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4『地球人のあがき』

「アンヴァス!!」


 ナイリスの芯のある声と共に、農耕地に強烈な光線が放たれた。


  パァン!!!


 耳の奥を突き刺すような破裂音が響いた。

 暗闇だった村全体が、一瞬で昼のように明るくなる。


 突如天から降ってきた光の弾に、地球人たちは大声で叫んで慌てふためいていた。


「ロッキー! そっちお願いね!」

「任せろ!」


 ナイリスが狙撃した農耕地とは逆方向に逃げていく地球人。

 その先には俺が待っている。


 俺は木の陰から出て、情けない叫び声を上げながら走ってくる地球人たちに向き合った。

 老人をおぶって走る中年の男。転び、地を這う老婆。目を見開いて泣き叫ぶ女。

 その中で、泣きながら母らしき女にしがみつく少女──と、ふいに目が合ってしまった。


──くそっ!だから嫌いなんだよ。助けを待つだけの顔が!


「全員ぶっ殺してやる!」


 右の指を二本立て、指先に魔力を集める。

 魔力が体内を通るとき、必ず痛みが生じる。俺はその痛みが嫌いじゃない。むしろ心地がいい。


「アンヴァス!!!」


 照準を定めず、群衆にめがけて狙撃を放った。

 先ほどと同じように白い光が地球人どもを包み込み、爆音と共に地球人が次々に倒れていった。


 騒がしかった空間が、一気に夜の静寂に包まれる。


 今の一撃でこの場のほとんどの地球人を葬ったようだが、まだ二人の生きた影が見えた。

 倒れた地球人の身体を抱きしめ泣きわめく中年の女と、ぷるぷると震えて立ちすくむ幼い子供──さっき目が合った少女だ。


「一撃ではいけなかったか……」

 もう一度指を立てた。

「アンヴァス」


 指先に残った微かな魔力で中年の女の方を撃つ。

 細い光線が彼女の胸を貫き、間もなく抱いていた身体に覆いかぶさるように倒れた。


「来世でも愛し合ってくれよ」


 倒れた地球人たちを踏みつけながら、次は少女のほうへ歩み寄る。

 目に涙をいっぱいに溜めながら、俺と目を合わせたまま恐怖で立ちすくんでいた。


「アンヴァス!」


 軽く撃ったが、少女はすんでのところで身をかわして逃げていった。


「ちっ。ガキは小回りがきいて困るぜ」


 少女は小さな民家の中に逃げ込んだ。もっと近い民家を素通りしたということは、ここが自宅なのだろう。

 扉はどうせ鍵を閉められているだろうから、窓ガラスを割って中を覗いた。


「おぉーい、生き延びられると思うなよー」


 少女は台所の土間にしゃがみ込み、頭を抱えて小さくなっていた。


「すまんね。俺らから逃げられはしねぇんだ」


 窓から家の中に入った。どこか、ガキの頃に住んでいた家に似ていた。

 軽く見渡していると、少女はさっと立ち上がり、右腕を前にまっすぐと伸ばした。


 その手には──銃が握られていた。


「なにお前、ガキのくせに銃なんか持ってんの。危ねえよー」


 地球人は、たまにこうやって抵抗してくる。だいたいが銃か刃物か棒でだ。

 どうあがいたって、俺たちの魔技に打ち勝つことなどできないのに。


 唯一厄介なのは銃だろうが、俺は銃弾にかすりもしたことがない。

 引き金を引かれると同時に俺が撃てばいい。

 俺の魔力のほうが銃の威力を上回っているのだから、銃弾の攻撃力を消すと共に、その先にいる地球人も同時に殺せる。


「ちょろいな」


 少女は銃口をこちらに向け、震える声で何かを必死に叫んでいた。

 悪いが俺には何を言っているか分からない。ナイリスなら理解できるかもしれんが、戦いに言葉など必要ないだろう。


 俺は少女の訴えを無視し、銃の引き金に掛けた彼女の指をじっと見つめた。魔力は指先に十分に溜めている。いつ引き金を引かれたって構わない。俺の勝ちだ。


 彼女の青い瞳からはボロボロと涙が溢れている。

 先ほどまで穏やかに眠っていたのだろう、髪は崩れ、温かそうな寝間着に身を包んでいた。


 ──ちょうどルルナと同じくらいの年齢か。


 敵を睨みつけながら震える姿が奴隷市場でのルルナと重なり、指の力がわずかに緩んだ。


 俺の隙に気付いたのか、少女は引き金を引いた。


「──ッアンヴァス!!」


 一歩遅れたが、なんとか狙撃する。


 銃口から飛び出してきた弾と俺の光線がぶつかり、いつものように破裂音と共に銃弾が爆ぜ──ない……?


「は? どういうことだ?」


 俺の狙撃によって発射された光線は、少女の撃った銃弾によって──ホロホロと分解され、消失したのだった。

 いつもなら、銃弾が爆ぜて砕け散り、俺の狙撃が威力を保ったまま銃の持ち主まで一直線に飛んでいくのに。


「俺の狙撃が──消された?」


 一瞬の静寂の後、少女が叫びながらまた引き金を引いた。


──しまった!


 不意をつかれた俺は、何とか身をかわした。しかし指先に銃弾がかすめ、激しい痛みが──なかった。


「痛くねえ……一体どういうことだ」


 銃弾は軟らかいというか、まるで空気や光のように実体のないもののように感じられた。


 ただ、猛烈な違和感を覚えた。

 銃弾がかすった指先から、魔力が消えていく感覚があった。


「なんだあの銃……気持ち悪ぃ」


 とにかくあの少女を止めなければならない。

 俺はなおも撃たれてくる銃弾を避けながら、少女の元へ辿り着いた。


「悪いがこの銃は回収するぜ」


 少女の首に手を巻きつけ、失神させた。

 力の抜けた小さな手から転がった銃を回収し、コートの内側へしまった。


「さて、次へ行かねえと……」


 俺は窓から外へ出た。俺が殺した地球人たちが重なり合うように倒れている。

 土間で失神する少女を振り返った。


 殺してやった方がいいな。


 しかし、先ほどの銃弾のせいで指先に力が入らない。


「くそっ」


「ちょっとロッキー! 何してんのー! 次行かなきゃ終わんないよ!」


 遠くからナイリスの声が飛んできた。

 宙に浮き、俺を見下ろしている。


 俺はまた少女を振り返った。


 ……くそっ。今はいい。


 舌打ちをして走り出した。


「この一帯は全員殺した! 次へ行くぞ!」

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