第60話
「ハァ、ハァハァッ……お、オイラ達の勝ち……で、いいのかな?」
始めての神化。不完全な……いや、過去に起源を持たず自らの起源という不完全な条件での神化の影響かアレスの左腕と右目は消失し、左目も微かな視力のみしか残らなかった
―これで仕留めきれなかったら俺たちの負けだ―
そんな縁起でもない言葉を吐きながらレオンは空を見仰ぎ地面へ倒れ込む
「はは……違いない」
そんなレオンの様子にアレスもまた同じように仰向けで倒れ込む
「これは世界樹の生誕の補助だけじゃわりに合わないね。向こう百年はオイラ達の役に立ってもらわないと」
―百年か……エルフの時間感覚は分かり合えないな。だが、そうもいかないのが現実だな―
「?………ッ⁉」
それは必然のことだった。神ではない人の身でありながら神の御霊へと昇華する。それに人の身が耐えられるはずなど毛頭ない。
ホロホロと砂の様に崩れていく体。それを傍目にレオンはアレスの方へと視線を向ける。
―大丈夫。俺は死にはしない。ただ、もうみんなとは会えないな……もう少しばかり子ども達の事を抱きしめてあげればよかったか……なぁ、アレス。いくつか頼みを聞いてくれないだろうか。勿論その対価も用意している―
「………相応の対価なんだろうな」
―あぁ、この先千年……いや、万年先でもお前たちエルフの国は滅ぶことなく。飢餓にも疫病にも見舞われない。人族が襲ってきたとしてもその国が亡ぶ。何不自由なく繁栄を続ける。そんな加護を授けよう―
それは正真正銘神のご加護というやつだ。それはレオンが肉体を失おうと消えることなくエルフの国を守り続ける
「ははは……それは、良いものを貰った。それで?何を望む?国の繁栄を保証されたんじゃなんでも聞くしかないよね。」
―一つは子ども達を気にかけてやってほしい。アレでもまだ、三歳にも満たない幼子だ―
子ども達へ何もしてあげられない後悔。最初こそ戦力としてしか見ていなかったが、いつしかあの子ども達へ向ける感情は父として。それはコハクへ向ける感情と同じのものに他ならなかった。だからこそ、あの子たちの傍にいてあげられないことが心残りとなってしまった
「あぁ、任せておけ。幸いエルフの寿命は長い。オイラも今の母上と同じくらいには長生きすると思う。あの子たちの相談役なら任せな」
―二つ目だが……あと数年もしないうちに東方の島国で妖狐の赤子が生まれるんだ。その子は人攫いによって奴隷にされてしまう。それを阻止してくれ―
それはレオンにとっての悲願。ローランとユーティアを救いコハクが人攫い誘拐されず血のつながった家族で幸せに暮らすことだ
「それも承知した。」
―最後に……この眼と天啓。空間転移をルーチェとナターリリアに返しといてくれ。ありがとうって言ってたってのも追加で―
自分の口で面と向かって言えなかったことは申し訳ないと思っているが状況が状況だ。許してくれと心の中で願うのであった
「全て承った。心の友よ」
―…………あぁ、心の友。あとは任せた―
そう言ってお互いの拳を突き合わせ、笑いあった。
そして、レオンというイレギュラーな存在の肉体はこの世界から消え去った
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レオンが開いた転移門の先は塔の最上階に位置する談話室だった。そこにはルニエル、ルーチェ、ナターリリアの三名がいた。アレスはそれを、視力をほとんど失った右目で辛うじて捉える
「ただいま帰りました。母様」
「………あぁ、よく頑張ったな。流石は妾の息子じゃ」
隻腕、隻眼となって帰っていた息子へどんな言葉をかけるべきなのか。それに一瞬の戸惑うも、息子の最後まで戦い抜き、勝ったというその表情を見て、帰還を労うべきだと悟る。
「あ、あのッ!」
その声の主は目を失い、何も見えなくなって尚、レオンを想いその帰りを待つ少女。
「レオンはッ⁉」
「……母様、レオンから彼女の眼を預かっています。レオンからは『頼む』と……」
「仕方がないやつじゃ……」
