘安(こうあん)と申します」


黒龍王は瞳を少し細めた。


『おお…対岸のかの国の者か…。それは遠路遥々良うお越し頂いた…このような姿で申し訳ない』


「いえご無理をなさいませんように…して、黒龍王…この国は、黒龍国に一体何が起こっておられるのでしょうか?」


明歌南の軍の方と禁軍のお兄様達とで大き目の(たらい)を探して持って来てくれたので、私は大量のお茶をその盥で焚くことにした。もちろん黒龍王用だ。


私は水術と火術で煮出したお茶を黒龍王にお出しすると黒龍王は多分、笑顔になられた。(龍の顔は判別不能です)


『おおっ…茶か!気が利くの。ふうぅ…。そうじゃのう…どこから話せば良いかの…』


黒龍王はお茶をゴクッと飲まれた後、深い溜め息をつかれた。ブワーッと鼻息が私の顔面にかかる。


『すべては私の慢心と人を見る目の無さが招いたことだ…。私はなこの部屋に閉じ込められてしまったのだよ』


「ええ!?」


「マジ!?」


あちこちで驚愕の叫びの後にざわめきがおこる。


「失礼ながら…黒龍王ほどの龍を閉じ込めるなどと…どのような輩が?」


大公陛下が戸惑い気味に聞くと黒龍王は目を閉じて、一呼吸置くと


『臣下の男…人間の男だ。私はその霞夜(かよ)に全幅の信頼を置いておった。それ故にあやつにしてやられた。まさか鱗を使ってくるとはな…』


と驚愕の真実を告げられた。臣下の者…。


「龍の鱗はそのような力もあるのですか?」


『うむ…そうかあれから随分年数も経っておるし…他の龍王達も隠れておるようだな…知らんのも当然か』


次々と明かされる話に皆様は驚かれているようだ。


「龍王の皆様は異界に渡られてどこかへ行かれたと…我々は伝え聞いております。隠れておいでなのですか?」


大公陛下の声が若干震えている。そりゃ驚くよ。次々歴史や伝承をひっくり返す真実を話して来るんだもんね。


『場所は言えんがの…隠れる所があるんじゃ、だが周防…白龍王は身罷られただろう…気配を感じん。周防も疲弊しておったしの…呪詛のせいでな…』


「呪詛でございますか?」


黒龍王は当時を思い出しているのか首を上げられると遠くを見ながら話し出した。


『涼炎紫龍王から心話…遠く離れておっても心で会話出来る術で話しかけられたんだ。周防白龍王が臣下の者に鱗を授けたら…他の臣下の者が自分にも下さいと言ったので…数人に渡してしまったそうな。そうすると、鱗の奪い合いが起こって…その一人が鱗を体の中に取り込んでしまったのだ、…と。周防はあれはまだ龍王になって年若い者だったので涼炎紫龍王が諌めたのだ…龍の鱗は余程のことが無い限り授けてはいかん…と』


「涼炎王…」


ぶっちゃけると私が思い出している記憶で…今の黒龍王様の話に間違いはない。緋劉と目を合わせて頷き合う。


「その鱗を飲み込んだ者はどうなったのでしょうか?」


『不老不死…になったと思われる』


「何だと!?」


「えええっ!」


皆驚いている。そりゃそうだ、秦我中将が眉唾物だっと切って捨てた伝承がまさかの本当だったとは…。


「本当にそんなモノになるのでしょうか?」


『私も最初は信じられんかったが…実は数百年に渡り、島に結界を張っていたのはその不老不死の者の侵略を防ぐためだ。殺されても死なないと言う事はもう…それも呪いの一種なんだよ。奴の体を食すると同じ呪いにかかるのだ。その呪いの軍団が涼炎紫龍国を襲ったのだ』


大広間の中は水を打ったような静けさだ。


「では、島の結界が時々解かれたりして不安定だったのは黒龍王の霊力が尽きかけていたからでしょうか?」


大公陛下に黒龍王は頷いた。大公陛下は言葉を続けられた。


「涼炎紫龍国はどうなりましたか?」


『襲ってきたやつらの目的は更なる鱗の奪取だった。涼炎王は不死の軍団と紫龍国民の前で国民を捨てて逃げた…という茶番をやって見せたのだ』


「茶番でございますか?」


雷慈黒龍王は笑った。すごい、地響きがする。


『お前達の狙う鱗はこの国には無い。遠くに逃げた…と知らしめるためだ。ところが不死の軍団共は…もはや、自制など利かなくなっていたようだ。鱗を持っていない…と訴えている涼炎紫龍国に侵攻したのだ』


