第55話
日が昇り、陽が沈む………そんな当たり前の日々が過ぎ、気が付けば半年が経とうとしていた。その間、レオンとルニエルはお互いの実験室から出ることはなかった。
気が付けば季節は移り変わり夕方になると少し肌寒くなり始めていた。
始めに出てきたのはルニエルだった
「おぉ~、お主らか……久しいのぅ」
艶々だった白銀の髪はボサボサのガサガサ。眼の下にはくっきりとした隈を作り、若干やつれているのかわかる
「久しぶりじゃないですよッ!半年てすよ⁉一体何をしてたんですかッ」
そんなルニエルの様子を見たナターリリアは大きな声をあげて心配する。ゆらゆらとおぼつかない足取りのルニエルを支える。もう片方の肩はルーチェが支え、用意した椅子へ腰かけさせ、温かい紅茶を用意する。
「ちょっと彼奴に頼まれて魔法をな………それで彼奴は?」
「………レオンさんはまだ出てきていません。一応ご飯は取っているので生きてはいます。」
「そうか………妾が一番乗りか」
その後話を聞きつけたランズが文字通りすっ飛んできたかと思えば庭園を水浸しにしたり、その後やってきたローズによって凍結させられたり、ローズと一緒にやってきたエルが凍結した地面ですっ転び喧嘩になったのは別のお話だ
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「それで?一体何の魔法を開発していたのですか?あなたともあろう人が半年も引きこもって開発する程のものってなんですか?」
「それは彼奴が出てきたら話してやろう。妾が言えるのは戦いのときは近いという事じゃ」
―そうだ。時は満ちた
「「「「「「ッ⁉」」」」」
それは突然だった。全員の脳に直接声が響く。その声は紛れもないレオンのものだ
「父ちゃんッ⁉」
―ごめんな。色々あって今の状態でお前たちに姿を見せるわけにはいかないんだ
「そんなッ……どういうことだよッ!」
―ごめんな………
エルの問いにレオンはただひたすら『ごめん』としか答えない。
―ルニエル。準備はできたか?
それはルニエルの脳にだけ直接語り掛ける
「問題ない。言ってみろ」
―流石エルフの女王だ。じゃあ、一つ目は古龍種と人間種でこの天空雲城全域を。二つ目は魔族で魔族領全域を覆いつくせ
「同時に二か所か。相変わらず無茶を言いよるわ」
―なんだ?できないのか?エルフの女王。ルニエル=フィ=リーフ=アウリエ
目に見えた挑発。そんな挑発にルニエルは口角が上がる
「はッ、その程度想定済みじゃ。出来るに決まっておろうがッ!」
瞬間。ルニエルから膨大な量の魔力が解き放たれる。そして、解き放たれた魔力がこの半年間で編み上げた魔法の陣へと変化していく。ルニエルを中心一つ。また一つと地面。そして、空間に描かれ始める。
「何事ですかッ⁉」
急激な魔力の高まり。その異変に気付いたユーティアとローランが中庭へやってくる
「わかりませんッ。ただ、レオンさんの声が聞こえたと思ったらルニエル様が急にッ」
「オイッ、どういうことだ!説明しろッ‼」
皆の視線がルニエルへ集まる。しかし、皆が取り乱しているうちに魔法陣は完成してしまう
「精霊天啓魔法『特定種族断絶結界』」
その瞬間。魔族領・天空雲城は世界から完全に隔離されてしまう
「……おい、何をした?」
その声は静かに中庭に響く
「無駄じゃ。この魔法は発動されたが最後。結界を解除する権限を持つのは彼奴のみ。戦いは既に始まった」
ルニエルの言葉にローズが地面にへたり込む。
「お父様は……ここにいる誰一人共に戦わせるつもりなどなかったのですね」
「クソッ‼クソクソクソッ」
バチッ
静電気が走った。全員がそれを感じ取った瞬間上空からすさまじい音と衝撃が起こる。ルニエルを除く全員が身構えるが………
「無駄と言ったじゃろう。これはお主らがここから出ないように。戦いに巻き込まれないようと作った結界じゃ。そして、この結界の動力源はお主らの父レオンの物じゃ。例え、お主らでも壊せはせぬ。ナターリリアの空間転移でものぅ」
「じゃあ……じゃあッ!このまま黙って見てろっていうのかよッ!」
「そう言っておるのじゃ」
「クソォォォォォォォッ」
エルの歯がゆい悲鳴が虚しくも響きわたるのだった…………
(すまないな。この姿は見るだけで目を焼き、脳を潰す。だから………ここからは俺一人の戦いだ)
―機は熟したッ!我が名の下に罰を下せ!聖戦の始まりだ
レオンの号令に十に分割した万を超える天使の軍勢が魔族領へと降下を開始する
(これで魔族は終わる。俺は魔王の首を取りに行こう)
ゆっくりと魔王が鎮座する魔王城へと移動を始める。それは魔族という一つの種の滅亡の始まりであり、神話の時代以来。初めて神がこの世界に降臨した瞬間だった。
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点しか魔族領へと進行してから凡そ四半刻。すでに各所では魔族の殺戮が始まっていた。抵抗するものも。そうでない者も皆等しく天使は容赦なく殺す。一秒経つごとに魔族が百人消えていく。その魂すら天使は焼き殺す。
「き、貴様はッ………」
―知らなくていい。それを知るのはお前じゃない
前の時間軸でローランを殺した四人いる魔将の第一位。しかし、それが今レオンの姿を視た瞬間に為す術なく朽ち果てる。
―ここに魔王がいるのか
禍々しく彩られた大きな扉。その奥からは確かに魔の気配が一層強く感じられる
「よくぞ来たな。神よ」
その姿は一見人そのものだが、神へと昇華したレオンの眼には形容しがたい見た目をした魔族がいた。
―この姿を視て、正気を保っていられるのか……流石は魔族の王だ。
「神に評価していただけるとは光栄だ。しかし、この力はあのお方に頂いたもの。そして、我は貴様を足止めるための駒に過ぎない」
―何?
「いくら神になったからといっても所詮元は人間という事だッ」
その瞬間無数の闇がレオンに纏いつく
―これッ⁉
「なるほど……あの方の力であれば神に触れることが出来るという事か」
『あの方』
それが誰を指すのかはもはや明白。そして、魔王の自身が駒だという発言。底から導き出される一つの結論が肉体を捨てたはずのレオンに寒気を感じさせる
―クソッ……狙いは俺の子たちかッ!
「気付いたところですでに手遅れだ」
魔王は玉座の上で高らかに笑う。
―いいや、間に合わせる。あの子たちを守る為の力だ。『雷霆』
その一撃は例え幾億の防御を重ねたとしても意味を成さない。神が罪人と見做した者への絶対の必中必殺の一撃
―死ねッ
魔王とは幾千死のうが数百年の時を超え復活する。そして、そのたびに勇者は生まれ争いが起こる。だからレオンはその運命を断ち切った。魔王の首と共に。
―次だ。『時間逆行』




