第22話
「遅い!」
黄金に輝く冠を頭に乗せ、悪趣味なアクセサリーの数々……そして、エルフ文字が掘られた指輪をはめたブクブクと肥え太った男が怒鳴る。
「本来であれば戻ってきていてもいい時間……彼女には我々でもその拘束から逃げられないほどの拘束力を有する魔具を渡したのですが。恐らくそれすら無意味なほどに強大な力を有している。という事でしょう。恐らく彼女も捕虜となった可能性が高いでしょう」
眼鏡をかけた細身でこう慎重な男は冷静に告げる。
「ったく、情けねぇ~な。だから戦闘訓練は真面目に受けとけって言ったのによぉ」
そんな男の後ろからさらにでかくて屈強な体躯をした男が発言する
「あなたのような単細胞は黙っていてください。今は私が話しているのです。」
「アァ⁉ヤんのか⁉」
眼鏡の男の一言に切れた大柄な男はメンチを切る
「まったくぅ~。男ってホント単細胞だよねぇ~」
そんな様子を見ていた中性的で整った顔立ちでフリルがたくさんついた可愛らしい衣服を身に纏った少女がキャッキャと笑いながら間に割って入る
「てめぇーは黙ってろ。カマ野郎!」
「………ッ!」
大柄な男がそう発言した瞬間。少女の顔から笑顔が消える。
「これは、まずいですね」
眼鏡の男は何を察したのかそそくさと離れ、少女と男を中心に強固な防御魔術を展開し、一つの魔石を取り出し彼らへ向けて力いっぱい投げる。それが防御魔術にぶつかった瞬間。それは跳ね返ることも中へ入ることなくどこかへ防御魔術の中にいた二人ごとどこかへ消えていった
「申し訳ございません。国王陛下。この不始末は後程……」
「よい良い。それよりもナターリリアを早う連れ戻し、かの者を我が配下へ加えよ」
「はッ!」
眼鏡の男は早々にその場から退散し、理論上エルフの魔法すらもはじき返すように開発された鍛錬場へ直行するのだった
「貴様ら、頭は冷えたか?」
「あぁ~、クソ!不完全燃焼だ……」
ボロボロの姿で地面に倒れ込む大柄な男。そして、その男の隣には……
「フフフッ。なんだかんだ言って私のこと可愛いって思ってくれてるんだ。嬉し」
汚れ一つ。傷一つついていない少女の姿が………
「クソがッ」
「喧嘩は結構ですが、時と場所を考えてください。陛下の御前だったのです」
「チッ、わかってるよ」
「はぁ~い」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……ウゥ。………ッ⁉ここは?」
目を覚まし、徐に首を左へ動かすとは殺風景な石材の壁がある。そして、反対側へ首を向けると頑丈な鉄の鉄格子が壁一面に設置されていた。天井の中央には見慣れない魔道具……魔具が置いてあり、ソレは光を放ち部屋中を明るく照らしている
「いったいどういう…ッ」
現状。己が置かれている状況を把握するため起き上がろうとして気付く。縄……しかもそれは、今回のみ使用が許可された魔具が自身に使用されているという事に
「あら、起きたんですね……」
「……あなたは、冒険協会の受付嬢さん。ここはどこなの?」
「ルーチェです。ここは彼の家……と呼ぶべき場所なのかはわかりませんが、取りあえず彼の家という事にしておきましょう。どこまで覚えていますか?私はレオンさんがキレたあたりでしっき……エヘンッ。気絶してしまってほとんど覚えていないんです」
「私も……似たようなものです」
コツコツ……
足音だ
音の方へ不自由となった体を動かし、視線を向ける。そこには、意識を失う前に対峙していた化け物がいた。その手にはトレイが乗ってあった
「起きたか……ずっと寝ていてくれても良かったけど。まぁ、飯だ。食いたくなければそこにあるゴミ箱の中に入れとけ」
そう言って墨の隅にある丸くて、片方はふさがれた筒状の物体を指さす。
「私が戻らなければ次に来るのは国家最高戦力。彼らは全力を以ってあなたを手中に収めようとする。それこそあなたの親類縁者。町に住まう人間全てを人質にしてでも………心しなさい。あなたが敵にした相手は手段を択ばないわよ」
「………ふん。なら俺が取る選択は二つだ。一つ。そのみんなをこの天空雲城に招待し、ほとぼりが冷めるまで匿う。一つ。その精鋭たちを皆殺し。そして、国王を半殺しにして脅す。」
『二度と俺に関わらないこと』を確約させる。と付け加え
「そんなことが本当に出来ると思っているの?」
「出来る?いや、やるんだよ。俺は守りたいと思ったものだけ。人達だけをこの命に代えて守り通す。それ以外死のうが苦しもうがどうでもいい。その為に力だ」
そう言って目の前で拳を握る。レオンから放たれる凄みにナターリリアは息を呑む。そして、一つの提案をレオンへ持ちかける
「もし……私の願いを聞いてくれるのなら私はあなたを全面的に協力するわ」
「どういうつもりだ?」
「私が国王陛下の親衛隊に所属しているのは単純にお給金がいいから。そして、そのお金は母の治療費。そして、弟たちの生活費なの……もし、母を治してくれるのなら、弟たちを養ってくれるのなら……私があそこにいる理由はなくなる。だから……助けて」
「……レオンさん」
「ちょっと黙ってて」
空間を移動できるというのは多少の制約があったとしてもそれを凌駕するメリットがある。今まで面倒だと思っていた依頼中の移動をコイツの天啓を用いれば大幅に時間の削減になる。それに……病気、かぁ
「母が病気だといったな?どんな病気だ?」
「ッ!魔穴不全による常時魔力欠乏症です。私が当時九歳だった時に事故の後遺症で………余命もあと半年と診断されています。魔力の欠乏が内臓にまで影響を与えているようで。」
魔穴不全か……それなら確かなんとかなったような。ふと一人の奇人の顔が脳裏に浮かぶ
「いいだろう。交渉成立だ」
「あ、ありがとうございます!今すぐ母を連れてきます。」
「いや、いい。俺が行こう。俺がベッド事担いでここまで運ぶ。その方が早い」
「……ッ。ハイ!」
そう言うとレオンはナターリリアを縛っていた魔具を解除し、手元に戻ってきたソレを懐に収める。高速具から解き放たれたナターリリアは勢いのいい返事をすると立ち上がり、何もない空間に手をかざし離れた空間同士を繋ぐための詠唱を始める。
「この先です」
ナターリリアは満面の笑みで先導するのだった




