出会い
俺がスランプ気味だった頃だったと思う。
久しぶりに会心の出来だとここ最近はテンションが高かった。
今日も機嫌よく朝から仕上げの作業をしていた。
日の光に晒して隅々まで確認していた。
見る人がいたなら、時間の経過につれて眉間に皺が寄っていたのに気づいただろう。
「くそっ!」
後ろ手に剣を放り投げる。
地面に当たり、ドホッという鈍い音と共に土が飛ぶ。
「っ!」
悲鳴は無かった、が、堪えきれなかったのであろう、息を呑む音に他人の存在を感じ取った。
思えば、途中から思考の波に漂っていたのだろう。
日が落ちて、とっくに剣の端々まで最早見えていなかったのだ。
「お前は、何だ?」
俺に向かって膝をつき、頭を下げた…女?がいた。
折り畳まれた身体は妙に小さい。
「リリアンローゼです、私を弟子にしてください」
いつからそうしていたのか、最早わかりようがなかったが、1時間や2時間ではないだろう。
彼女の足は色がおかしくなっていた。
「顔を上げろ」
やわやわと顔が持ち上げられる。
人種とひとくくりにされるが、俺のドワーフと目の前の少女、---といっても見た目が年齢と一致しているかは不明だが---エルフは別の種族だ。エルフとしての美の基準はわからないが、人間やエルフにとってはそれなりの存在なのかもしれない。
がそれもどうでもいいことだ。
「お前を弟子にするつもりはない」
理由はしらないが、昔エルフとドワーフの間で何かあったらしい。
俺も散々年配のドワーフにエルフの悪しざまを聞かされて育ってきた。俺自身は別段どうとも思っていなかった。
そもそもエルフという存在を始めて目の当たりにしたのだ。
「私が、エルフだからですか」
目の前の少女はそういって俺を睨んできた。
彼女はどこぞに持っていたナイフを持ち上げ…自らの耳の付け根に当て勢い良く引き…一瞬遅れでナイフを握る手を掴んだが、彼女の金の髪と
肌を朱が染め俺の手を伝った。
「なんの…つもりだ?」
「エルフという種族を不愉快とお思いかもしれません。ですがエルフとして生まれたことを取り消すことはできません。ですから、せめてエルフの特徴である耳を切り落とすことで少しでも嫌な思いをさせないように致します。ですからどうか私を弟子にしてください」
エルフおいう種族の美しさの基準はわからないが、それでも覚悟を秘めた、少し潤んだ紫水晶の輝きは綺麗だと思った。
「馬鹿野郎が!鉄を打つ音、火の爆ぜる音。耳は勿論、目も肌の感覚も全てが必要不可欠だ!鍛冶を学ぶものが体を粗末にするな!」
瞳の威圧感に俺は思わず頬を叩いていた。
こうしてとるつもりの無かった弟子の第1号が転がり込んできたのだった。