第21話
「おぉ……完全に魔力の吸収がストップしている。つまり孵化の前兆だ。数日ぶりに地上に行ってみるか。あ、そういえばグランテさんにもルーチェにも詳しく説明していなかったな」
さて、急に足と腰が重くなってきた。
「で、でも……今急ぎで地上に戻る必要もないし。また今度に……「出来ると思っているの?」——ぇ?」
完全に庭園と化したそこで事情説明の面倒くささにたたらを踏んでいると後ろからここでは聞こえないはずの……いや、聞こえてはいけないはずの声が聞こえてくる
「すぅー……空耳って怖いな。こんなところでルーチェの声が聞こえるなんて」
駄目だ。振り返るな。ここで振り返ったら絶対に後悔する
レオンはゆっくりと歩き出し、その速度を徐々に上げる。しかし……
「ホイッ」
なんとも間の抜けた掛け声がしたと思ったら魔力の籠った何かが尋常じゃない速度で迫りくる
「ッ!」
突然の出来事に対処が遅れる。そして、気付いた時には体中に魔力とエルフ文字が掘られたロープが巻き付いていた
「これは……魔具?」
「ただの魔具じゃないわよ。これは大監獄インフェルで用いられている拘束用魔道具のモデルとなったもの。あなたのために特別に取り寄せたの。これを装着中は天啓どころか魔力すら操作できないわよ」
そんなものほいほいと取り寄せるなよ……っていうかよく取り寄せられたな。マジで魔力操作すらできないし。あ、でもこれ停滞させているだけだから操作に全集中したら魔具壊せるかも
「それで?どうやってこの天空雲城に入ってきたんだ?」
「ふふっ。それはね、この未だ世界で一人しか発見されていない『空間転移』の天啓を持つナターリリアさんと私の天啓『天眼』を駆使したの」
「ッ……」
空間転移……けど確かコイツって王国直下の精鋭部隊所属の超エリートだ。ってことはまずいなぁ。空間を自在に移動できるとなると何かあった時、居場所を掴まれていることになる………発動条件だけでも聞き出せれば
「空間転移……いい天啓だ。もしかしてそれって行ったことがない場所にも行けたりするのか?例えば……魔王がいる場所。魔王城とか」
「……いいえ、行ったことがない場所は無理です。」
言ったことがない場所は無理
「じゃあ、どうやってここを?」
そう、それが直近で気になるところだ
「あぁ、ソレは私から」
レオンの問いにルーチェが間に割って入ってくる
「私の天啓『天眼』は知っての通り……この能力を駆使して私はあなたの居場所を補足する。そして、補足した座標や距離なんかを逐一ナターリリアさんに報告。最後に、私の報告を頼りに座標指定で移動したってわけよ!」
なるほど……
「じゃあ、今すぐ二人の天啓使って魔王城まで空間を繋いでくれ……っていうのは?」
そして、先制攻撃を仕掛け魔王を殺す
これが俺の描く最高のシナリオだ。
「ソレは無理です。魔族領にはとても深い霧が渦巻いていて天眼では観測できません。よって、今回のように私の指示する座標に空間をつなげることはできません」
……勿論そんなトントン拍子にことが運ぶとは考えていなかった。ちょっとした願いを言ってみただけだ。それに、多分今の俺では勝てない。まだ俺には足りないものがある。その最たるは天啓をうまく扱えていないという事だ。ある程度まで操作・制御レベルが上がったが、ソレはあくまで表面的。百パーセントの力を発揮するにはまだ足りない
「そっか……まぁ、ソレはいい。それで?なんでその王国直下の超エリート様が俺に何の御用?」
どかっと地面に胡坐を組んで座り込みながら目の前にいる王国の犬に尋ねる
「随分な言い方ですね。言っておきますが私は国王様の命を受けてあなたのもとへ来ました。今から言う言葉は国王様の言葉と思いなさい」
そう言うと横にいたルーチェはピシっっと姿勢を正す。
そう。これこそが正しい行いだろう。しかし、レオンの中にはしこりがある。王国の頭である国王。コイツの裏の顔を俺は知っている。前世で何度も黒い噂は耳にした。国が一丸となり、魔族との戦争のために切り詰めた生活をしているなか。こいつら王族はのうのうと贅沢を満喫していた。ローランとユーティアを死地へ送り出した。王へ恨みはあるが敬う理由などクソほどもない
「勝手にしゃべってろ。言っておくが俺に権力は通じないものと思え。そして、俺に関わればお前ら犬が大切にしているゴミ国王を殺す」
威嚇。膨大な魔力を周囲へ放出し、吸い込む空気が入り込む隙を与えないほどに濃密な魔力。それに殺気を乗せ、言い放つ。
「「ッ⁉」——。」
ルーチェはレオンの放つ威嚇に耐え切れず失禁。隣で膝を付き頭を抱えるナターリリアはかろうじて意識を保てている状況。
「俺を反逆罪でお尋ね者にするか?別にそれでもいいが貴重なS級冒険者が消えて損をするのは誰だろうな」
俺は今とても悪い顔をしているだろう。自分でもそれが分かってしまうほどに怒りと憎しみに心が染まり、お門違いだろうが国王の命を受け、ここへやってきた従順な犬を圧倒しているこの状況にほんの少しだけ高揚感を抱いてしまっている
「な、何故ッ……魔力を封じているはずなのに!」
「あぁ、そうだ。念のために用件だけ伝えろ。そして、用すんだならとっとと失せろ。今度は威嚇だけでは済まさない」
ナターリリアの疑問を無視し、己の質問を強行させる
「……『冒険者設立以来史上最年少でS級冒険者に上り詰めたその実力を観てみたい。至急、我が城へ来たれ。歓迎しよう』とのことです」
固唾を飲み込み、一瞬話すべきか思案するが目の前にいるこの人間(化け物)の神経を逆なですることは得策ではないと感じたナターリリアは伝言を口にする。
「わかった……」
一言。その言葉に目を見開き。同時に安堵する。ナターリリアにとって断られるという事はすなわち『レオンを王城へ連れて帰る』という任務の失敗という事になり、もしそんなことになれば自身のエリート街道に傷がついてしまうことになるからだ。
安堵からか笑みがこぼれてしまう。しかし、そうは問屋が降ろさない
「で、では、今空間をつなぎ………」
そう言いかけたところでレオンは被せるように言葉を発する。そして、レオンを拘束していたロープをほどく
「お前が来い。そう伝えておけ」
「………ッ⁉」
発言の意味と目の前で起こっている状況に脳が理解できず、ナターリリアは一瞬惚けてしまう。が、それを理解した瞬間この世の終わりかのような表情をする。
「ちょっと面倒だったけど……エルフの魔具でも停滞化させる魔力量には限度があるか……」
「こ、こんなことをしてただで済むと……ッ!——。」
その先の言葉は言わせない。
気絶したナターリリアに魔具をぐるぐる巻きに巻き付け拘束し、その隣で大変な姿と化したルーチェともども魔力を変換して作り出した雲に乗せ塔へと歩き出すのだった
「あ、伝言どうしよう」