思わず目を瞑った。当時の戦いの様子が思い出された。最後まで戦った…。共に翔緋と戦った。手に温もりが感じられて目を開けると緋劉が心配そうに見ていた。


「大丈夫?」


私は頷いてみせた。


『涼炎紫龍国は国民を他国に逃がし…軍人のみが前線で戦っていた。私は…その時にこの雷慈黒龍国の島に結界を張ったのだ。この島にも涼炎から逃げて来ている者が沢山おった…。いずれ涼炎を食い尽せば、他の龍の国に侵攻してくるのは目に見えていたからな』


そう…実は涼炎の軍の者には内緒にしていたが、私も翔緋も涼炎王から鱗を授けられていた。


涼炎王は長い間ご自身の番を見つけることが出来ていなかった。それ故に私と翔緋をまるで実の娘と息子のように可愛がってくれた。そして…あの婚姻の術だ。


術の事は翔緋と二人で話しあって決めた。


「私達は涼炎王より短命です。お仕えしてもすぐに離れることになる。ですがこの婚姻の術を施せば記憶をそのまま受け継いで時代が廻ってもずっと涼炎王とお会い出来ますから」


私がそう言うとあの氷の龍と揶揄されるほどの涼炎王が泣かれたのだ。


「お前達は種族は違えど私の自慢の娘と息子だ」


本当に誇らしかった。この涼炎王にお仕え出来て本当に幸せだった。


涼炎王に頼んで黒龍国に上陸してきた不死の軍団を島ごと龍の火炎で焼いてもらった…そうでもしなければ不老不死の体なんて壊すことは適わない。


涼炎王は火炎で龍の力を使い過ぎて…一旦隠れ里に帰られた。私達は焼け爛れても尚立ち上がろうとする不死の軍団の残党と最後まで戦った。


先に倒れたのは翔緋だった。彼を庇いながら戦ったけれど私も倒れた。


そしてフト…気が付いて自分の胸元の紫の鱗を見た。これがどうして雷慈黒龍国にあるのだろう…。


「お話中失礼します。私は白弦国第三皇子慶琉夏と申します」


『おぉ…白弦の…。何だろうか?』


慶琉夏王は私と緋劉をチラリと見てから、大広間に響く良いお声で話された。


「この部屋に鱗によって閉じ込められたとおっしゃっておられましたが、部屋の扉には紫色の鱗が取り付けられてありました。あれは黒龍王の鱗でしょうか?」


黒龍王は大きな瞳をスッと細められた。


『そうか…紫のか…。それはな…』


「涼炎王の龍の鱗です」


私は大きな声で二人の会話に割り込んだ。緋劉がびっくりして飛び上っている。


皆さんが驚愕の表情で私達を見ているけど、私はそのまま言葉を続けた。


「私と緋劉に臣下の印として授けて下さったもので、間違いありません」


『童…お前、涼炎の民か…いや待てよ?もしや婚姻の術を使った二人…なのか?』


「そうです。この二人はその術式で廻っております」


慶琉夏王が、驚きから復活されたのか私達を黒龍王にそう紹介した。


黒龍王がハハハ…と笑った。笑い声の風圧がすごい…。


『おお、おおっ涼炎王からお聞きしておるよ。実の娘と息子のように可愛がっておる二人が永劫廻り合って共に私の側にいてくれると言ったと…それは喜んでおったわ。童らか…。そうか…臣下の印の鱗を…廻っている時に誰ぞに取られたのではないか?』


「取られた!?」


「そうか、凛華達の手元から奪われたものか!」


周りの禁軍のお兄さん達が私の手元の鱗を見詰めて来る。


『臣下の印の鱗にも色々あってな…これは今度教えるか…』


黒龍王は盥からお茶を飲むと一息ついた。


『私もまさか霞夜(かよ)が涼炎王の鱗を持っているとは思わなくてな…完全に油断しておった。この部屋に入った時、外から錠をかけられて…あの鱗の封印をされるとは…。抜かったわ。あの鱗で私の霊術はすべて使えなくなってしまってな…外部と連絡も取れんし…』


