第34.5話 120×3
「ううう……ひどい……横暴だ……」
「約束通りだろ、何言ってんだ」
昼休みに、慧たちは第二校舎のカフェテリアに来ていた。カフェと言っても、第一校舎のラウンジよりも少しオシャレな椅子とテーブルが置いてあるだけなのだが、生徒たちには人気だった。
ひとつ違う点があるとすれば、自販機の存在だった。
ラウンジには飲料の自販機しかないが、ここにはパンの自販機やアイスの自販機もあるのだ。
「じゃあ私はそのチョコミントアイスを」
遠野がお金を入れると、橘は遠慮せずにボタンを押した。
「剣持は?」
「えっと、バニラで」
遠野がバニラを買って、慧に渡す。
「うちはモナカでいいや」
とアイスモナカを買った。
「別に遠野は食べなくてもいいんだぞ?」
「二人が食べてるところを見てろと!?」
上級生の目が気になったので、アイスだけ買ったら三人はすぐにカフェを後にした。ラウンジで空いている席を見つけて、アイスを食べ始める。
「あ、テストの順位が出てる」
遠野が液晶掲示板を見上げて言った。中間試験の結果が、もう出ているのだ。
「違うテスト受けてるのに、一律で結果が出るんだね」
慧が何気なく言うと、二人が「どういうことだ?」と異口同音に聞いた。
「え? だって、先生によってテスト、違うみたいだよ」
「……言われてみれば、そうだな」と橘。「テストの上の方に、先生の名前が書いてあった」
「まー、良いんじゃない?」と遠野が気楽に答える。「だいたい似たような難しさなんでしょ? というか、剣持はよく気付いたな」
「うん。先輩が去年のテスト見せてくれて……」
慧は土日に行った勉強会のことを話した。
すると二人は、大きく口を開けた。
「去年のテスト……!?」
「そうか、先生が同じなら同じような問題が出るんだ……!!」
「その発想はなかった……!!」
慧はてっきり、どこの部活でも同じ対策をしているのかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。伊緒菜のように、いちいち先生の性格まで考えてテスト勉強する人はいないのだ。
「案外、慧も頭いいんだな」遠野がモナカで掲示板を指した。「数学も満点だったし」
三人で掲示板を見る。数I、数Aともに、第1位に剣持慧の名前があった。しかも、どちらも単独トップだ。
「満点取ったの、慧だけだってよ」
「すげえな」
二人の賛辞を、慧は素直に喜んだ。
「慧って、数学、好きなの?」
橘が聞いた。慧ははにかみながら、
「うん」
と答えた。
「どんなところが好きなの? 教えてよ」
「え、良いの?」
「『良いの?』って……変な反応だな」
慧は苦笑した。確かに変だが、それが慧の……少なくとも今までの慧の普通だった。
昼休みが終わるまでの数十分間、慧は嬉々として、数学の話をした。