重い空気の中ルニエルはアレスから受け取った天眼をルーチェへと返す。
「もう目を開けても良いぞ」
「……ぁ、見える………あれ、レオンは?」
再び世界を見えるようになったルーチェは周囲を見渡すがその姿はどこにもない。ルーチェは自身の鼓動が早くなるのを感じる
「ねぇッ!レオンはどこなのッ⁉」
ルーチェの悲痛な問いかけにアレスは思わず床へと視線を落とす
「………」
“レオンの死”
その瞬間ルーチェの全身から力がすっと抜け落ち、膝から崩れ落ちる
「空間転移の女。これも君に返す」
そう言って空間転移の因子をそっとナターリリアへと手渡す。それはナターリリアの手に触れた瞬間その中へと入っていった。
「レオンの最後の言葉だ。助かった。色々とありがとう……だってさ」
その言葉を聞いた瞬間二人の瞳から大量の涙が溢れ出す。
「母様、他の者にも伝えてきます」
その言葉にルニエルは無言で頷く。それを見たアレスはその場を後にするのだった。
「………」
その光景はあまりにも異様と形容する他アレスの中で思いつかない。三者三様の魔力が力場を発生させ、片や猛吹雪の極寒。片や大洪水。片や雷が雨の様に鳴り墜ちる。三者の力場の接する一点にレオンの子たちはいた。しかし、その様子はまるでレオンの死を知っているかの様だった
「レオンの子たちよッ」
「「「……………」」」
声が届いていないのかそれともそもそも聞く気が無いのかアレスの言葉に何の反応も示さない。そこで思い出す。レオンはあの三つ子と魔力の回路を繋げていたことを。それは魔力を分かつと同時に互いの生命感知の役目を担っているといってもいい。その回路がレオンの死と共に切れたとするのであればわざわざアレスからあの三つ子へレオンの死を告げる必要は消える
「だけどなぁ……あの三つ子のこと託されたんだよな。全く、あれだけ愛されていながら途中で放棄するとかどれだけ無責任なんだ」
それはせめてもの嫌味。嫌味を言えばそれ以上の嫌味で返してきていた友へのせめてもの嫌味だ。
アレスは風と水の精霊魔法で体の表面に纏い、身体を保護した状態で三者の力場がせめぎ合う空間へ足を踏み込む。
「ぅ……グッ!」
(なんて出鱈目な魔力出力ッ……流石はレオンの子たち)
防御魔法を展開しても尚、それでも防ぎきれないその出鱈目な魔力の奔流に舌を巻く。今にも吹き飛ばされそうな足を踏ん張り、前へと足を出す
「オイッ!レオンの子たちよッ!レオンの最後の言葉を伝えに来たッ‼託されたものもあるッ!託されたいのであればこちらへ来いッ!」
「「「………ッ!」」」
その瞬間、先ほどまで垂れ流れていた魔力の一切が消え去り三つ子の姿が陽炎の如く消え去る。
「なッ⁉」
驚いて後ずさろうとするが体が動かない。
「「「早く教えて(ろ)ッ!」」」
アレスの防御魔法をすり抜け三人にガッチリホールドされたアレスは戦慄する。特にエルトロン……他二人は両腕を掴んでいる状況でエルトロンだけはアレスの首を背後からヘッドロックする形でホールドしてきたのだ
(こっわッ!………レオン。君ってやつは子どもに何教えてるんだッ)
額から死を想起させる程の極寒の汗が垂れ墜ちる
「言うッ!言うから落ち着けッ!」
その後なんとか落ち着いた三つ子にレオンから託されたことの一つ。コハクを見守ることについて伝える。それはレオンにとっての悲願。
「「「……………」」」
その後レオンから託されたことに何を感じたのか三人は徐に翼を広げ、飛び上がる。
「待てッ!」
その言葉に三つ子を止めるだけの力はない。アレスの静止などなかったかのように三つ子は飛び立った。東にある島国を目掛け…………
「まったく……父が父なら子も子だな。オイラは伝書鳩じゃないんだけどなぁ。ちょっとくらいオイラの言葉も聞いてほしかったな」
三つ子が飛び立った空を見ながら呟くのだった
最後までお付き合いして下さりありがとうございます。
この話をもって、作品『 全てを捧げた男は神の如き力を手にし、世界を統べる 』を完結させていただきます。( ;∀;)