「黒龍王ではこの部屋の封印は解けないのですか?」


緋劉は不思議そうな顔でそう聞いた。


『中々手厳しい童だな…うむ、涼炎王は現存する龍王の中で長寿で一番お強いのだ。私では敵わん』


そうなんだ…涼炎王はいつも甘味を食べては窓辺でボケーッとしている姿しか見たこと無いから、あの方強いんだ。


『すべては私が霞夜を信頼し過ぎていたせいだな…私も霞夜に臣下の印として鱗を与えていたのだ。霞夜は涼炎紫龍国に攻め込む周防の不死の軍団に対抗しようとしたのか…それとも己が不老不死になりたかったのか分からんが…私の鱗を何かに使ったのは明白だった。周りから人の気配が減って行った…この部屋の中からでも分かる…急速に命の炎が奪われて行った』


ここで大公陛下がここ数百年でおこった近隣の異形のモノの話をされた。黒龍王は項垂れていた。


『そんなことになっておるとは…。無辜の民になんと申し訳ないことよ…。よし…そうと分かれば早速呪詛を祓おう!』


「おおっ!」


「やった!」


「お願い致します!」


と、皆が歓喜の声を上げた時にグアアアアッ…と広間に響く爆音が聞こえた。


「てっ敵襲か?」


皆が慌てて武器を構えたりしていた。


『すまん…私の腹の虫だ…しかし腹が減ったの。童、もっと食い物は無いのか?』


と、ギロリと黒龍王は緋劉を見た。


黒龍王のお腹の音ですか。ものすごい爆音だったね。


「えぇ?もうお菓子の類は全部差し上げましたし~凛華どうしよう?」


って…私ぃ?ギロリと黒龍王の大きな目が私を見る。


「お城の調理場をお借りしても宜しいでしょうか?」


『よい』


私、緋劉、洸兌様、漢莉お姉様…の四人で城の調理場を探した。そしてまた更に驚愕の事実が判明した。


探し出した調理場の奥に備蓄庫のようなものがあり、その備蓄庫に入るとひんやりしていて尚且つ、食材がびっちり入っていた。もう一度言おう。無人の城に食材が腐らずにびっちり収納されていたのだ。


「嘘でしょう?え?これ…何年前の食べ物なの?」


漢莉お姉様が大瓶に入った乳を見て、匂いを嗅いで茫然としている。だが私と緋劉は驚かない。


「防腐と冷気の術で半永久的に腐らない貯蔵庫ですよ~あ…そうか、これって昔の術?」


「あ、そうか、今の時代になかったの?」


「おぃぃぃチビ~~!なんだその術!?」


洸兌様にまた頭を振り回された。


「こ…古代霊術…神龍語霊術ですよぉぉ…あ、後でぇ現代語に訳して術札描きますからぁぁ…うえっぷ…」


「何だと!?神龍語霊術だと!?」


戸口で叫び声が上がると空守様と明歌南の護衛の方が立っていた。空守様は貯蔵庫の中に飛び込んで来ると、また一心不乱に術式を紙に描き写している。


「また発作か…」


と不敬にも呟いてしまったが護衛のお兄さんに「何度も済みません…」と謝られてしまい、こちらが済みませんと心の中で謝罪した。


さあ、空守様は置いておいて…調理を始めますか!


肉類を甘辛く炊いて…飯巻きの中に具材として詰めて握って行く。漢莉お姉様が米を握ろうとしたので


「お姉様はダメです!また歯が立たない飯巻きを作るおつもりですか!?鍋を掻き回しておいて下さい!」


慌てて大勺子を押し付けた。漢莉お姉様はしょんぼりしながら鍋を掻き回してくれている。適材適所これよ、これ。


そして緋劉と洸兌様と握り終わった飯巻きを盥の中に入れて行く。


「皆様の昼のお食事もついでに握っておきましょう」


「チビ流石!おばさんは気が利くね!」


洸兌様はまたも一言余計だな…。洸兌様は手際よく飯巻きを握りながら


「どうよ?全部思い出したの?」


と、私と緋劉に聞いてきた。私は頷いた。


「はい、全て」


「じゃあしつもーん!」


「はい、どうぞ」


「何でチビ…三鶴花は緋劉の声が聞きたかったんだ?」


「あ…それですか~。昔…涼炎紫龍国で緋劉、当時は翔緋と言う名で…彼と同じ軍人でしたが、翔緋はずっと頭巾を被っていたんですよね。しかも強烈な無口で…。私翔緋ともっと腹を割って話したかったんですよね~」


