22話 乗り込もう
兵士達を置いて街へ戻り、そのまま宿へ。
「ふぅ」
部屋に入ったところで、いくらか落ち着くことができた。
また襲われるんじゃないかと、ちょっとヒヤヒヤしていたんだよね。
「なに。そのようなことがあれば、我が撃退してやろう」
「あたし、新技の実験台が欲しいかな」
「気持ちはうれしいけど、やりすぎないようにね? でも、ありがとう」
「ふぁっ」
「はぅっ」
にっこりと笑うと、なぜか二人は顔を赤くする。
「……ねえねえ、ルシファル様。カイ君の笑顔って、やばくない? 激やばじゃない?」
「……そうだろう、そうだろう? あの笑顔を見ていると、我は悪魔なのに魂を持っていかれそうになるのだ」
「どうしたんですか? 突然、こそこそと」
「あ、いや。なんでもないぞ、なんでも」
「そうそう、気にしないで」
「?」
二人がそう言うのなら、気にしないでおこう。
それよりも、今は考えなければいけないことがある。
「これからどうするか」
バーンクレッド家のことは気にしないで、ルルとミリーと三人でのんびり旅をする。
他国へ行けば、さすがに追ってこられないだろう。
もう一つの選択肢は、バーンクレッド家に乗り込む。
今回、兵士が派遣されたのは、たぶん、ドロイドとドロッセルの仕業だろう。
以前の復讐のため、僕を捕まえようとしたに違いない。
あるいは、父親が……
どちらにしても、ずっと狙われるかもしれない。
それならいっそのこと、こちらから乗り込んで問題を解決するべきかもしれない。
「うーん」
悩ましい。
どうするべきか即断できず、思考をぐるぐると巡らせてしまう。
「「……」」
ルルとミリーはなにも言わず、見守ってくれている。
僕の考えを尊重しようとしているのだろう。
二人はとても優しい。
バーンクレッド家に乗り込むとなると、ルルとミリーを巻き込んでしまう。
でも、そういう考えは遠慮ではなくて信頼していない証ということで……
さきほど、二人に怒られたばかりだ。
なら、僕は……
「……ルル、ミリー。聞いてください」
「うむ」
「ええ」
「本当なら、バーンクレッド家は無視して、さっさと他国へ逃げてしまうのが一番だと思います。そうすれば、もう手を出してこないと思うので」
その場合、この国に戻ることはできなくなる。
そして、母さんの墓参りに行くこともできなくなる。
ただ、それ以上に……
「でも僕は……バーンクレッド家の問題をこのまま放置しないで、きちんと解決しておきたいです。後々に大きな問題に発展する可能性もありますし、それと、これは完全に私情なんですけど……父にどうしても尋ねたいことがあるんです。だから……」
「うむ、了解したのだ!」
「おけまる」
それ以上言わなくてもいい、という感じで、ルルとミリーは笑顔を作る。
その笑顔は優しくて。
そして、太陽のように温かくて。
僕は……うん、本当に幸せ者だ。
「バーンクレッド家に乗り込もうと思います」
――――――――――
エルクリーゼ王国。
四方を陸地に囲まれた小国だ。
歴史を振り返ると、多くの侵略を受けてきた。
その度に国土が削り取られ、今は全盛期の半分。
ただ、巨大な国土を誇る帝国と同盟を結ぶことで、それ以上の減衰はおさえられた。
……同盟ではなくて、事実上の属国扱いとなっているが、そこは割愛しよう。
バーンクレッド家は、エルクリーゼ王国の要と言ってもいい貴族だ。
主に国防を担い、軍事力を持つだけではなくて、外交の手腕にも長けている。
そんなところに乗り込むとなると、相応の準備が必要だ。
必要なのだけど……
「準備? そんなものはいらないのだ。我を誰だと思っている? かつて魔界を統一して、世界を恐怖と混沌に陥れた大悪魔、ルシファル様なのだ!」
「人間ごとき、敵じゃないわね。万がいたとしても、あたしの一撃で壊滅よ!」
「えっと……」
二人共、聞く耳を持ってくれない。
真正面から突撃した方が手っ取り早いと、そう言う。
「さすがに、策もなしの真正面からの突撃はやめておきましょう」
「なぜだ?」
「なんでよ?」
「ルルとミリーの力を疑っているわけじゃないんです。確かに、二人がいればなんとかなるかもしれない。でも、もしかしたら怪我をするかもしれないわけで……その可能性を考えると、無茶はしたくないんです。なによりも、ルルとミリーのことが大事なので」
「「……」」
二人の顔が赤くなり、視線が泳ぐ。
わかりやすく照れていた。
かわいい。
「まずは、こっそり潜入する方法を考えましょう」
「ふむ」
「例えば……そうですね。夜に潜入して、誰にも見つからず父の部屋へ。そこで目的を果たして帰る、というのがベストですね」
「そんなにうまくいくかしら?」
「難しいと思います。ただ、努力を重ねて知恵を絞ることで、ベストに近づいていくことは可能なはずです」
「ふむ、一理あるな」
「ま、あたしはそれでいーよ」
「じゃあ、考えましょう」
そうして、僕達はああでもないこうでもないと、一晩中話し合いを重ねるのだった。
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