「無口は兎も角、頭巾?なんでまた?」


「……」


緋劉は俯いてしまった。当時もこんな雰囲気になって何故頭巾を被っているのか?の理由は結局、最後まで聞けなかった。


「何か…顔に痣でもあって気にしているのかな…と思っていたのですが、素顔を見た事あるんですよ」


「まあ!過去の緋劉ちゃんはどんな顔だったの?」


鍋を掻き回しながら漢莉お姉様が聞いてきた。


「もう本当にびっくりするくらいの美形でございました」


「まあぁぁ♡その当時の緋劉ちゃんにも会いたいわ!」


「へぇ…それで何で頭巾なの?」


洸兌様は俯いてしまった緋劉の顔を覗き込んだ。


緋劉は絞り出すような声を出した。


「好きであんな顔に生まれた訳じゃないんです…。なのに子供の時から…女にも男にも言い寄られて、攫われたりして…」


「えええ!?」


「そりゃマズいわ…」


「まあぁぁ…なんてこと」


緋劉はやっと顔を上げた。顔色が悪い…。


「子供の時からそんなんだから…親が頭からすっぽり布を被せて顔が見えないようにしてくれてて…それでも絡まれたりしてて…逃げたり追い返していたりしてたら、やっと反撃出来るようになってきて…もしかしたら体を鍛えたらあんな変態共から身を守れるんじゃないかと気が付いて…それで軍に入隊したんです。頭巾は涼炎王様に特別に許可してもらってました。今まで黙っててゴメンなさい…」


思わず緋劉に抱き付いた。しまった、米粒まみれの手だった…。


「謝ること無いよ!それであんなに人見知りで無愛想でずっと頭巾を被ってたのね!私、翔緋って最初喋れないんじゃないかと思ったくらいだもの。それは怖かったわね…。うんうん…」


漢莉お姉様も緋劉をムギュッと抱きしめているが今回だけは見逃してあげましょう…。


さて一旦飯巻き作りを止めて、出来た飯巻きを盥に入れて大広間へ持って行った。


黒龍王の腹の虫は廊下に居ても聞こえるほど鳴っている。急ぎましょう。


『おおっおお…早う!』


「御意~~!」


盥を黒龍王の前に置くと、なんとピカーッと黒龍王が輝いて…光が消えた後には…。


妖艶な長い黒髪の…お胸がブルンと震えている…ものすごい綺麗なお姉様が床に座っていた。


「ふぅ~なんとか人型になれるくらいまでは回復したな!よしっ飯だ!」


本当に雌…女性の、女王様だったのですね。黒龍王は飯巻きにかぶりついた。


「う、美味いのっ!本当に二百五十年ぶりくらいかな?まともな飯じゃー!」


よく死ななかったね、黒龍王。龍ってしぶとい…失礼、丈夫なんだね。


見た目美女なのに両手に飯巻き…。たまに野菜のピリ辛汁をがぶ飲み…。すごい速さで召し上がられている。


私達は飯巻きとピリ辛汁を軍の皆様にもお配りした。


そして盥一杯に入っていた飯巻きはあっと言う間に無くなった。あの量の飯巻き…今の細腰のお姉様のお腹のドコに納まったのだろう…。


「よしっ少しは空腹が治まったな…」


少しは?あれで…。五十人分くらいはあったけど…。


「まずは国民の命が大事だ。時間はかかるが宜しく頼む。どれ、童らは私と来るか?」


何だって?え?何?と、キョロキョロしていると漢羅少尉が説明してくれた。


「今から俺達で声かけをして無事な国民を城内に招き入れることになったのだ。ここなら食べ物も暫くは持つしな。異形のモノを全部を浄化し終えるのに少し時間がかかる…らしいし、おまけに浄化し終わっても呪詛の大元、霞夜殿がどこかに潜んでいる可能性もある。不老不死になっているのか…それとも成り損ねて異形のようになっているのかは、黒龍王も分からんらしい。やることは沢山あるぞ」


成程、御意です!


そして禁軍組、明歌南組、そして黒龍王組に分かれて捜索を開始した。


「そもそもだな、あんな大きい鱗を喉に通そうと思うのが馬鹿だと思うのだよ。普通は喉を詰まらせて死ぬわい」


「さ、左様で…」


黒龍王の後をついて行きながら、黒龍王の愚痴に付き合う。今回、黒龍王と随行するのは私、緋劉、空守第二公子殿下と御付きのお兄様二人とこれまた何故かの凱 霧矛様の計六名。


「なんだ?童ばかりだの?」


私はそうおっしゃった黒龍王に同調してすぐに叫んだ。


「ホントですよっ童は困りますよね!ちょっと隊替えしてくれるかしら!?」


「本末転倒…今は凛華が一番の童だよ?」


ぐぬぬ…緋劉っあんた…覚えてなさいよっ。何でまた空守様とか問題児きりちゃんもこの隊なのよぅ!そう言えば緋劉も翔緋の頃は人見知りが激しくてまともに人と会話が出来ないくらいの問題児だったよね!さてはあんた達っ類友ね!


空守様は今も歩きながらブツブツ呟いて術式を描き殴っている。怖いよ…。


「何、描いてるんだろう…」


「先程視た…翻訳術だろう」


「ああ、あの多言語をすぐに翻訳して音にして教えてくれる術ですか~あれも神龍語霊術ですもんね…って…おぃぃぃい!?ちょいときりちゃんっ!何故にまた私の影の中に潜んでいらっしゃるのかなぁぁ?」


そう…きりちゃんは、童枠ではないはずの立派な大人だ。その大人様が何故また子供の影に隠れるのかな?


「童の影に隠れるなんて…ちょー格好悪いと思いませんかぁぁ!?」


私は自分の影を踏みたいけど、踏めないので気持ち、近くの地面をゲシゲシと踏みつけた。


「霧とやらの、その潜む術は面白い術よの?そう言えばこれに近い術があったな。亜空間を繋げて無尽蔵に使える…」


「あれですか!あの術は便利ですよね。俺もその術の申請してお小遣い増やそうかな…」


「新術ですって!?緋劉っどんな術ですか!」


呟いた緋劉にものすごい勢いで空守様が食いついて来た。なんかさっきからわちゃわちゃしてて、不安な面子だよ…引率してくれる大人が誰もいないじゃないか…。


「ん?あれは…」


そして、雷慈城を出て関所の外に出た所で沢山の亡くなっている人の姿に、黒龍王が気づかれた。王は足早に倒れている人に近づくと


「ああ…なんと…悔しいの…辛かったの…。すまんかったの…」


と、一人一人に声をかけながら何か術をかけられた。亡くなられた人の体が燃え上がる。黒龍王は一人一人抱きかかえながらその体を燃え上る炎の中に静かに置いていく。


荼毘に付しながら声かけをする黒龍王を私達は静かに見守った。とても入り込めない…悲しくて辛い儀式のように見えた。


「待たせたの…。のう童…ここ以外にもこのように亡骸が放置されておるのか…」


まだ燃え上り燻る荼毘に付する光景を見ながら、黒龍王は呟かれた。


「はい、いらっしゃると思います。時間はかかりますが皆さん、黒龍王にお会いしたかったと思うのです…。私もお供しますから島を巡りながら弔ってまいりませんか?」


黒龍王は目を見開き私を見た。


私は自身の過去を思い出していた。正直、涼炎紫龍国に不死の軍団が侵攻して来た時は不思議で仕方なかった。この不死の軍団は何が目的なのだろう…と。もう不老不死になっているから鱗なんて必要ないだろう?と。


紫龍国の国民を他国に移し、軍人だけが残り不死の軍団を迎え撃って戦いが始まると段々と腹が立ってきて仕方がなかった。


何故…攻撃されなければならないんだ?私達が何かしたのか?どうして戦わねばならないんだ?


この理不尽な侵攻と殺しても殺しても死なない軍隊に私の精神は…もうボロボロだった。唯一の心の支えだった翔緋を先に亡くしてしまった後は…もう鬼人か魔人のような戦い方で…自棄になりズタズタになって死んでいったのだ。


もう嫌だ…。こんな戦いもう嫌だ。誰が戦いたいと言った?もう誰も構うな…私に触れるな…。


恐らく死んだ後…私達の体は誰に弔われることもなく…あの涼炎王の火炎で焼かれて焦土になったあの島でそのまま何百年も放置されているのだろう。


そんな辛いまま…悲しみを抱いたまま置いておかれるのは辛すぎる。


涙が止まらないけど何とか言葉を紡いだ。


「忘れ去られて…そのままになんてしたくないんです…。野ざらしで…辛いですもの」


黒龍王は私を抱き締めてくれた。


「そうだの…うん、うん。私が迎えに行ってやらねばの…」


私は黒龍王の腕の中で号泣した。


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